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第八章

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 中世の世界を守る為であったとは言え、ハクサンを討った行いで生じた弊害を知り。

(で、でも、無くなってしまった物なら、また作れば!)

 思い至ったラディッシュが、
「そっ、それならぁ!」
 安易を口にしようとすると、ゴゼンがそれを見透かしたように、

「ねぇキュミ、ラディッシュちゃん♪」
「?!」

 二の句を遮り、

「どうして天世は「地世を殲滅できる程の天世人」を、百人と言わず、量産しないか分かるくわぁい♪」
「そ、それは……?」

 ラディッシュのみならず、仲間たちも答える事が出来ずに居ると、ヒレンが自虐的な笑みを浮かべ、

『出来ないのよぉ』
「できない?!」

「そうよ。怠惰にまみれた天世の世界を、アンタ達は見たでしょ? 高尚な技術なんて当の昔に失われ、今は先人が遺した遺産を食い潰しているだけの世界よ」
「「「「「「「…………」」」」」」」

 補足するようにゴゼンも、

「まぁもっともぉ天世をそんな風にしたのは、自分たちの「地位と権力」に固執して揺らぎを恐れ、固有技術を秘匿し、隠蔽し、発達を妨げた元老院にあるんだけどね」

 辟易した物言いで、元老院に対する不快感を露にする二人であったが、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 ラディッシュたち勇者組は、ハクサンを討ち取ってしまった事に「今更の後悔」を拭う事が出来ずに居た。

 しかしいくら後悔しようとも、彼の命と共に消えてしまった「一位のチカラ」は戻らない。

 天世をより良い世界に導くために序列一位のチカラを欲し、時に権力と戦い、時に上から煙たがれつつ、日々研鑽を積んだリンドウが「前触れ無く味わった失意」とは如何ほどであったでろうか。
 彼女の心中を想うと、

「「「「「「「…………」」」」」」」

 何を言っても「言い訳」にしかならない気がして、言葉が出なかった。
 するとゴゼンが、

『気にする必要はないョおん♪』

 勇者組の苦悩を見透かしたドヤ顔の笑みを浮かべ、ヒレンも、

『その通りよぉ』

 呆れ笑いで以て「何を落ち込んでいるんだ」とでも言いたげに、
「どうせ天世が今のままなら、一位のチカラに限らず消失は時間の問題だわ。それに何より、ハクサンをあの時点で消さなかったら「天世自体が消滅」していたわ」
 当事者(天世人)たちの言葉に、

「「「「「「「…………」」」」」」」

 気持ちが少し救われた笑みを見せる勇者組であったが、その一方で、

「「「「「「「…………」」」」」」」

 物言いたげな表情で一点を見つめ、

(できたら、そう言うイイ話は……)

 詠うように物語る天世の二人の頬に、
 
《ご飯粒を取ってからにして欲しかったなぁ……》

 親子丼を貪り食していたが故の勲章とは言え、話に集中できない勇者組であった。
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