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第八章

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 ほどなく――

 厨房から漂い始めた香りに、
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
 仲間たちや親衛隊の面々が「アレか♪」と沸き立つ一方で、嗅いだ事の無い香りに、

「「「?」」」

 置いてけ堀の天世の三人であったが、食欲を否応なし刺激する香りに、

『『『!?』』』

 小鼻はヒクヒク。

「ちょ、何コレぇ、イイ匂いだしぃ~♪」
「マジ甘ぁい? しょっぱぁい?! 不思議な香りだよねぇ~♪」
「嫌ちょっ! アタシのお腹まで鳴りそうなんだけどぉ!」

 期待値が高まる三人の下へ、

『お待たせぇ~♪』

 笑顔のラディッシュが運んで来たのは、ホカホカ湯気を上げる「親子丼」。
 しかし言わずもがな、

「「「…………」」」
  微妙な顔する天世の三人組。
 未知の料理に対する「理想」と「現実」にギャップがあった様子で、

「「「…………」」」
「どうかしたの? 天世フリカケはかけてあるから、食べても大丈夫だよ?」

 促すラディッシュに対し三人は、

「に、ニオイはイイなんよぉ、ニオイはぁ……けどぉ、」
「コレってぇホントに完成形ぇなのかぁい?!」
「き、黄色のドロドロが薄気味悪いわぁ……」

 初見の料理に、露骨な食わず嫌い。
 体は素直に摂取を求める一方で、頭が受け入れるのを拒み、

「「「…………」」」

 穢(けが)れた物でも見るようなシカメっ面で、出された料理を見ていると、

『オイシイなぉ♪』
「「「!?」」」

 得意げな声を上げたのは、幼きチィックウィード。
 躊躇う天世三人組を尻目に満面の笑顔で食べ進めていて、ドロプウォート達や親衛隊の面々も、スパイダマグが追加で運んで来た分を食して笑顔を見せ合い、

「「「…………」」」

 顔色を窺い合う天世の三人であったが、警戒心を露な三人を無視するように「美味しそうに食す姿」に、
「「「…………」」」

 互いの決意を確認し合い、
「「「…………」」」

 用意された木製スプーンを手に、
「「「…………」」」

 恐る恐る、ヒトすくい。
 慎重にすくった為に「ネチョリ」と妙な音が鳴り、

「「「ひッ!」」」

 委縮する三人であったが、

『オイシイなぉよぉ♪』

 天使の笑顔のお誘いには、
(((うぅ……)))
 流石の「百人の天世人」と言えど容易に抗うことは出来ず、腹を括って、

「「「…………」」」

 一口、パクリ。
『『『ンマァアァァァァアァァァァァ!!!』』』
 天にも昇る、大絶叫。
 目の色を変えて、すかさず二口目をすくおうとしたが、

『『『ッ!』』』

 神の如き早業で、器を横から親衛隊に掠め取られ、

「「「・・・」」」

 この世の終わりのような顔をした。
 すると打ちひしがれる三人の前に、やおら立つラディッシュ。
 神々しいまでの笑顔で、

《約束を守っていただけますか♪》

 悟りを開いた開祖が、信徒に説法を与えるが如き穏やかな語り口で、

「中世では皆が、平等なのです♪ 無意味な見下しや、差別などは、止めていただけますね♪」

 御言葉にゴゼンとヒレンは即座に、

『『止めまぁすぅ♪』』

 祈りを捧げて器を取り返し、

『ウマぁ! 肉柔らかぁ!』
「それはね、切った肉に穀物を挽いた粉をまぶして茹でたからなんだ♪」

 ラディッシュの説明が何処まで耳に届いているのか、いないのか、ゴゼンが貪り食べ進めていると、同じ感動の只中のヒレンまでもが、

『アタシぃ天世フリカケをかけないで食べてみたいわぁ!』
「や、止めた方がイイと思うよぉ、ヒレンさん」

 すかさず笑顔で苦言を呈し、

「前にハクサンが同じ事をして、お腹を壊して死にそうな思いをしたからぁ」
「アイツがぁ?!」

 彼女は瞬時に冷静を取り戻し、

「そうね。あんなのと一緒になるのはゴメンだわぁ」

 冷ややかな物言いから「よほど嫌われている」と察するラディッシュ。
 彼と過ごした日々を思い返し、

(女子に対してアレだけだらしないと、(女性は)そう言う反応になるよねぇ……)

 苦笑せずには居られず、お茶を濁すように調理方法などを説明し、会話が弾み始めた一方で、
「…………」
 一人、うつむき黙するリンドウ。
 和やかムードに唐突に、半泣きの顔をバッと上げ、

『アーシはぁ! 料理くらいでぇ懐柔される安いオンナじゃないのしぃ!!!』

 事情を知らず耳にした人に誤解を与えかねない捨て台詞を残し、部屋から外へ飛び出して行ってしまった。

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 何故にそこまで「頑な」なのか、

(?)

 不思議に思ったラディッシュが去った背中を見つめていると、

『あの子の頑固を許してあげて欲しいんだよねぇ♪』

 擁護の声を上げたのは、意外にもゴゼンであった。
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