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第八章

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 ひたすらポージングする暑苦しい門番兄弟を目の端に、カルニヴァ国への入国意義を改めて問われ、
「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」
 心情的な部分で即答できない勇者組と天世の二人。
 カルニヴァ王との謁見とは、別の話で。

 その様子に、

『『のふぉ?!』』

 見知らぬ優男(やさおとこ)から「卑下された」と感じる門番兄弟。
 神経図太いようでありながら、細やかなようで、

『勇者殿の御連れでぇ手加減も考えていたでアールがぁ!』
『キサマには我らの筋肉でぇ教育が必要なのでアールゥ!』

 怒り心頭な御様子で掴み掛かろうとしたが、

『ちょぉーーー待つしぃ!』

 間に割って入ったのは、リンドウ。
 いきなりの横槍に、

『『?!』』

 門番兄弟は驚いて動きを止め、大の男たちを手玉に取った気分の鼻高々リンドウを、
「「…………」」
 急激に取り戻した冷静で見下ろしながら、

「「このケバケバしいチンチクリンは何でアール???」」

 奇怪な生き物でも見つけたような、不思議顔をした。
 その「鳩が豆鉄砲を食ったような顔」と「拍子の抜けた声」に、思わず「プッ」と吹き出し笑うゴゼンと、咄嗟に背を向けるヒレン。
 背を向けたのは「リンドウを一応気遣った」のか、それとも笑いを堪える変顔を隠したのか不明であるが、向けられた背は、

「…………」

 小刻みに揺れていた。
 ラディッシュたち勇者組も、

《笑ってはリンドウに悪い……》

 門番兄弟の反応に覚えた笑いを必死に堪えて居ると、

『ダレがぁケバイちんちくりん、しぃーーーッ!!!』

 リンドウ大噴火。
 彼女の心情を想えば、怒りも当然である。

 一見すると派手に見えるメイクもファッションも、言葉遣いさえも、元老院や百人の天世人の中で蠢く魑魅魍魎たちと目には見えぬ丁々発止を散々繰り広げ、培って来た、彼女なりの戦闘スタイルなのだから。
 数分後、

「「たぁ……タイヘン失礼したのであーる……りんどうさまぁ……」」

 大きな体を小さく縮め、静々と門を開ける門番兄弟。
 見るも無残に、顔を腫れさせ。
 一方で、息も切らさず着衣の乱れすら無く、

『分かったらぁ早く開けるのしぃ!』

 不機嫌収まらぬリンドウ。
 如何な「中世のチカラ自慢」と言えど、百人の天世人の序列二位を相手に敵う道理は無いのである。
 リンドウ曰く「御仕置き」と称する、殴る、蹴る、散々した後にされたネタバラしに、

『『!!!』』

 満身創痍で平謝りした門番兄弟。
 報告を受けた現王カルニヴァは、

『ハーーハッハッハッ!』

 玉座の手すりを叩いて大笑い。
 笑い過ぎの涙が止まらぬまま、

『いやぁはやぁ配下が失礼致した天世の方々よぉ♪』

 形ばかり跪く天世の三人を前に、
「詫びと言っては何だがぁ、今宵は盛大な宴を用意させよぅ♪」
 宮廷料理の大宴会と聞き、

「「♪♪♪」」

 すっかり機嫌を良くするリンドウと、男尊女卑の色濃い国に塞ぎがちであったヒレン。
 二人の態度の現金な豹変に、ラディッシュたち勇者組が苦笑する中、

『むさっ苦しい漢ばっかりぃのぉ~?!』

 不平、不満を口にしたのは、やはりゴゼン。
 何処までも自身の欲望に忠実な姿勢に勇者組は思わず笑ってしまったが、天世の女子二人は同胞の再びの「恥曝し」に、

((この女タラシはぁ!!!))

 怒りを新た、

((説教タイム(しぃ・よぉ)!))

 頭ごなしの文句を雨あられと、降り注ごうとした。
 しかし、

「「!?」」

 察したカルニヴァ王がそれを手で制し、ニッと笑ってゴゼンを見据え、

「我が婚約者にも良い顔をされぬが「漢ばかりの酒宴」と言うのも、存外悪くないモノ」なのですぞ、ゴゼン殿よぉ♪」

 不敬に腹を立てるどころか、敬遠されることには慣れている様子で愉快気に「ハッハッハッ」と笑って見せた。

 ようは「気に入られた」のである。

 ネチネチとした腹の探り合いが嫌いなカルニヴァ王にとって、良くも悪くも裏表を感じさせないゴゼンは、むしろ好感を以て迎えられたのであった。
 それでも、

「えぇ~~~?!」

 露骨に訝しんだ顔をしたが、いざ蓋を開けてみれば、

『ウヒャハァホォーイ♪ 漢だらけのぉ飲み会サイコゥョウーーー♪』

 恋の駆け引きや、斜に構える必要も無い酒宴を思う存分に堪能。
 陽気に飲んで歌って、踊って、飲み食いしまくり。

 挙句はカルニヴァ国の王やゴツイ兵士たちに混ざり、半裸状態に。

 彼は地球で言うところの「脱衣じゃんけん」に、大はしゃぎであった。
 漢だらけのバカ騒ぎに、

「「「「「「「…………」」」」」」」

 冷めたジト目を向けるリンドウ、ヒレン、勇者組の女子たち。
 早々に見切りをつけた様子で、

《この国から学ぶ事はなさそうだわ》

 飲食に徹していた時、ラディッシュとターナップの男子二人は、
((…………))
 ドロプウォートとパストリスの目を気にして、女子組と大人しくテーブルを囲んでいたが、その心の内では、

((楽しそうだなぁ……))

 思いのまま「はしゃげる彼」を、少し羨んでいた。
 エンドレスなお祭り騒ぎのさ中、空座のままとなっていたカルニヴァ王の隣の席。
 本来であれば后となる「妹のウトリクラリア」が座する席であったが、彼女は「勇者一行の来訪」を知り、私室の奥に引き籠ってしまっていたのであった。
 理由は、

《勇者様一行に合わせる顔が無い》

 幼児退行の症状が徐々に緩和されて来ていた彼女であったが、症状が緩和され、自分を取り戻すにつれ、人前で晒してしまった「幼女な振る舞いの数々」に羞恥を覚え、特に「顕著な幼女」を、余すところ無く晒してしまった勇者組には、

《どんな顔して会えと言うのぉ!?》

 穴があったら入りたいとは、この事である。

 様々な想いと共に、大騒ぎの夜は更けて行った。
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