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第七章

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 話は少し時間を遡り――

 ゴーレムの存在を目の当たりにしたラディッシュ達。
 対処の方針が決められず、難しい顔を突き合わせる中、
(!)
 何かに気付くパストリス。
 彼女は唐突に、

『あっ、あのぉ! なのでぇすぅ!』

 少し恥ずかしそうな赤面顔で声を上げ、
「だっ、大事なお話し中ぅごめんなさぁいでぇす! ぼっ、ボクちょっと「お花を摘み」に行きたいのでぇす!」
「「「「「?!」」」」」
 突然の「トイレ宣言」に面を食らうラディッシュ達であったが、彼女は仲間たちの反応を見る余裕も、素振りさえ見せずに、

「ちっ、チィちゃんについて来て欲しいのでぇす! なのでぇ一緒に行こうなのでぇす! 行こうなのでぇす!」

 幼子の手を即座に、強引に引き、森の奥へと駆け出した。
 引かれるチィックウィードの安堵の笑顔から、

(((((あっ!)))))

 全てを悟る仲間たち。
 幼きチィックウィードが幼いなりに「大人の会話の邪魔」をしないよう考え、トイレをトイレを我慢していて、気付いたパストリスが彼女の羞恥を被った事に。
 根を詰め過ぎ、周りを気にする事さえ出来なくなっていたのにも気付かされ、
(肩のチカラが入り過ぎてたのかなぁ)
 ラディッシュ達は反省を覚え、

(((((チィちゃん、パスト、ごめん)))))

 仲間たちの謝罪の視線を背に、パストリスに手を引かれながら森を進む「チィックウィードは」と言うと、

「パストおねぇちゃん、ありがとなぉ♪」

 天使の笑顔で感謝。
 幼いながらも、自分の為に「彼女が恥を被ってくれた」のが分かるから。
 素直な謝意に、パストリスも手を引いて森を進みながら、

「良いのでぇす♪ ボクは「チィちゃんのおねえちゃん」なのでぇす♪ おねぇさんは妹を守るのでぇす♪」

 嬉しく思い、少し調子に乗ってお姉さん振った笑顔で立ち止まり、
「これだけ離れれば、チィちゃんも恥ずかしく無いと思うのでぇす♪」
 周囲を見回すと、

「あの茂みの向こうなら「目隠しになる」と、思うでぇす♪」

 十メートルほど先にある、草木が茂った藪を笑顔で指差し、
「良いでぇすかぁ、何かあったらボクを呼ぶのでぇす♪」
「ありがとなぉパスおねぇさん♪」
 チィックウィードは「パストリスの姉モード」にツッコミを入れることなく天使の笑顔で応えつつ、限界も近かったようで、

「・・・」

 足早に、そそくさと藪の向こうへ駆けて行った。
 少々素っ気ない態度にも見えたが、パストリスは幼い彼女に失敗をさせずに済んだ事にホッと胸を撫で下ろし、

(間に合って良かったのでぇすぅ。恥ずかしい思いをした甲斐はあったのでぇすぅ)

 彼女の笑顔を思い返すたび、
(何か「本当のお姉ちゃんらしい事」が出来た気がするのでぇすぅ♪)
 仲間たちの前で「かいてしまった恥」さえ誇らしく思えて来ると、妹(仮)が姿を消した藪の向こうから、

『なぁおっ!?』

 チィックウィードの慄き声が。

『チィちゃぁん!!!』

 反射的に駆け出すパストリス。
 何に驚いたのか確認する思考さえ無く、花摘みの最中であろう彼女の羞恥を考慮する余地もなく、血相を変えて走り、視界を遮る藪を突っ切り飛び出した先で目にしたのは、

『『『『『キョエェーーーーーーッ!』』』』』
『ッ!』

 服を着直すのに手間取るチィックウィードを取り囲む、汚染獣の群れであった。
 中型の体躯を持った獣たち。
 茂みが視界を遮り見えなかったのもあるが、森には強大なチカラを持った汚染獣が山と居て、気配が紛れてしまい、気付けなかったのである。
 しかしその様な冷静な分析など、

《ボクの妹に何をしようとしているのでぇすゥ!》

 怒り爆発寸前の姉(仮)パストリスの前では不要の論。
 大切な妹(仮)に手を出され、頭に血が上った彼女の立ち姿は、さながら「漆黒の明王」。
 光背に黒き焔(ほむら)を立ち昇らせ、妖人の姿となった彼女は、怒りの全てを一瞬の眼光に、

≪去(い)ねえ!≫

『『『『『ギョョエェエェッ!!!』』』』』

 脱兎の如き勢いで逃げ出す、狂暴化した汚染獣たち。
 怒れる彼女がよほど恐ろしく見えたのか震え上がって短い悲鳴を上げ、慌てふためき我先にと。
 その漫画のような逃げ姿に、

『・・・・・・』

 一瞬にして冷静を取り戻すパストリス。
 容姿が中世人に戻り、

(そ、そんなに怖がらなくても……)

 内心で、軽くショックを受けていた。
 他人を傷つけたり、威圧したりするのを好まない彼女ゆえの落ち込みではあったが、

『パストおねぇちゃんスゴイなぉ♪』
「?」

 歓喜の声に振り向くと、

「たたかわないでぇオセンジュをケチラシタなぉ♪」

 いつ何処で覚えたのか、難しい言葉を使って羨望の眼差しを向け、称賛する幼きチィックウィードに、
(そうか……ボク、血を流さないでチィちゃんを守れたのでぇす……)
 救われた思いで立ち尽くし、ラディッシュ達が駆け付けたのは、この直後であった。
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