上 下
449 / 706
第六章

6-101

しおりを挟む
 とある町に辿り着くラディッシュ達――

 そこはディモルファンサが治める領地に隣接する町であり、領地の境までは、眼と鼻の先の距離。
 しかしディモルファンサ領を目前にラディッシュ達は、

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 新たな問題に直面していた。
 それは検問所。

 領内への出入りが、過剰なまでの警備で固められていたのである。

 見るからに鍛え上げられた体躯を持った屈強な兵士たちが立ちはだかる、その検閲の厳しさたるや、まるで有事の軍事国レベル。
 しかも領地は頑強な鉄柵でグルリと一周覆われていて、猫の子一匹通れない様相。
 そんな検問所に、身元不確かな一行が入ろうモノなら不審者として即座の捕縛は免れず、ラディッシュ達は目当ての領地を前にしながら、

「「「「「「「「どうしようぉ」」」」」」」」

 眉をひそめ合い、止むを得ず、宿を取っての作戦会議。
 目の当たりにした過剰警備を思い返すイリスは、
「あれぁ、ハッタリが通用しそうな空気じゃ無かったさぁねぇ~」
 ため息に、
「同感ですわぁ~まさかアレほどとは思いませんのでしたわぁ~」
 ドロプウォートも嘆き、
「「「「「…………」」」」」
 仲間たちも「どうしたものか」と困惑を隠せずに居ると、

『それなら正攻法で行こうよ♪』
「「「「「「「?」」」」」」」

 声を上げたのは、再びのラディッシュ。
 意味を求めて集まる視線を前に、

「正々堂々と正面から♪」

 珍しく自信満々。
 その陰りも見せず主張する姿に、
(((((((フラグ?!)))))))
 仲間たちは一抹の不安顔を見合わせつつ一夜が明けた。


 明けた一夜のしばし後にラディッシュ達が居たのは――

 玉座の如き椅子を配した上座に座し、体躯に恵まれているとは言い難いものの、容姿端麗、眉目秀麗、美少年と呼ぶに相応しき人物の前。
 跪くラディッシュ達を前に座する彼は不敵な笑みを小さく一つ、浮かべた後に立ち上り、

『ようこそ我が領地へ御出で下さった勇者一行よぉ!』

 過剰とも言える歌劇的、歓迎の意を表した。
 しかしその眼の奥には悪党が持つ、独特の病んだヒカリが。

 彼こそがイリスの幼馴染みであり、「親殺し」と世間で囁かれ、領民を悪政を以て虐げる、悪名高きディモルファンサである。
 ラディッシュ達は彼の下に辿り着いていた。
 種明かしをすればカルニヴァ王から直々に賜った通行手形であり、それを見せられた検問所の屈強兵士たちは滑稽にも右往左往、上を下への大騒ぎ。

 まさか名高き勇者一行が「密入国する程の御忍びで」と疑いつつも、手渡された通行手形に刻印された天技はカルニヴァ王家を示す物に間違いなく、ラディッシュ達は密入国者集団でありながら、貴賓扱いで謁見の間へ通されたのであった。
 跪いたままの勇者一行を前に、

(次期国王と名高き俺の下に「最初の挨拶に訪れる」とは勇者も中々したたか。しかし賢明な判断だなぁ♪)

 ほくそ笑み、自画自賛するディモルファンサであったが、
(?)
 ふと、

「時に勇者殿」
「何でありましょう?」

 目線を伏したままの彼に、
「御仲間が少ないようだが?」
 ラディッシュの背後に、訝し気な視線を送った。

 彼の指摘した通り、ラディッシュの背後にはドロプウォート、ニプルウォート、そしてフードを目深に被った誰かが一人。
 しかしラディッシュは平静に、

「次期国王と名高きディモルファンサ様との謁見に、肩書のない者を連れて参る訳にはいきませんので」
「!」
(俺との謁見に庶民階級を連れては来れぬとぉな♪)

 勝手に解釈した彼は更に気を良くし、素顔も晒さぬ一人が居るにも関わらず「世話係」程度に思い歯牙にもかけず、
「ハッハッハッ♪ 勇者殿も中々にして持ち上げ上手ですなぁ♪」
 下卑た高笑いをした上で、
「私が国王となる戴冠式には勇者殿にも、是非とも御越し頂きたいですなぁ♪」
 黙って居れは眉目秀麗、口を開けば醜男(ぶおとこ)の思い上がりに、

『いい加減にしぃなやァ!!!』

 激昂して立ち上がったのは、ラディッシュの背後に控えていたローブの誰か。
「「「「「「!?」」」」」」
 驚くディモルファンサや警備の騎士たちを前に、その人物はローブをバサッと脱ぎ去り、

「アンタの悪政で領民がどれほど苦しんでると思ってるさねぇ!」

 堂々たるイリス。
 彼女は敵地のど真ん中にありながら、

「ここに来るまでアタシぁ散々見て来たさねぇ!」

 すると彼は幼馴染みの苦言を前に、

『だっ、誰だキサマはぁ!』
「なっ?!」
「勇者殿の従者とて、俺に対する無礼は容赦せぬぞぉ!」
(アタシがぁ分からないだとぉ?!)

 面食らうイリス。
 幼少を共に過ごした間柄にありながらの、不埒者扱いに、
「アンタってヤツぁ~」
 呆れた様子で頭を抱え、
「性格だけじゃなく、記憶まで腐っちまったのさねぇ~?」
 彼を斜に見据えると、

「なぁ『ディーサ』ぁ?」
『ばッ!?』

 激しく動揺するディモルファンサ。
(馬鹿なぁ! アイツしか知らない筈の「俺の渾名(あだな)」をどうしてぇ!?)
 顔から血の気が一気に引く彼に、イリスは「キッシッシッ」と笑いながら、

「そう言やぁアンタ、この呼ばれ方が「大嫌いだった」さぁねぇ、オンナみたいだから呼ぶなってさぁ♪」
「!!!」

 彼は真っ青な顔に多量の脂汗を流しながら、
『でっ、出合え出合えぇ者ども出合わぬかぁぇえぇ!!!』
 錯乱気味に配下の騎士、兵士たちを呼び寄せ、

『勇者を偽る密入国者の不届き者だぁあぁ! 全員、斬って捨てるのだぁあ!!!』

 狂気染みた表情で両手を振るって処刑を命じた。
 しかし、
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 躊躇いを見せ合う兵士たち。

 何故なら「勇者一行の来訪」は、既に屋敷内に居る全ての家臣の知る所であり、ラディッシュ達が所持していた「カルニヴァ王の手形」の話も。
 とは言え、

『なぁ、何をしているかぁ!!!』

 暴君と言えど「主君である」に変わりなく、主の命に従わぬは「反逆の意思アリ」と取られ兼ねず、罰は親類縁者に及ぶ可能性もあり、
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 兵士たちは息を呑んで腹を括ると、

「「「「「「「「「「ぅおぉおっぉおおぉぉーーーーーーっ!」」」」」」」」」」

 勇者一行に襲い掛かった。
「やっぱりぃこうなっちゃうんだなぁ~」
 ラディッシュがドロプウォートたちと呆れ笑いを浮かべていた頃、ディモルファンサの屋敷の外では、警備の騎士や兵士たちが中から聞こえ始めた騒ぎに「なんだなんだぁ?」と不思議顔を見合わせ、

「「「「「「歌……」」」」」」

 何かに気付くと同時に、卒倒するよう次々眠りに落ちた。
 そこへ、

『良き夢をみぃんしぁ♪』

 しゃなりしゃなりと姿を現すカドウィード。
 扇子で口元を隠しながら騒ぎの館を見据え、

「げにぃ「穏やかに」とはぁ、なりんせぇんなぁ~♪」

 妖艶な笑みを浮かべると、

「毎度の事じゃねぇかぁ♪」

 半笑いのターナップもやって来て、
「でぇすでぇすねぇ♪」
「ですなぉ♪」
 パストリスとチィックウィードも暗がりから姿を現した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

僕の従魔は恐ろしく強いようです。

緋沙下
ファンタジー
僕は生まれつき体が弱かった。物心ついた頃から僕の世界は病院の中の一室だった。 僕は治ることなく亡くなってしまった。 心配だったのは、いつも明るく無理をして笑うお母さん達の事だった。 そんな僕に、弟と妹を授ける代わりに別の世界に行って見ないか?という提案がもたらされた。 そこで勇者になるわけでもなく、強いステータスも持たない僕が出会った従魔の女の子 処女作なのでご迷惑かける場面が多数存在するかもしれません。気になる点はご報告いただければ幸いです。 --------------------------------------------------------------------------------------- プロローグと小説の内容を一部変更いたしました。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした

せんせい
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ―――

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...