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第六章

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 森の中を進むラディッシュ達――

 アクア国へ入国する為、イリスの先導で「秘密の地下通路入り口」を目指していたのだが、密入国と言う緊張感を持たなければならないさ中にありながら、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 勇者一行はクスクスと小さく笑い合って居た。
 ただ一人を除いて。

 その人物とは、ドロプウォート。

 仲間たちの笑いにバツが悪そうに、
「わっ、笑い過ぎでなのですわぁ」
 周囲を警戒した控えめの声量で苦言を呈し、
「た、確かに「少々お説教が過ぎた」とは反省しているのですわぁ」
 すると先頭を歩くイリスが悪い顔して「キッシッシッ」と笑い、

「あれが「少々」と言うのさねぇ~?」
「うっ……」

 ラディッシュが止めに入った時、彼女の容赦ない理責めに、既に「魂の抜け殻」と化していた国境警備の兵士たちの憐れな姿を思い返し。
 ドロプウォートも感情任せに言い過ぎた自覚が有るだけに、
「そ、それはぁ……そのぉ……」
 返す言葉は尻すぼみ、黙すると、猛省を見かねたラディッシュがニコやかに笑いながら、
「ま、まぁ、あの人達にもイイ刺激、イイ薬になったんじゃないのかなぁ♪ お説教をしてくれるような、上司みたいな人も居ないみたいだったし♪」
 助け舟に、凹んでいた彼女は「復活の笑み」を見せたが、イタズラ心に火が点いたニプルウォートが「にひっ」と笑い、

「「劇薬」だったけどさぁ♪」

 追い討ちに、
「はぅ……」
 再び凹むと、

『ママをイジメちゃダメなぉ!』

 怒れる愛娘(仮)チィックウィードがすかさず割って入り、立ちはだかった。
(チィちゃぁ~ん♪ 私の為にぃ♪)
 眼を細める母(仮)ドロプウォート。
 しかし救われた思いの彼女を前に、

『ホントのコトいってイジメちゃダメなぉ!』
「ヴゥっ!!!」

 トドメの一撃。
 本人的には、全力フォローのつもりであったのだが。
 母(仮)は瀕死を負いながら、
「ち……チィちゃん……」
「なぉ?」
 不思議そうな顔して振り返る娘(仮)に、

「フォローになってませんのですわぁ……」
「ぉお?」

 小首を傾げると、仲間たちから笑いが起こった。


 森の奥へと更に進み――

 やがてイリスが茂みの手前で足を止め、
「あの先にあるさぁねぇ」
 落差三メートルから四メートルほどある、それなりの川幅と水量を持った滝を指差した。

≪古典的だなぁ~≫

 内心で思いつつラディッシュ達は彼女の後に続き、目隠しの役割を果たしている大岩の裏を通って、滝の裏側へ回ると、
「「「「「「「!」」」」」」」
 そこには何の偽装も施していない、人の背丈ほどの横穴が。
 兵士が警備をしている気配も無く、

「「「「「「「…………」」」」」」」

 ラディッシュは仲間たちの疑問を代弁するが如く、
「ね、ねぇイリィ……」
「んぁ?」
「王族が使う通路が、その……こんなんでイイのぉ? 警備兵も居ないみたいだし、これじゃ誰でも入れるよ?」
 すると彼女は「キッシッシッ」と笑い、

「警備の兵士が立ってたら、さも「ココに何かある」ってぇ教えるようなモンさぁねぇ」
「それは、まあ……」
「それに」
「それに?」
「流石に平時は「見た目の偽装」をしているさぁねぇ。今は、アタシが居るからねぇ」
「どう言うことぉ?」
「王族にしか使えないと言ったさぁねぇ」
「えっと……」
「察しが悪いさぁねぇ~」
「ごめん」
「王族の血筋に反応する天技が施されてるのさねぇ、この先にも色々とねぇ」
「あ!」
「だから「血筋の者」が居なきゃぁ、そもそも中に入れないのさねぇ」

 先陣切って入って行く背に、
「なるほどぉ~」
 感心しきり頷くラディッシュ達。
 彼女の後に続き、横穴の中に入って行った。


 イリスに導かれて足を踏み入れた秘密の地下道――

 そこは洞窟的な入り口と相反し、中は一つの施設の様相。
 床も壁も、見た目レンガで固めて強固に造られていて、天井高(てんじょうだか)も、大の男が頭上に手を掲げてつかない程度あり、横幅も大人三人すれ違えるほど。

 そして天井からは天技か何かの応用か、非常灯代わりと言える薄明かりが歩く速さに合わせて常に数十メートル先まで視認できる明るさを確保していた。
 日常的にも使えそうな「堅牢な造り」を疑問に思ったラディッシュは、

「ねぇ、イリィ」
「んぁ?」
「非常用なのに、こんな「手の込んだ造り」をする意味ってあるの? 灯りだって、通路全体を普通に明るくすれば、もっと簡単な、」
「やれぇやれぇ分かっちゃないさぁねぇ~」
「?」
「通路全体を明るくしちまったら、何処に何があるか丸分かりになっちまうさねぇ。そんなモンはぁ、知られちゃぁ困る側の人間だけが知ってればイイ話なのさぁねぇ」
「それにしてもさぁ……」

 岩盤の如き壁をペシペシ叩き、

「随分、頑丈にも造ってあるよね……こんな通路が他にもいっぱいあるんでしょ?」

 手間暇、労力をかけ過ぎとでも言いたげな様子に、
(まぁ、アクア国を見た事が無きゃぁ、そう言う反応にもなるさぁねぇ~)
 イリスは苦笑すると、

「アクア国は独自の水運が発達したぁ「水の都」なのさぁねぇ。つまりアタシ等の頭の上は水だらけ。脆い抜け穴なんぞ造ってぇ崩れてみぃなやぁ?」
「?!」
「アタシらぁ揃ってドザエモンさねぇ」

『『『『『『『!』』』』』』』

 同人誌作業で描いた一場面を思い出し、青ざめるラディッシュ達。
 自分たちの姿をオーバーラップ、背筋に悪寒を走らせ、恐る恐る天井を見上げると、イリスが「キィシッシッ」と愉快げに、

「そぅならないように天法で補強もしてあるのさぁねぇ♪ 一本の強固な管になるようにさねぇ♪」

 笑いながらも、
「まぁ、どっかの「おバカ」が、強力な天技でもブッ放さない限り崩れたりはしないさぁねぇ」
 自然と、

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 ドロプウォートに集まる仲間たちの視線。
 含みを持った眼差しに、
「!?」
 ドロプウォートは反論しようとするも、
(!)
 森を燃やし尽くす等々、数々の「前科持ちの彼女」は、その自覚が有るだけに、むしろあるが故に、自戒の意味も込めて遠回しに、

「そっ、そぉのぉようなぁ「お馬鹿さん」はぁ、そうそう居りませぇんのでぇすわよぉ♪ オホホホホホ♪」

 引きつった笑顔でお茶を濁した。
 彼女の「不自然な笑いの理由」を知らないイリス。
「ん???」
 ラディッシュ達の苦笑にも首を傾げたが、後日にその理由を聞かされ、

「…………」

 真っ青に青ざめたのは言うまでもない。

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