ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第六章

6-66

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 その日の夜――

 街道から外れた森の中で野営する勇者一行。
 焚き火で夕食の支度をするラディッシュを中心に、仲間たちが囲むように座る中、御眠り中のチィックウィードを膝に乗せたドロプウォートがおもむろ、

「そうですわ、イリィ」
「んぁ?」
「カルニヴァ国に入る前に、貴方に幾つか「話しておきたい事」がありますのですわ」
「アタシにさね?」
「ええ」

 緊張を纏った彼女の真顔から、
(((((!)))))
 瞬時に悟る、イリス以外の仲間たち。
 これから語られるのが「現カルニヴァ王と妹君の複雑な関係」と「カドウィードの話」であり、重苦しい時間の始まりであろう事を。聞き耳を立てていた、調理中のラディッシュも含め。

 話の内容を知らないイリスでさえ、仲間たちのただならぬ気配に当てられ、
(何だい何だい何なのさぁねぇ、この空気はぁ?!)
 息を呑む中、ドロプウォートはゆっくり口を開き始めた。
 そして開口一番、彼女が口にした言葉とは、

『カルニヴァ国は脳筋国家なのですわぁ。困りました事にフルール国以上の』

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

 一瞬の静寂の後、
『『『『『『『へ?』』』』』』
 身構えていた分、肩透かしを食わされるラディッシュ達。

 イリスも面食らったキョトン顔をしたが、そんな仲間たちを尻目に彼女はくどくどと、
「良いですか、イリィ? カルニヴァ国は何と言いましょうかフルール国とは真逆の男尊女卑な上に、今もってその傾向が色濃く、不快な思いを多々すると思うのですが易々と短気を起こさず、」
 釘を刺すように、

「派手な立ち回りは自重なさって、」
『アンタはアタシの母親かぁい!』

 堪らずツッコム、イリス。
 苦笑交じりに、
「アタシだって馬鹿じゃないさねぇ! 他国にケンカを売るようなマネをしやしないさねぇ!」
 大人としての「余裕と思慮」を持ち合わせているのを大見得切って断言して見せたが、むしろ、その「何処から来たか分からない自信」がラディッシュ達の不安を煽り、

(((((((これはフラグだなぁ……)))))))

 その直感は、正解。
 夜が明け、カルニヴァ国の関所に辿り着いたイリスは、

「…………」
「「…………」」

 関所の入り口を守る「巨漢八子の二人」と、早速ガンの飛ばし合いに興じ、
((((((やっぱり、こうなった……))))))
 呆れ笑う仲間たち。
 何故、そのような事になったのか、話は時間を少し遡り。


 関所に辿り着くラディッシュ達――

 そこは、巨大で堅牢な防壁が国境線を成すカルニヴァ国の、四カ所ある入り口のうちの一つ。
 以前にも訪れた場所であり、警備に当たっていた見上げる程の「巨漢の門番」二人は、見覚えのある勇者一行を視界に捉えるなり、

『『おぉ~っ! 勇者殿方ぁ久々なのでアール! 話は聞いているのでアールぅ♪』』

 どデカイ顔を寄せ、暑苦しさは相変わらず。
 距離感を度外視した大音量の二重奏で歓迎を示すと、
(うっさいねぇ~)
 不快を抱いたイリスが舌の根の乾かぬ内に、

『何だいこの脳筋兄弟はぁ!』

 悪態の一言から、
「「!」」
 気質が自分たちに近いと、瞬時に悟る二人。
 以前にターナップと衝突した時と同様に、同族嫌悪から不快感を露わにムッとして、

『『この母性が極度に薄い、新参の無礼なオナゴはぁ何者でアール!』』
「きょ、極度に薄いぃだとぉ!?」

 過剰に怒りを増すイリス。
 売り言葉に買い言葉でありながらも、二人の極太な指先が「彼女の慎ましやかな胸」を、あからさまに差していたから。
 怒り心頭、
「こっ、このぉ」
 こめかみを激しくヒクつかせ、

『上等さぁねぇアンタらぁあぁ!!!』

 我慢と言う文字を持たない彼女が問答無用で殴り掛かると、

『『受けて立つのでアールぅ!』』

 容赦なく応戦する門番兄弟。
 相手が女性であり、対格差が一目瞭然な上に、二対一であるにも関わらず。
 そんな「細腕女性の大立ち回り」は、

≪勇者殿が新たに連れて来た「新参女」と、門番兄弟がヤリ合ってるってよぉ♪≫

 平時の関所で安穏を持て余す「血の気の多いカルニヴァ兵たち」に瞬く間に伝わり、
≪この機を逃すまい!≫
 集まり業務も忘れて大歓声。

 一方、野次馬たちの輪の中心で、周囲の声など耳にも入らない様子で大人げなく、殴り合う、蹴り合う、イリスと門番兄弟。
 しかし少々押され気味に見えるは、やはりイリスの方。
 数的不利と、対格差は如何ともしがたい問題であった。

 それでも彼女は素早さを武器に攻撃を避け、避けられぬ一撃は両腕でガード、弾き飛ばされながらも致命傷は避け、休むことなく反撃を繰り出していた。
 見ている者の気持ちを高揚させる奮戦に、野次馬たちのボルテージは否が応でも爆上がり、

『どうしたぁ門番兄弟ぃー♪』
『だらしねぇぞぉー♪』
『ネエチャン頑張んなぁー♪』
『負けんなぁー♪』

 背中を押す歓声が上がる一方で、みるみる傷を負って行くイリス。
 その姿にラディッシュは不安を感じ、
「と、止めなくてイイのかなぁ?」
 ドロプウォートとパストリスも、
「長引けば長引くほど不利になり、大怪我の元ですわぁ」
「でぇすでぇす! 女の子が「跡が残る怪我」をしたらタイヘンなのでぇす!」
 頷き合う三人が割って入りに行こうとすると、

『ちょっと待つさぁ!』

 止めたのはニプルウォート。
「「「!?」」」
 納得いかない三人は、
「どうして止めるの、ニプル!」
「そうですわ! 元より彼女に分が悪い戦いですわ!」
「でぇすでぇす!」
 不満を口々にしたが彼女はそれをフッと笑い、

「これだからお育ちのイイ坊ちゃん、嬢ちゃん達はねぇ~」
「「「!」」」

 呆れ口調に三人がムッとすると、ターナップが彼女の言葉足らずを補足する様に、苦笑いを浮かべながら、

「止めに行ったら「一生恨まれる」っスよぉ♪」
「「「?」」」

 意味が分からない様子を見せる三人。
 するとニプルウォートはヤレヤレ笑いで以て、

「アイツの顔をよく見てみるさぁ」
「「「顔?」」」

 促されるまま見ると、

『『『?!』』』

 イリスは圧倒的不利な状況下にありながら、数々の傷を負いながら、清々しい程の笑みを浮かべ戦っていて、驚く三人の傍らでは、彼女の表情から「本能的に何か感じ取った」と思われる幼きチィックウィードが盛んに声援を贈っていた。
「「「…………」」」
 自分たちの「思慮の浅さ」を痛感する三人。

 第三者が、知った風な顔して入り込む余地など無いと知る。
「「「…………」」」
 何気に落ち込む三人に、

「仕方なきにありんすぅ♪」

 この国の生まれのカドウィードは妖艶な笑みでクスリと笑い、

「イリィもまたぁ同族(脳筋)なのでぇありんしょ。気質が近い者同士ぃ、心ゆくまでぇ、気が済むまでぇ、終わるまでぇ、今は待つしかぁありんせぇんぇ♪」

 お国の違い、文化の違いと言ってしまえばそれまでかも知れないが、彼女の言葉には確かな説得力があり、
「「「…………」」」
 三人は、もはや頷く事しか出来なかった。
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