557 / 706
第八章
8-39
しおりを挟む
思考の迷宮に嵌まって程なく――
馬車で街道を進むラディッシュ達。
《女王が書く同人誌と商業誌の違い何か?》
モヤモヤは、未だ抱えたまま。
彼女が描く本の内容としては「同人誌的である」とは言えたが、出版社の依頼を受け、書店で陳列販売されている時点で、同人誌と言うより商業誌と呼ぶにふさわしかった。
とは言え、異世界である「こちらの世界の人々」にそこまでの認識が必要とされている筈も無く、この世界における「同人誌」とは造語的位置にあり、付加価値をつけて他紙との差別化を図る、一種の「ブランド名」と化していたのであった。
理屈は一先ずワキに置き、目新しい物、目新しい呼び名に反応してしまうのは世の常、どこの世界でも同じなのである。
同人誌を広めた張本人である女王に問えば「その答え」を得られたかも知れないが、ラディッシュ達はモヤモヤを抱えたまま、逃げるように王都フローレスを後にしていた。
何故、逃げるように出立したのか。
それは次回作が決定した女王とリブロンが、「アシスタント沼」へ、手ぐすね引いて誘ったから。
本格的にアシスタントにされてしまいそうな恐怖を感じた勇者一行は、取る物も取り敢えず馬車に駆け込み、その足で町を後にしたのであった。
リブロンの、凛とした中にもラディッシュを寂しにげ見つめる眼差しと、女王フルールの妖艶な笑みの中にも「多様な意味の悲しさ」を滲ませる眼差しに、若干の「良心の痛み」を覚えながら。
逃げ出したとは言え次第に遠ざかる王都フローレスを、
「「「「「「「…………」」」」」」」
感傷的な想いで見つめる荷台の仲間たち。
手綱を握るラディッシュも、御者台に共に座るドロプウォートやニプルウォートも安全運転を考慮し、振り向きはしなかったものの、
「「「…………」」」
仲間たちと変わらぬ想いを抱いていた。
体力的、精神的には厳しかった日々。
しかし人から面と向かって必要とされる事は、感謝される事は、喜ばれることは、ともすれば「本来の使命」を二の次に回してしまいそうになるほど嬉しく思え、居心地が良過ぎた。
遠ざかって行く王都フローレスを、リンドウは揺れる荷台から後ろ髪を引かれる思いで見つめ、
「…………」
自分たちが手掛けた本が書店に初めて並んだ日までを、懐かしく思い返した。
女王フルールが居城内に用意した「寝起きする部屋」に、帰る事すらままならないほど忙しかった毎日。
個人的な悩みなど考えている余裕もないほどの忙しさではあったが、それでもアシスタント業務初参戦となるリンドウ、ゴゼン、ヒレンは発売日が近づくにつれ、不安を口にこそしなかったが、
《本の評価が下がったらどうしよう?!》
そんな三人のソワソワを、
「「「「「「「…………」」」」」」」
生温かく見つめる勇者組。
発売後の評判に対して不安が無い訳では無かったが、かつて自分たちも経験し、通った道ではあったから。
馬車で街道を進むラディッシュ達。
《女王が書く同人誌と商業誌の違い何か?》
モヤモヤは、未だ抱えたまま。
彼女が描く本の内容としては「同人誌的である」とは言えたが、出版社の依頼を受け、書店で陳列販売されている時点で、同人誌と言うより商業誌と呼ぶにふさわしかった。
とは言え、異世界である「こちらの世界の人々」にそこまでの認識が必要とされている筈も無く、この世界における「同人誌」とは造語的位置にあり、付加価値をつけて他紙との差別化を図る、一種の「ブランド名」と化していたのであった。
理屈は一先ずワキに置き、目新しい物、目新しい呼び名に反応してしまうのは世の常、どこの世界でも同じなのである。
同人誌を広めた張本人である女王に問えば「その答え」を得られたかも知れないが、ラディッシュ達はモヤモヤを抱えたまま、逃げるように王都フローレスを後にしていた。
何故、逃げるように出立したのか。
それは次回作が決定した女王とリブロンが、「アシスタント沼」へ、手ぐすね引いて誘ったから。
本格的にアシスタントにされてしまいそうな恐怖を感じた勇者一行は、取る物も取り敢えず馬車に駆け込み、その足で町を後にしたのであった。
リブロンの、凛とした中にもラディッシュを寂しにげ見つめる眼差しと、女王フルールの妖艶な笑みの中にも「多様な意味の悲しさ」を滲ませる眼差しに、若干の「良心の痛み」を覚えながら。
逃げ出したとは言え次第に遠ざかる王都フローレスを、
「「「「「「「…………」」」」」」」
感傷的な想いで見つめる荷台の仲間たち。
手綱を握るラディッシュも、御者台に共に座るドロプウォートやニプルウォートも安全運転を考慮し、振り向きはしなかったものの、
「「「…………」」」
仲間たちと変わらぬ想いを抱いていた。
体力的、精神的には厳しかった日々。
しかし人から面と向かって必要とされる事は、感謝される事は、喜ばれることは、ともすれば「本来の使命」を二の次に回してしまいそうになるほど嬉しく思え、居心地が良過ぎた。
遠ざかって行く王都フローレスを、リンドウは揺れる荷台から後ろ髪を引かれる思いで見つめ、
「…………」
自分たちが手掛けた本が書店に初めて並んだ日までを、懐かしく思い返した。
女王フルールが居城内に用意した「寝起きする部屋」に、帰る事すらままならないほど忙しかった毎日。
個人的な悩みなど考えている余裕もないほどの忙しさではあったが、それでもアシスタント業務初参戦となるリンドウ、ゴゼン、ヒレンは発売日が近づくにつれ、不安を口にこそしなかったが、
《本の評価が下がったらどうしよう?!》
そんな三人のソワソワを、
「「「「「「「…………」」」」」」」
生温かく見つめる勇者組。
発売後の評判に対して不安が無い訳では無かったが、かつて自分たちも経験し、通った道ではあったから。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
はずれスキル『模倣』で廃村スローライフ!
さとう
ファンタジー
異世界にクラス丸ごと召喚され、一人一つずつスキルを与えられたけど……俺、有馬慧(ありまけい)のスキルは『模倣』でした。おかげで、クラスのカースト上位連中が持つ『勇者』や『聖女』や『賢者』をコピーしまくったが……自分たちが活躍できないとの理由でカースト上位連中にハメられ、なんと追放されてしまう。
しかも、追放先はとっくの昔に滅んだ廃村……しかもしかも、せっかくコピーしたスキルは初期化されてしまった。
とりあえず、廃村でしばらく暮らすことを決意したのだが、俺に前に『女神の遣い』とかいう猫が現れこう言った。
『女神様、あんたに頼みたいことあるんだって』
これは……異世界召喚の真実を知った俺、有馬慧が送る廃村スローライフ。そして、魔王討伐とかやってるクラスメイトたちがいかに小さいことで騒いでいるのかを知る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる