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第八章

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 彼女が村人たちの眼前で倒れた時、

『この場合はぁ「お姫様抱っこ」で運ばなきゃダメっしょぉ♪』

 声を上げたのはゴゼン。
 当然の如く面白半分の「困惑するラディッシュ見たさ」のからかいであったが、企み通り、

『えぇ!?』

 露骨に戸惑うラディッシュ。
 多くの人々の目の前で、女性を「お姫様抱っこ」して運ぶなど「晒し者」以外の何物でもなく、基本的に注目を集める事が苦手な陰キャ勇者は、

「ごぉ、ゴゼンさんが運んであげたらぁ?!」

 すかさず逆提案。
 すると彼は半笑いで首を横に振り、

「ボクはぁまだ死にたくないんだョん♪」

 周囲を見回す姿に、
「?」
 釣られて周囲を見回すと、
 「!」
 そこには血の涙でも流しそうな苦悶の顔する、リンドウの信者(コアなファン)となった村人たちの目が。
 村の恩人であり、国の英雄でもあり、ラミウムの後継者でもあるラディッシュが抱っこするならいざ知らず、ゴゼンの素性を知らない村人たちにとって彼は、

《「どこの馬の骨」とも知れぬ、単なる「チャラ男」が!》

 そんな男が「神(アイドル)を姫抱っこする」など暴動を招きかねない行為であり、流石のラディッシュもそれが分かるだけに、
「…………」
 針の筵(むしろ)の中で、腹を括って「意識を失ったリンドウ」をお姫様抱っこ。
 顔から火の出そうな赤面顔で、彼女を宿まで運んだのであった。

 道中も、ヒソヒソと笑う村人たちの「好奇の目」に晒されながら。
 運んだ当人と、運ばれた当人は、

(い、言えないよぉ……)
(き、訊けないしぃ……)

 顔を背け合い、

((き、気マズイ……))

 微妙な空気。
 そんな中、

『御飯が冷めちゃのでぇすぅ♪』

 助け船を出してくれたのは、パストリス。
 本当は違う意味合い(嫉妬)からなのかも知れなかったが、

「そっ、そうだねぇ♪」

 ラディッシュは出された舟に即座に飛び乗り、

「よぉ、良かったコレを食べてぇよ、リンドウさぁん♪ 味は薄目だけど、今の弱った体に刺激物は毒だからぁ♪」

 横たわる彼女に目線の高さに、笑顔でトレーを差し出した。
 そこにあったのは、

「これはぁ何しぃ?」

 一人前サイズの土鍋であり、

「土鍋って言うんだ♪」

 蓋を外すと、中はホカホカとした湯気が上がる「塩粥」。
 しかし、
 
 (うぅ……)
 
 躊躇いを覚えるリンドウ。
 それが何であるか分からない彼女にとって差し出された物とは、

(何しぃ、コレぇ……)

 白いような、半透明のような、得体の知れないドロドロとした、謎の半固体、謎の半液体。
 先の件(親子丼)を顧みれば、「食わず嫌い」であるのは本人的にも明らかであったが、知らない物は誰だって恐ろしいもの。

(に……ニオイは、イイけどぉ、しぃ……)

 思わず息を呑むと、察したパストリスが背中を押すように、

「体が弱っている時に食べるとぉ体にとても沁みるのでぇす♪ オイシイのでぇす♪」

 優しく微笑み、

「(ボクが)食べさせてあげるのでぇす♪」

 するとすかさずチィックウィードも、お姉さんぶりたいお年頃なのか、

「チィもぉ♪」

 天使の笑顔で声を上げたがリンドウは、
(こぉ、これじゃアーシはぁ介護されてるみたいしぃ!)
 百人の天世人序列二位としてのプライドから、得も言われぬ恥ずかしさから、

『じぃ、自分でぇ食べられるしぃ!』

 戸惑い笑いの声を上げ、ラディッシュからトレーを受け取ろうとしたが、
 
「いぃ?!」

 絶句。
 悲し気な顔して、

「動けない、しぃ……」
「「「…………」」」

 意気消沈する彼女に、ラディッシュ達は苦笑。
 結局、パストリスとチィックウィードの介助の下、食事をする事となり、

(うぅ……このアーシが……百人の天世人の序列二位のアーシが……)

 ショックを隠し切れない「横たえた彼女」を両脇から支え、

「ハイ、はぁ~い♪ ゆっくりと起こすのでぇすぅ♪」
「ハイ、なぉ~♪」

 半身を優しく、そぉっと起こす「ロリと幼女」。
 彼女の苦悩などお構いなしの、容赦ない病人扱いで。
 そして幼女は、土鍋で熱々の湯気を立てる塩粥を木製スプーンでヒトすくい、

「アツアツなぉ♪ チィが「フウフウ」してぇあげるなぉ♪」

 目の前で息を吹きかけ、
(ちょ、ちょっと吹き過ぎなんじゃないしぃ……?!)
 懸念通りの冷めきったところで、

「はぁ~い♪ おクチを、あぁ~んなぉ♪」

 お姉さん気取りに、
「…………」
 もはや、諦めの境地。
 促されるまま口を開き、流し込まれた塩粥に、

(冷めきってる、しぃ……)

 困惑したのも束の間、舌の味蕾が味を認識すると、
「うぅ…………」
 思わず涙が溢れ、

『え? アレぇ?! リンドウさぁん、口に合わなかったぁ!?』

 慌てるラディッシュと幼女たち。
 すると動けぬ彼女は涙ながらに、

「何ざぁ~ごれぇ~~~!」

 鼻腔を抜けるほのかな柑橘系の香りに、

「ウマ過ぎなんじぃ~~~!」

 喜びながらも、

『ざぁっぎぃの料理もぉ素直に食べればぁ良かっだのじぃ~!』

 後悔し、

「アぁージぉおバカぁあぁあぁ~~~」

 意地を張った「さっきの自分」を叱り飛ばした。
 そんな彼女の様子にラディッシュ達三人は、安堵の笑みを見せ合い、
「「「…………」」」
 数日後には「ロリと幼女」の献身のお蔭か、体調がすっかり戻った彼女は満面の、キラッキラの弾ける笑顔で、

『みんなぁ! お待たせぇしぃいぃぃぃ♪』
『『『『『『『『『『お待たせぇしぃ♪♪♪』』』』』』』』』』

 揃いの法被とハチマキをした信者と言う名のコアなファン達に囲まれ、真のアイドルと化していた。
 天世人の容姿はあえてそのまま「天世レイヤーアイドル」として。

 その姿に、
「(リンドウちゃんは)中世に来た目的を忘れてなくねぇ?」
「チヤホヤされて調子に乗って、ホント馬鹿じゃないの!」
 奔放が信条でありながら困惑を見せるゴゼンと、憤慨の中に「羨ましさ」を窺わせるヒレンであった。

 一応は「天世の布教活動」と称するアイドル活動に勤しむリンドウと、ナンパに勤しむゴゼン。
 そして同じ悩み(大き過ぎる胸のサイズ)で意気投合したドロプウォートから、密かに紹介された「GL系同人誌」にド嵌(は)まりし、彼女と「魂の同盟」を結んで読み耽るヒレン。

 中世に来た本来の目的(ラディッシュの勧誘)を忘れてしまったかのような穏やかな日々は、ゆるやかに過ぎて行った。

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