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第八章

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 開店時間となり、店の扉が開くなり我先にと雪崩れ込む客たち。
 その光景に、緊張のあまり、

『かぁ、開店したしぃ!』

 思わず見たまま叫ぶリンドウ。
 普段の「良く言えば大らか」な彼女からは中々想像つかぬ姿に、思わず自身の緊張も忘れ、

「あははは、そうだね♪」

 笑顔で頷くラディッシュ。
 やがて会計を済ませた客たちが出て来て、

『『え?!』』

 二人は耳を疑った。
 店から出て来た客の一部から、

「本当に全作品を一斉発売できるなんて思わなかったわぁ~♪」
「シィーーーッ! それは「秘密の話」でしょ♪」
「あぁっ! うっかりぃ♪」

 作家が「同一人物である」と、知っている口振りであった。
 他の客たちも漏れ聞こえた会話に笑みを浮かべていて、

((みんな知って(たんだぁ・たんしぃ)!?))

 知らぬは「女王フルールとリブロンだけ」と悟った。
 見当違いと思われた「出版社の目論見」も見事に的を射て、購入者たちには驚きと、喜びを以て迎えられ、客足はその後も途切れる事は無く、中には店を出て早々歩きながら本を読みだす客も居て、嬉しそうな、楽しそうな顔をして帰路に就く人々を、

「…………」

 しばし無言で見つめるリンドウ。
 時が経つのも忘れるほど見入る彼女の背に、ラディッシュは小さい笑みを浮かべ、

「リンドウさぁん♪ そろそろ待ち合わせ場所に行かないとぉ♪」
「!」

 呼ばれて初めて見入っていた自身に気付いた彼女は、笑顔で振り返り、

「そぅしねぇ~♪」

 書店に背を向け歩き出し、

「ねぇねぇラディ♪」
「?」
「アーシはぁ手伝っただけの作品だけどぉ~」
「だけど?」
「あんなにも「喜ばれる」とぉこっちも嬉しくなっちゃうしぃ♪ 苦労が報われたイイ気分しぃ~♪」

 キラキラと輝く笑顔を見せ、その時感じた想いを、胸の熱さを反芻し、彼女の意識は今に戻り、馬車の荷台からスッキリと晴れ渡る青空を見上げ、

『次はぁどんな感動がアーシ達を待ってるのしぃ~♪』

 満面の笑顔で車内に目を移し、
「…………」
 何かを目の当たりにするなり、

「はぁ……」

 表情を曇りに一変させ、深いため息を吐いた。

 その元凶は、ゴゼン。

 フルール国の同人誌作業で見せていた、疲労困憊ながらも生き生きした目が嘘のような、
「…………」
 死んだ魚のような目。

 うつむき、生気すら失せたような顔に、理由を把握しているヒレンは不愉快を露に、

「いつまでも馬鹿じゃないの!」

 ソッポを向き、同じくリンドウもムッとして、

『いつまで子供みたいにぃゴネてるしぃ、ゴゼぇン!』

 気落ちに釘を刺し、
「いい加減にぃ腹を括るのしぃ!」
 発破を掛けたが、それでも彼はチカラ無く、

「はぁ~~~ぁ」

 苛立ちを抱かせるため息を吐きながら、御者台で手綱を握るラディッシュの背に、

「ねぇラディちゅぁん……本当に、行かないダメぇ?」

 ラディッシュも「彼が何にゴネている」か分かっているが故に、御者台に並び座るドロプウォートとニプルウォート、三人と呆れ交じりの困惑笑い。
 すると、中世の勇者たちに失笑を買う同胞に恥を覚えたリンドウが、

『まだ言うのしぃ!』

 御説教タイムが、今まさに始まろうとした。
 しかし「彼を憐れ」と思った心優しきラディッシュが御者台からすかさず、

「ごめんね、ゴゼンさん」

 肩越しチラリと振り返り、
「エルブ王と、フルール女王に謁見しておいて、同じ同盟の「カルニヴァ王にだけ会わない」なんて訳にはいかないんだぁ」
 フォローを入れたが、

『謝る事ナイしぃ、ラディ!』

 リンドウが即でツッコミ。
 それでもゴゼンは不満たらたら、

「だってさぁ~」

 怪訝な顔を見せると、場所はいつの間にカルニヴァ国の国境関所前に移り、そこには当然の如く、

『『さぁさぁ! ここを通りたくばぁ更にチカラを付けた我らにチカラを示すでアールぅ!』』

 以前より格段に「筋肉の張りとツヤ」を増した門番兄弟が、暑苦しさも増してポージング。
 そんな二人を背にするゴゼンはため息交じり、

「カルニヴァ国って「こんなのばっかの国」なんだョん?!」

 あえて入国しなければならない、意義を改めて問う。
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