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第七章

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 次の日の早朝――

 王都エルブレスにある王城の「謁見の間」にて、国王エルブを前に、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 恭しく跪く勇者組。

 出立の報告に登城した彼ら、彼女たちを前に、
「…………」
 見下ろす玉座の王は毅然とした表情の中にも、若干の寂しさを滲ませながら、

「行くのか勇者たちよ」

 改めての問い掛けに、ラディッシュ達は静かに頷いてから、
「はい」
 短く答えるも、揺るがぬ決意を感じさせる物言いに、

「…………」

 王は一拍置いてから、
「都が、また静かになるな」
 諦めと取れる一言をこぼし、
「あい分かった」
 凛然に正した表情で頷き、

「そなた等の、中世の「安寧の為の活躍」に今後も期待しておるぞ」

 勇者たちを見回し、贈りの言葉とした。
 その上で、

「そこでだ勇者よ」
「?」
「新たな旅立ちを前に、これを持って行くが良い」

 王の言葉に呼応するように、玉座の傍らに立って居た側近男性が静々とラディッシュに歩み寄り、

(なんだろ?)

 不思議を顔を見せる彼に、恭しく両手で何かを差し出し、
「?」
 差し出された何かを見た彼は、

「キャッシュカードだ♪」

 歓喜の交じった驚き声を上げた。
 王にとっては「期待通りの反応」であったのか、満足げに「うんうん」と頷くと、

「御主から話のあった発想を基に、同盟国で共通に開設した「銀行」で、通貨の出し入れが可能となって居る。まぁ、通貨の違う国での使用は出来ぬがなぁ」
「いえ、ありがとうございます! お金は意外と重量物なので助かります! 荷物として持って行くには限界がありますし、何より保管の心配もあったので!」

 それはラディッシュが同人誌作業の中で目にし、消した筈の記憶の中から「閃き」という名の着想を得て、かねてよりエルブ王に提言していた金融システムであった。

「なぁに構わぬて。こちらとしても貨幣の運搬が楽になり、盗賊の襲撃の心配も無くなるしのぉ」

 エルブ王は愉快げな笑みを浮かべながら、
「御主の提言通り「天法を用いた認証」も施してあり、盗難と悪用の心配も無用となっておる。そして何より王として、常に命の危機と隣り合わせであった「運搬警備の者たち」の負担を大幅に軽減できたと言う事に、感謝してもしきれぬ位じゃわい♪」
「いっ、いえいえそんなぁ! 僕はただ……」

 それは謙遜から生まれた否(ひ)ではなく、ラディッシュにとってはトンビが油揚げを掠め取ったが如くに感じられた、

≪地球と言う元いた世界の「先人たちの苦労」を都合よく盗用しただけ≫

 罪悪感から生まれた否(ひ)であった。
(称賛なんて、もっての外だよ……)
 すると、

「卑屈に考えずとも良いのだぞ、勇者ラディッシュよ」
『え?!』

 見透かした言葉に驚くと、
「これに限らずの話じゃ」
(それって、どう言う意味なんだろ?)
 抱いた疑問に、王は凛然とした中にも穏やかに、

「全ては御主が「同盟国間の絆」を取り戻し、深め、広げてくれた、確かな成果の上に成り立っての事なのだ」
「僕の行い……が?」
「そうじゃ」
「…………」

 それ程の偉業を成し遂げていた「自覚」の無いラディッシュ。
 自覚が無いが故に「自信」が持てず、真偽を求め、

「…………」

 問う眼差しで仲間たちを見回すと、そこには生まれた国も、身分も、立場も様々な者たちの笑顔が。
 今更ながら改めて思う。

(僕が今日までして来た事は「間違いじゃなかった」みたいだよ、ラミィ♪)

 ラディッシュはかつてない笑顔を見せた。

 謁見の間を、笑顔で後にする勇者一行。
 去って行く、頼もしき七つの背。
 しかしその背に、

「…………」

 何故か一末の不安を見せたのは、エルブ国騎士団総師団長ソンカスアスペル。
 幾度となく共闘し、彼ら、彼女たちを最も信頼していた筈の彼は、去りつつあるラディッシュ達に聞こえぬように小声で、

「陛下、釘を刺さず良かったので?」
「?」
「天世に目を付けられるような「派手な立ち回り」は、あまりしてくれるなと」

 忠臣として苦言を呈すと、エルブ王は幼馴染みの気苦労をフッと小さく笑い、

「多少のザワめきなど些末な事じゃ」
「は?」
「あの七人の起こす変化は中世にとどまらず、変わりようの無かった「三つの世界の関わり」にも波及しようとしておる。変わらぬとは停滞と同意で、後退に等しき物なり」
「…………」
「その進化と呼べる「変化の歩み」を年寄りが妨げるは害悪。世界を滅びへ導いているとは思わぬか、アスパーよ」
「…………」

 単なる「頭の固い軍人」ではないソンカスアスペルも、その様な事は理解していた。
 理解していてなお口にしなければならないのが「国防の最高責任者」である彼の立場であり、彼の責。
 道理を用いた王の返しに少々バツが悪そうに、

「こ、公務中に「愛称呼び」はお控え下さい、陛下。部下に示しがつきませぬ」

 矛先を逸らした苦言で返すが、精一杯であった。
 そんな旧友の困り顔に、

「まぁ御主の立場上、然(しか)く言う以外あるまなぁ♪」

 エルブ王は悪戯っぽく「クックゥクッ」と笑い、見透かした笑いに、
「…………」
 苦笑して黙るしかないソンカスアスペル。

 気の置けないやり取りを交わす二人の横顔は、数十年と遡った若かりし頃と何ら変わる物ではなかった。

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