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第七章

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 話は今に戻り――

 困惑顔のパストリスを相手に、和気あいあいと笑い合う仲間たち。
 狂暴化した汚染獣たちが「見た目が幼女」の彼女を前に「震え上がって逃げた」のがよほど可笑しく思えたようで、ニプルウォートやカドウィードは良いネタを仕入れた料理人の様なホクホク顔を見せながら、

「パストぉ~アンタどんだけぇオッカナイ顔をしてたのさぁ~♪」
「汚染獣がぁ尾を巻いてぇ逃げるなどぉ聞いた事ぁありんせぇんぇ~♪」

 囃し立てる二人に、ラディッシュ達も思わず笑い合うと、

『もぅみんなぁ「笑い過ぎ」なのでぇすぅ!』

 憤慨する見た目幼女に、
「ごめんごめん♪ 笑いに悪気は無いんだぁ♪」
「そうなのですわ♪」
「いやぁタダ、パストが「よほど怖かったんだ」と思うとさぁ♪」
「げにぃありぃんすなぁ♪」
「流石はお嬢っスぅ♪ 遺跡周りの上位の汚染獣を「一喝で蹴散らした」って事ぁ、お嬢は「不帰の森の女王」って事っスねぇ♪」
「そぅなぉ♪ パストおねぇちゃんはスゴイなぉ♪ ジョオサマなぉ♪」
 チィックウィードを除き、からかいを多分に含んだ色々な意味合いでの絶賛。

『汚染獣の女王なんてぇお断りなのでぇすぅ!』

 パストリスがわざとらしく口を尖らせ笑いを誘い、仲間たちと笑い合うと、ニプルウォートが笑いながらもおもむろに、

「でもウチはコレで、少し試してみたい事を思い付いたさぁ」
「「「「「「ためしてみたい、ことぉ?!」」」」」」
「あぁ。うまく行くかは「やってみないと分からない」けどねぇ」
「「「「「「…………」」」」」」

 手詰まり感が漂う中での「笑みを浮かべた提案」に、期待は否応なしに高まった。

 
 しばし後――

 ゴーレムが反応する手前まで、遺跡に近づく勇者組。
 ニプルウォート以外が不安げな顔をする中、少々緊張した面持ちのパストリスが満を持し、

『じゃ、じゃぁ先ずはボクから、やるのでぇすぅ』

 深く深呼吸すると、

≪我を護りし天世の光より、真実の扉を今開かぁん!≫

 その身を漆黒の輝きで包み、頭にケモ耳が生え、シッポも生え、妖人の姿に。
 ふわっふわな彼女の尾に、

(((もっふぅもふぅ~♪)))

 心奪われるチィックウィ―ドとニプルウォート、そしてカドウィード。
 しかも尾は三人を誘惑するかのように、フリフリと左右に怪しく揺れ。
 しかしパストリス的には「誘うつもり」など毛頭なく、心の迷い、自信の無さが、尾の動きに現れてしまっていたダケなのだが、三人は「猫じゃらし」に飛びつく猫が如く、

『『『もふもふニャーーー!』』』

 感情を抑え切れず尾にしがみ付き、

『ウニャーーーッ!?』

 つられたネコ声で驚く彼女などお構いなしに容赦なく頬擦り。
 至福の笑みの三人組。
 とは言え「この大事」に、その様な乱行(らんぎょう)を堅物ドロプウォートが見逃す筈も無く、

『何を致してますわのォオ!!!』

 頭ごなしに激怒。
 苦笑の男子二人(ラディッシュとターナップ)を伴い、三人をパストリスから引き剥がし、

「パストのお邪魔をするんじゃありませんのですわァ!」

 まるで母親の如く三人に説教をしながら、

『そう言う事は後でなさい、なのですわ!』
『えぇ?!』

 ギョッとするパストリス。
 締め括りに「裏切りの一言」が付与されるなど思いもせず。
「…………」
 呆気に取られる彼女を前に、ドロプウォートは悪びれた様子も見せず、
「だってぇ~「モフりたい気持ち」は、じゅうじゅう分かりましてぇですわものぉ~♪」
 うっとりしたニヤケ顔に、

『ダメなのでぇすぅ! ボクはペットじゃないのでぇすぅ!』

 断固反対するパストリスであったが、

「「「「えぇ~~~」」」」
「「えぇ~」じゃないのでぇすぅ! まったくぅ! みんなにもぉ困ったモノなのでぇすぅ!」

 憤慨しながらも、緊張は幾分ほぐれた様子で、

「改めてぇやるのでぇすぅ」

 深呼吸して気を静め、両眼をつぶって意識を集中。
「…………」
 自分の中に地世のチカラが凝縮されて行くのを感じ、
「…………」
「「「「「「…………」」」」」」
 ほどなく両眼をカッと見開き、開くと同時、

『ハァアァッ!!!』

 溜めたチカラを全方位に向け一気に拡散。

『『『『『『!』』』』』』

 ラディッシュ達でさえ背筋に畏れを感じるほどの膨大な地世のチカラが彼女から解き放たれ、遺跡の周囲の森に身を潜めて居た上位の汚染獣たちは、
 『『『『『『『『『『ギョョエェエェッ!!!』』』』』』』』』』
 下位の汚染獣ともども一斉に逃げ出した。

 地鳴りを伴う、あまたの逃げ音。

 やがて静寂に包まれる、汚染獣の森。
「「「「「「「…………」」」」」」」
 遺跡周りが、まるで浄化されたように静まる中、

「こんな感じで良いのでぇす?」

 あっけらかんと可愛らしく首を傾げる、ケモ耳姿のパストリス。
 しかし、一般野生動物の鳴き声や、虫の音(ね)まで消えてしまった深閑(しんかん)の森に「やり過ぎ感」は否めず、
((((((…………))))))
 思わず黙ってしまう仲間たちであったが、ニプルウォートが思い描いていた第一目標であるは「一先ず成功」のようで、発案者の彼女は、

「まっ、良いんじゃないさぁ♪」

 ケモ耳と尾を消して行くパストリスに顔で笑い掛けたが、想定を上回った結果に、

(まさか村にまで影響が出たりしないだろぅさね……?!)

 口には出さない不安を冗談めかして思ってもいた。
 とは言え、そこは良く言えば「サッパリした性格の彼女」である。悪く言えば「大雑把」。

(やっちまった事をグジグジと後悔しても時間の無駄さぁ。何かあってもスパイダ達が何とかするだろうさ♪)

 瞬く間に気持ちを切り替え、

「ラディ、次の段階をちゃちゃっと済ませてくれるさ?」
「…………」

 予め指示を受けていたラディッシュは少々緊張した面持ちで静かに頷き応え、
(パストは成功してくれた……ここで僕がつまずく訳にはいかない。僕も後に続かなきゃ!)
 気概を以て両眼をつぶり、意識を周囲に拡散。

「…………」

 汚染獣が近くに居ないのを認識すると、遺跡を中心に円形で囲むイメージを強く持ち、

≪我がチカラァ! 内なる天世のチカラを以て我は行使す!≫

 その身を眩き白き輝きで包み込み、

≪隔絶!≫

 自分たちごと、遺跡を、森を、隔絶空間で覆って行った。
 彼の「気合の入りよう」と比例するが如く、拡大を続ける隔絶空間。
 広がり続ける「中世から切り離された世界」に、

(ちょ、どこまで囲う気なのさぁ?!)

 内心で困惑するニプルウォート。
 失敗している訳ではない為に、

(ウチ達を含めた「遺跡周りだけ」で十分だったんだけどねぇ……)

 思わず小さく苦笑。
 すると領域が半径数百メートルに及んだ辺りで、

『ふぅ~』

 ラディッシュが一仕事を終えた風に、額の汗を拭う仕草を見せながら、

「こんなモンかなぁ♪」

 緊張感から解放された安堵の笑顔を見せると、隔絶空間も広がりを停止。
 期せずして仲間たちに、百人の天世人のチカラの一端を改めて垣間見せる結果となった。
 パストリスが見せたインパクトも吹き飛ぶ、他意無く軽くやってのけた桁違いの所業に、

「「「「「・・・・・・」」」」」

 絶句する仲間たち。
 そんな中、ニプルウォートは、

(コイツ等への頼み方には注意しないと「ドロプの二号」の爆誕さぁ……)

 先の件と合わせて反省しつつ、
(まぁ「一先ずは成功」としておくさぁ)
 少々ザワつく自分の心を無理矢理納得させた上で、

「さぁて、これで気兼ねなく実験が出来るさぁ♪」

 隔絶された空間内を遺跡に向かって歩き出し、

「そうだね♪」

 笑顔のラディッシュ達は彼女の後に続いた。
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