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第六章

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 隣の領地を目指してボートを走らせるラディッシュ達――
 
 当然その先には、
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 急報を受けたディモルファンサの私兵が大挙して、準備万端で待ち構えていた。

 完全武装し、数十艇のボートに分乗する、騎士、兵士たち。
 多勢に無勢でありながら、その表情は一様に硬かった。

 屋敷で暴れて逃走した偽勇者一行が「カルニヴァ王の通行手形」を持っていて、本物の勇者一行である可能性が高いと、既に噂されていたから。
 それでも「主(あるじ)の命」とあらば矢面に立たない訳にはいかず、
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 鬼神の如き強さを誇る勇者一行に、天世に、弓引く行為に平常心では居られなかった。
 しかし、

((((((((((…………?))))))))))

 待てど暮らせど「偽勇者とされた一行」は姿を現さない。

 それもその筈。

 ラディッシュ達は途中で船から降りて、陸路で隣の領地を目指していたのである。

 徒歩での移動が不便で、船を使っての移動が当たり前なアクア国の一般常識の裏をかいた「イリスの入れ知恵」であった。
 水上で派手に暴れたのも功を奏して警備はそちらに重きが置かれ、領地境の鉄柵の前に難なく辿り着いた勇者一行は、

『セェイッ!』

 ドロプウォートが一刀の下に斬り開いた道を通って、隣の領地へ無傷の帰還を果たした。
 真っ先に柵を通り抜けたのはイリス。
 頭痛も治まったのか、いつもと変わらぬ調子で辟易しながら、

「まったく、とんでもない目に遭ったさぁねぇ~」
『『『『『『『「ダレのせいかぁ!』』』』』』』

 即でツッコム、苦笑の仲間たち。
 すると彼女は「キッシッシッ♪」とイタズラっぼい笑みで振り返り、振り返った途端、
「痛っ……」
 額を押さえて顔を曇らせ、

『イリィ!』

 ラディッシュ達は不安げな顔を寄せたが、彼女はそれを手で制し、
「ははは……いつものヤツさねぇ♪」
 笑い飛ばした。
 しかしその横顔は、やはり辛そうに見え、

「本当に大丈夫……なの?」
「最近、頻発してないさ?」
「やはり一度、御医者様に診せた方が良いですわよ」
「でぇすでぇすよぉ」
「げにぃありんすなぁ~」
「今は大事な時だろぅがよぉ」
「ダイジなぉダイジなぉ♪」

 意味が分かっていない様子のチィックウィードを加えた仲間たちの不安げな顔に、

「大事な時だからこそ、さねぇ♪」

 彼女は辛そうに見える顔に笑顔を交えたまま、
「一分一秒を無駄にしている場合じゃないさぁねぇ」
 気にするなと言わんばかり、寄せる顔々を追い払う仕草を見せながら、

「隣の領地とは言え、ここは領地境さねぇ。追っ手が来るかも知れない。ほらぁ、早く行くさねぇ」

 先陣切って歩き始めてしまった。
 足取りも重く見える背に、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 勇者組の不安は増すばかりであった。
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