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第八章

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 喜劇から一夜明け――

 天世組三人の「中世を学ぶ時間」が、先ずはエルブ国王都エルブレスでオエナンサ邸を拠点に始まった。

《学ぶ時間》

 聴こえは良いが、その実は「全てが自由時間」であり、三人が思うままに日々を送るだけの毎日。

 ゴゼンは変わらすナンパの日々で、リンドウはコスメに、アクセに、ウインドショッピングとオシャレに余念が無く、ヒレンは女子組と同人誌専門店に通いの日々。
 因みにターナップは、趣味の筋トレ。

 そんな数日が経過する中でリンドウの目に、
(しぃ?)
 ラディッシュの「とある行動」が留まった。
 毎日決まって夕刻に屋敷を出て、食事前に帰って来る。
 その姿に、

(事件のニオイがするしぃ♪)

 一人、密かに色めき立ち、
(事件の陰に「オンナあり」しぃ♪)
 からかい半分で興味を持った彼女は物陰に身を潜め、いつも通り屋敷を後にする
 彼の背に、

(名探偵リンドウちゃん爆誕しぃ♪)

 ニホンのオタク文化の浸蝕を多分に感じさせる言動で、密かな追跡を開始した。
 すると、

(なんかラディってばぁ、人通りの少ない裏道ばっか歩いているしぃ……)

 彼の行動に違和感を抱くリンドウであったが、
(人目を気にするなんてぇマスマス怪しぃしぃ♪)
 興味本位はウナギ登り。

(何処のオンナに逢いに行くしぃ♪)

 しかし彼の背は「彼女の邪な発想」とは裏腹に、町の喧騒から次第に離れ、
(…………)
 閑散と化していく風景に、

(ドコまでぇ行く気なのしぃ……)

 心に寒さを覚え、一抹の不安に苛まれ始めた。
 常に弱腰な「変わった勇者」で、人目ばかり気にしながらも、他人の痛みに寄り添える、心優しき彼の「裏の顔」を覗いている気分に陥り。
 恐る恐るながらも尾行を続け、
(…………)
 やがて辿り着いたのは、

(公園しぃ?)

 整然と整備され、塵一つ落ちておらず、公園と勘違いする程の明るさを感じる、墓地。
 先の「地世との大戦」で亡くなった、天世人ラミウムをはじめとする英霊たちを祀った墓所であった。
 しかしながら、その様な事など知る由もない天世人リンドウ。
 単に、

(お墓参りしぃ?)

 ラディッシュの背を見失わないように追跡は続行し、彼が足を止めたのは、
(?)
 見上げる程の彫像が立ち並ぶ、祭壇。
 立ち止まって像を見上げる彼の背を見つめ、

(ここが目的地、しぃ?)

 リンドウも物陰から釣られるように像を見上げ、
(武器を持ったオンナ騎士とぉ、兵隊たち……しぃ?)
 すると彼女の疑問を見透かしたように背後から、

『あれはこの国を守った「英雄たちの像」なのですわぁ』

 前触れ無しの声が。

(ひぃう!)

 思わず悲鳴を上げそうになるリンドウ。
 慌てて口を手で塞ぎ、焦り交じりに振り返ると、

(ドロプぅ!)

 勇者組の六人と天世の二人が、イタズラっぽい笑顔を揃えていた。
 本人的には他者に気配を悟らせない「完璧なる隠密尾行」をしていたつもりであったが故に、

(なんでぇみんなが居るのしぃ!)

 小声で憤慨すると、
(あんな下手な尾行を見せられては気にもなりますわぁ♪)
 笑うドロプウォート達に、

(下手しぃ!?)

 軽くショックを受けるリンドウ。

(アーシの尾行ってばぁ完璧と思ってたしぃ……)
((((((((…………))))))))

 愚痴をこぼしつつ、
(ところで、しぃ……)
 視線を、像を見上げたままの背に戻し、

(ラディぁ何してるしぃ? それに「あの像の顔」……なぁ~んか見覚えがある気がするしぃ?)

 その疑問にゴゼンとヒレンも乗っかり、
(俺もぉ。なぁ~んか誰かに似てる気がスンだよネぇ~)
(確かにね。でも何故かしら。じっと見てると…………このイライラして来る感じは?!)
 答えに辿り着けずモヤモヤした顔をしていると、ドロプウォートが苦笑ながらも、どこか悲し気に、

(あれはラミィ……ラミウムの像なのですわぁ)
(((!)))

 ハッとする天世の三人。
 彼女が中世で慕われていたのは、知っていた。
 天世でも「周知の話」であり「中世の為に命を落した話」も広く知られていたが、死後も英霊としてまで祀られていた事実は、

(((………)))

 同じ「百人の天世人」として、衝撃であった。

《何故に上(かみ)が下々(しもじも)の為に命を懸けなければならないのか》

 天世で「彼女の献身」は、「愚行」とみなされていたから。
(((………)))
 永く根付いた「差別文化」の中で生きて来た天世人の三人。
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