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第六章

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 話は今に戻り――

 倫理的に問題ある行為に、心の引っ掛かりを残すターナップ。
 信仰心と、聖職者と言う職業柄、やむを得ない憂(う)いであったが、心が晴れない彼は珍しくも「兄貴と慕うラディッシュ」の揚げ足を取るように、

「元の記憶は一緒なんスからぁ、イリィの記憶は肉体に残したままで、魂だけ移した方が楽だったんじゃないっスかぁ? まぁ言うても今更っスけどぉ」

 労した手間と時間に不満をこぼすと、

『うん。正直な話で、僕もそう思う』
「?!」

 ラディッシュは反発するでもなく素直に頷き、

「ニプルが凄く頑張ってはくれたけど、何かの拍子にイリィの記憶が蘇る可能性が「無くはない」と思うからね」
「それが分かって、何でっスか?」

 ドロプウォート達も抱いていた違和感だったようで、
「「「「「…………」」」」」
 興味津々答えを待つと、

「生き抜くチカラを残したかったから……かなぁ」
「生き抜くチカラ、っスか?」
「「「「「…………」」」」」
「うん。イリィがイリィとして、僕達と旅をする中で身に付けた「強さ」みたいな物まで失って欲しくなかったんだ」
「「「「「「…………」」」」」」
「これから先も、きっと色々な苦難が待ち受けてるだろうからね。だから……」

 淡々と語っていたが、

(!)

仲間たちから向けられていた感嘆の視線に気付き、

『なっ、なんてぇ、僕如きが上から目線で格好つけ過ぎかなぁ♪』

 照れ臭そうに笑いながら、
「ま、まぁ単純に僕たちの事を心の片隅に、完全には「忘れて欲しくなかった」のも理由の一つだけどね♪」
「…………」
 黙するターナップ。

(ラディの兄貴はそこまで考えて、あの判断を……それに比べて俺は「坊主としての道理」ばかり口にして……)

 柔軟性を欠いた自身の思慮を密かに嘆き視線を落とすと、ニプルウォートが見透かしたようにニヤリと笑い、

「何さぁ、しょぼくれてぇさ。ケンカ相手が居無くなってぇ寂しいのか~?」
『んなっ訳あるか!』

 過剰に強く否定。
 当たらずと雖(いえど)も遠からずな故に。
 すると「イジリ甲斐のある獲物」を見つけた彼女は仲間たちの苦笑をよそに、わざとらしく、大袈裟にパストリスをチラ見してから動揺を隠せぬターナップに、

「ついに「ロリ好き」もぉ卒業かぁ?」
『ばっ!』

 ギョッとした。
 好意を寄せる相手が居る前で「ロリ好き」とからかわれた以上に、「他の女に気がある」と言い回された事に。
 焦るターナップの一方、想われ人の「パストリスは?」と言うと、

『ボクはぁロリじゃナイのでぇすぅ!!!』

 ロリと言われた事の方に反応して憤慨。
 地団駄を踏んで見せながら、

『ロリじゃないのでぇすぅ!』

 否定を重ねる愛らしい怒りように、
(((((♪♪♪)))))
 見つめるラディッシュ達の目尻は下がり、

『ッ!?』

 納得いかない見た目幼女が「怒り(微笑ましい)」を増すと、見かねた幼きチィックウィードが彼女なりの気遣いから、
「アメちゃんぉあげるからぁ、オチツクなぉ♪」
 懐から飴を取り出し、今さっき憤慨していた筈が、

「わぁー♪ ありがとうなのでぇすぅ~♪」

 満面の笑顔で受け取ろうとした。
 しかし、

『!』

 生温かく見つめる仲間たちの視線に我を取り戻し、
「ぼっ、ボクは大人なのでぇすぅ! チィちゃんが食べると良いのでぇすぅ!」
 後ろ髪を引かれる様子をあからさまに見せながらの、懸命な受け取り拒否。
 そんな「見た目幼女」の愛らしい姿に、目尻が下がりっ放しの仲間たちは、

「「「「「うんうんうん♪」」」」」

 笑顔で何度も何度も頷いた。
 まるで初孫を見つめる、祖父母のように。
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