436 / 649
第六章
6-88
しおりを挟む
馬車で街道を進むラディッシュ達――
最終目的地をイリスの故郷であるアクア国と定めて北上を続け、今は手前のパラジット国を目指していた。
天世から「神罰と呼ぶ」に等しい重罰を受け、中央政権が文字通り王都ごと消し飛ばされ、情勢が不安定なさ中での復興状況を確認する目的もあり。
だからと言って、滞在していたアルブル国の復興作業が順調な訳ではなかった。
数々の問題点、改善点を残しつつ、アクア国を目指す事が出来たのは、偏(ひとえ)にアルブル国復興作業に携わる人々の後押しがあったればこそ。
それは勇者組に対する忖度などではなく、故国の危機と言う物が当事者にとって、どれほど辛いものであるか身を以て知っていたから。
故国アクアの異変を憂いる彼女に寄り添うラディッシュ達に、異を唱える者など皆無であり、
≪感謝するさねぇ≫
憑き物が落ちた表情のイリス。
悩んでいたのが嘘のような、いつも通りの斜に構えた笑みで、
『これならぁどうさねぇ!』
荷台で、いつもの通りチィックウィードたちとカードゲームに興じながら、
「それにしても四国同盟の人達にぁ感謝しかないさねぇ~」
染み染み頷き笑い、
「人間にぁ「二種類しか居ない」って言葉ぁ、納得しちまうさぁねぇ~」
「二種類って?」
御者台のラディッシュが手綱を引きながら、興味深げに肩越しチラリと視線を送ると、彼女は振り向きニカッと笑って、
『「イイ奴」と「そぅでないヤツ」さねぇ♪』
彼女が取り戻した明るさに、
「単純ですわねぇ~♪」
「ホントさぁ~♪」
御者台のドロプウォートとニプルウォートが呆れ笑うと、チィックウィードの目元がギラリ。
『スキありなぉ♪』
イリスの手札から一枚を、電光石火の早業でスパッと抜き取り、
『あぁ!』
彼女が驚愕の声を上げるが先か、幼子は満面の笑顔で、
『またまたチィのカチなぉ♪♪♪』
手札を全て床に投げ置いた。
『のかぁーーーっ!』
悔し気に頭を掻きむしるイリス。
八つ当たり丸出しで、
「アンタ達が大事な所で話しかけたせいで、またチィ坊に負けたさねぇ!」
御者台の三人に怒りをぶつけ、ドヤ顔のチィックウィードには、
「会話の最中にカードを抜き取るなんてぇ「この悪党」さねぇ!」
負け犬の遠吠えとしか思えぬ恨み節に、仲間たちから笑いが起こると、
『あっ!』
ラディッシュが何かに眼を留め、
「関所が見えて来たよ♪」
「「「「「!」」」」」
荷台の仲間たちも身を乗り出した。
元パラジット共和国の国境に、到着である。
ラディッシュ達が到着する少し前――
関所内に設けられた国境警備隊兵士詰め所内は、
「「「「「「…………」」」」」」
一様にダラけていた。
雑談に花を咲かせる者、居眠りする者、呆けている者、等々。
国境警備とは国防における要の一つである筈が、緊張感のカケラも無い士気の低さであった。
そんな一室に、
『タイヘンだ! 馬車近づいて来るぞぉ!』
血相を変えて駆け込んで来る兵士A。
驚愕の声を上げたが、
「「「「「「…………」」」」」」
誰一人、腰を上げる事も、緊張感を以て即応する事も無く、座したままの兵士Bもおっとりがてら、
「何を今さら焦ってるんだぁ~? どうせまた違法出国者の類いだろぅ? ほっとけほっとけ、よその国が取り締まってくれんだろうぉよ」
雑談に話を咲かせていた兵士Cたちも、
「違いねぇ。天世様に見限られた「罰当たりな国」なんぞに、中世の誰が来るってんだぁ?」
「そんなモノ好き居やしねぇわなぁ~」
「まぁ居るとしたらぁ火事場泥棒くらいかぁ?」
呑気に笑い合っていると、兵士Aはもどかし気に、
『だから、その外から来てるんだってぇ!』
それでも兵士たちは、
「それはそれで、この国から取る物が無ぇのが分かったら、すごすご帰って行くさぁ」
「だなぁ♪」
再び笑い合っていると、
『とは言っても流石になぁ~』
兵士Bが億劫そうに立ち上がり、
「犯罪者集団を素通りさせたのが管理者殿方に知れたら、後が面倒だからなぁ~」
釣られる様に兵士Cたちも、
「四国同盟から派遣されて来てる「あの連中」は御堅いからなぁ~」
愚痴り合いながら、のっそり立ち上がった。
連邦共和国時代に数々行った「理不尽な強権発動」により、形ばかりの連邦の、実質的には傘下にした国々から「数多(あまた)の恨み」を未だ買っているパラジット国。
政権が消失したこの国を守る為に派遣された、エルブ国、フルール国、カルニヴァ国の特使に対し、辟易笑いで平然と悪言をこぼすと、
「やれやれ、お仕事お仕事ぉ」
兵士たちは気ダルそうに、続々と部屋から出て行った。
四国同盟からしてみれば裏の意味として、天世につけ入るスキを見せぬ為、パラジット国弱体化に伴う周辺諸国の武力を用いた、安易な発想の「復讐略奪合戦を防ぐ派遣」でもあったが、この国を、延いては「この国の民を守る為の派遣」であったのまた真実。
それを理解していてなお感謝無く、ボヤキをこぼすは、上位国として君臨していた「連邦共和国時代の悪癖」が抜けていない故か。
最終目的地をイリスの故郷であるアクア国と定めて北上を続け、今は手前のパラジット国を目指していた。
天世から「神罰と呼ぶ」に等しい重罰を受け、中央政権が文字通り王都ごと消し飛ばされ、情勢が不安定なさ中での復興状況を確認する目的もあり。
だからと言って、滞在していたアルブル国の復興作業が順調な訳ではなかった。
数々の問題点、改善点を残しつつ、アクア国を目指す事が出来たのは、偏(ひとえ)にアルブル国復興作業に携わる人々の後押しがあったればこそ。
それは勇者組に対する忖度などではなく、故国の危機と言う物が当事者にとって、どれほど辛いものであるか身を以て知っていたから。
故国アクアの異変を憂いる彼女に寄り添うラディッシュ達に、異を唱える者など皆無であり、
≪感謝するさねぇ≫
憑き物が落ちた表情のイリス。
悩んでいたのが嘘のような、いつも通りの斜に構えた笑みで、
『これならぁどうさねぇ!』
荷台で、いつもの通りチィックウィードたちとカードゲームに興じながら、
「それにしても四国同盟の人達にぁ感謝しかないさねぇ~」
染み染み頷き笑い、
「人間にぁ「二種類しか居ない」って言葉ぁ、納得しちまうさぁねぇ~」
「二種類って?」
御者台のラディッシュが手綱を引きながら、興味深げに肩越しチラリと視線を送ると、彼女は振り向きニカッと笑って、
『「イイ奴」と「そぅでないヤツ」さねぇ♪』
彼女が取り戻した明るさに、
「単純ですわねぇ~♪」
「ホントさぁ~♪」
御者台のドロプウォートとニプルウォートが呆れ笑うと、チィックウィードの目元がギラリ。
『スキありなぉ♪』
イリスの手札から一枚を、電光石火の早業でスパッと抜き取り、
『あぁ!』
彼女が驚愕の声を上げるが先か、幼子は満面の笑顔で、
『またまたチィのカチなぉ♪♪♪』
手札を全て床に投げ置いた。
『のかぁーーーっ!』
悔し気に頭を掻きむしるイリス。
八つ当たり丸出しで、
「アンタ達が大事な所で話しかけたせいで、またチィ坊に負けたさねぇ!」
御者台の三人に怒りをぶつけ、ドヤ顔のチィックウィードには、
「会話の最中にカードを抜き取るなんてぇ「この悪党」さねぇ!」
負け犬の遠吠えとしか思えぬ恨み節に、仲間たちから笑いが起こると、
『あっ!』
ラディッシュが何かに眼を留め、
「関所が見えて来たよ♪」
「「「「「!」」」」」
荷台の仲間たちも身を乗り出した。
元パラジット共和国の国境に、到着である。
ラディッシュ達が到着する少し前――
関所内に設けられた国境警備隊兵士詰め所内は、
「「「「「「…………」」」」」」
一様にダラけていた。
雑談に花を咲かせる者、居眠りする者、呆けている者、等々。
国境警備とは国防における要の一つである筈が、緊張感のカケラも無い士気の低さであった。
そんな一室に、
『タイヘンだ! 馬車近づいて来るぞぉ!』
血相を変えて駆け込んで来る兵士A。
驚愕の声を上げたが、
「「「「「「…………」」」」」」
誰一人、腰を上げる事も、緊張感を以て即応する事も無く、座したままの兵士Bもおっとりがてら、
「何を今さら焦ってるんだぁ~? どうせまた違法出国者の類いだろぅ? ほっとけほっとけ、よその国が取り締まってくれんだろうぉよ」
雑談に話を咲かせていた兵士Cたちも、
「違いねぇ。天世様に見限られた「罰当たりな国」なんぞに、中世の誰が来るってんだぁ?」
「そんなモノ好き居やしねぇわなぁ~」
「まぁ居るとしたらぁ火事場泥棒くらいかぁ?」
呑気に笑い合っていると、兵士Aはもどかし気に、
『だから、その外から来てるんだってぇ!』
それでも兵士たちは、
「それはそれで、この国から取る物が無ぇのが分かったら、すごすご帰って行くさぁ」
「だなぁ♪」
再び笑い合っていると、
『とは言っても流石になぁ~』
兵士Bが億劫そうに立ち上がり、
「犯罪者集団を素通りさせたのが管理者殿方に知れたら、後が面倒だからなぁ~」
釣られる様に兵士Cたちも、
「四国同盟から派遣されて来てる「あの連中」は御堅いからなぁ~」
愚痴り合いながら、のっそり立ち上がった。
連邦共和国時代に数々行った「理不尽な強権発動」により、形ばかりの連邦の、実質的には傘下にした国々から「数多(あまた)の恨み」を未だ買っているパラジット国。
政権が消失したこの国を守る為に派遣された、エルブ国、フルール国、カルニヴァ国の特使に対し、辟易笑いで平然と悪言をこぼすと、
「やれやれ、お仕事お仕事ぉ」
兵士たちは気ダルそうに、続々と部屋から出て行った。
四国同盟からしてみれば裏の意味として、天世につけ入るスキを見せぬ為、パラジット国弱体化に伴う周辺諸国の武力を用いた、安易な発想の「復讐略奪合戦を防ぐ派遣」でもあったが、この国を、延いては「この国の民を守る為の派遣」であったのまた真実。
それを理解していてなお感謝無く、ボヤキをこぼすは、上位国として君臨していた「連邦共和国時代の悪癖」が抜けていない故か。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
45
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる