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第六章

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 アルブル国国境近くの違法村を目指すラディッシュ達――

 誰も何も言わない車内。
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
 先の件で生じた「わだかまり」が未だ抜けず、御者台で手綱を引くラディッシュは、

(く、空気が重い……)

 耐え兼ねた彼はパーティーのリーダとして、勇者として、
(こんな時こそ僕が何とかしなきゃ!)
 仲直りのきっかけを作ろうと発起し、

「そっ、そう言えば、前はハクさんの粗相の御蔭で、どの違法村も入る度に散々追いかけ回されて、ホント困ったよねぇ~」
「「「「「「「…………」」」」」」」
「さっ、流石に今回は大丈夫、かなぁ~?」
「「「「「「「…………」」」」」」」

 誰からの同調も、質問も無く、

「あは、あははは……」

 乾いた笑いは次第に尻つぼみ、
「…………」
 ついにラディッシュも沈黙。
(僕って無力だ……一応は勇者で、このパーティーのリーダーなのに……)
 手綱を握ったまま意気消沈すると、

『ラディ』

 御者台に並び座る無言であったドロプウォートに、唐突に声を掛けられ、
(!)
 待ちに待った仲間からの声掛けに、

『何何何っ?!!!』

 満面の笑顔で振り向くと、笑顔の無い彼女は淡々と、
「エルブ国の陛下の時と同様に「謁見の間」からの去り際、フルール陛下に呼び止められてましてですわよね?」
(!?)
 ギョッとした驚きを見せるラディッシュ。
 何か、気まずい事でも隠しているかのような反応を見せた彼に、ニプルウォートも、

「そう言やぁ何を言われたのか、まだ教えて貰ってないねぇ?」

 その一言を皮切りに仲間たちから続々と、

「何を言われたでありんすぅ?」
「何だいアンタぁ、エルブでも王様に呼ばれたのさねぇ?」
「何スかぁ兄貴ぃ、オレ達にぁナイショっすかぁ?」
「ナイショは良くないなのぉでぇすぅ」
「よくナァイ♪ よくナァイ♪」

 沈黙は破られた。
 本人の望まぬ形で。

 向けられた集中砲火に、
(重い空気が変わったのは嬉しいけどぉ……これはちょっとぉ……)
 戸惑いを隠せず、
「ぅえっとぉ……」
 返す言葉にも詰まった。
 その理由とは、女王フルールに言われた話が「エルブ国国王から言われた話と同じ」であったから。

≪新生アルブル国の国王になる気はないかぇ?≫

 やはりと言うべきか、玉座への勧め。
 しかし、丁重に断ったラディッシュ。
 エルブ陛下に話したのと同様に「自身の未熟さ」を伝えると、彼女は変わらぬ妖艶な微笑みを浮かべたまま、

「王として未熟なのはぁ妾とて同じなぁんぇ。それはエルブ、カルニヴァとても。必要なのは王として斯くあるべしと言う「覚悟のみ」にありんす」
「でも僕は……」
「至らぬ所を支えてくれるのがぁ仲間でありぃ、臣下でありぃ、国民でありんすぅ。そしてヌシにはぁ既に、その仲間たちが居りぃんすぇ?」
「!」
「加え、ヌシの功績を鑑みればぁ、アルブルの民とて納得しぃんしょう」

(そうかも知れないけど、でも僕は……)

 語れぬ「秘めた思い」を抱えた様子で黙る彼を、女王フルールはふっと小さく笑い、優しく背中を押すように、

「不安定な世情においてぇ、時間はさほどぉありんせぇんぇ。よく考えてみるんすぇ」

 天世のかつてない不穏な動きを、地世の活発な暗躍をほのめかしたが、それでも彼は「心に留め置きます」とでも言わんばかり、
「はい……」
 小さく頷き、
(みんなに相談したら、みんなも二言返事で背中を押してくれると思うし、手伝ってもくれると思う。でも……今の僕には肝心の「その覚悟」が無い……それに……)
 思い惑い、
(それに玉座に就いたら出来なくなる、どうしても「やってみたい事」もある。みんなには……まだ、話していないことだけど……)
 意識は現在に戻り、

『みんなゴメン』

 優柔不断を感じさせぬ物言いで、

「フルール陛下に言われた事も含めて、今はまだ、話せないんだ……ホントに、ゴメン」
「「「「「「…………」」」」」」

 仲間たちが腑に落ちない様子を見せる中、

『ならば私は待ちますわ。「今はまだ」と言う言葉を信じて』

 声を上げたのはドロプウォート。
 仲間の誰よりも彼の答えを聞きたい筈の彼女の「信頼と我慢」に、
「「「「「「…………」」」」」」
 異を唱える事が出来る者など居なかった。

 彼女の気遣いのお陰で、仲間からの信頼を失わずに済んだラディッシュ。
「ありがとう、ドロプ。心の整理が付いたら、ちゃんと話すから」
「えぇ。皆と共に、その日を待ちますわ」
 彼女は、たおやかな笑みを見せ、それぞれの胸の内に「思う所」は残しつつ、結果としてガス抜きは出来たのか、車内に平穏が戻った。

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