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第八章

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 思考の迷宮に嵌まって程なく――

 馬車で街道を進むラディッシュ達。
《女王が書く同人誌と商業誌の違い何か?》
 モヤモヤは、未だ抱えたまま。

 彼女が描く本の内容としては「同人誌的である」とは言えたが、出版社の依頼を受け、書店で陳列販売されている時点で、同人誌と言うより商業誌と呼ぶにふさわしかった。
とは言え、異世界である「こちらの世界の人々」にそこまでの認識が必要とされている筈も無く、この世界における「同人誌」とは造語的位置にあり、付加価値をつけて他紙との差別化を図る、一種の「ブランド名」と化していたのであった。
理屈は一先ずワキに置き、目新しい物、目新しい呼び名に反応してしまうのは世の常、どこの世界でも同じなのである。

 同人誌を広めた張本人である女王に問えば「その答え」を得られたかも知れないが、ラディッシュ達はモヤモヤを抱えたまま、逃げるように王都フローレスを後にしていた。
 何故、逃げるように出立したのか。

 それは次回作が決定した女王とリブロンが、「アシスタント沼」へ、手ぐすね引いて誘ったから。
 本格的にアシスタントにされてしまいそうな恐怖を感じた勇者一行は、取る物も取り敢えず馬車に駆け込み、その足で町を後にしたのであった。

 リブロンの、凛とした中にもラディッシュを寂しにげ見つめる眼差しと、女王フルールの妖艶な笑みの中にも「多様な意味の悲しさ」を滲ませる眼差しに、若干の「良心の痛み」を覚えながら。
逃げ出したとは言え次第に遠ざかる王都フローレスを、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 感傷的な想いで見つめる荷台の仲間たち。

 手綱を握るラディッシュも、御者台に共に座るドロプウォートやニプルウォートも安全運転を考慮し、振り向きはしなかったものの、
「「「…………」」」
 仲間たちと変わらぬ想いを抱いていた。

 体力的、精神的には厳しかった日々。

 しかし人から面と向かって必要とされる事は、感謝される事は、喜ばれることは、ともすれば「本来の使命」を二の次に回してしまいそうになるほど嬉しく思え、居心地が良過ぎた。
遠ざかって行く王都フローレスを、リンドウは揺れる荷台から後ろ髪を引かれる思いで見つめ、

「…………」

 自分たちが手掛けた本が書店に初めて並んだ日までを、懐かしく思い返した。
 女王フルールが居城内に用意した「寝起きする部屋」に、帰る事すらままならないほど忙しかった毎日。
 個人的な悩みなど考えている余裕もないほどの忙しさではあったが、それでもアシスタント業務初参戦となるリンドウ、ゴゼン、ヒレンは発売日が近づくにつれ、不安を口にこそしなかったが、

《本の評価が下がったらどうしよう?!》

 そんな三人のソワソワを、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 生温かく見つめる勇者組。
 発売後の評判に対して不安が無い訳では無かったが、かつて自分たちも経験し、通った道ではあったから。

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