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第六章

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 女騎士たちの気配が遠ざかり、完全に消えると、玉座の女王は、
「さてぇ」
 短く呟くや否や「牛乳瓶の底」の様な●眼鏡を装着、

『パス殿ぉおぉ~~~!』

 玉座から飛ぶようにパストリスに泣き付き、
「小生を助けて欲しいでぇゴザルぅううぅううぅぅうぅう!!!」
 人気恋愛作家モードに急変し、
「「「・・・・・・」」」
 絶句するイリス、カドウィード、チィックウィードの三人。

 中でも彼女に心酔するカドウィードは。

 女帝フルールが人気同人誌作家であったと知らぬ三人は、妖艶さの欠片も無い「真逆の彼女」を目の当たりに、驚きを隠せなかったのである。
 そんな三人を尻目に、女王は余程の難題を抱えているのか困惑笑いのパストリスに泣き付きながら、

『リブロンがぁ! リブロンがぁ安請け合いしたせいで納期が! 納期に! 今度は絶対、間に合わないのでゴザルよぉ~~~!』
「リブロンさんがぁ?!」

 意外な訴えであった。
 元より少々厳しめのスケジュールを組みがちなリブロンではあったが、それはあくまで女王業との兼任を苦慮した結果の産物。
決して不可能なスケジューリングも、マネージメントもしない敏腕マネージャーであった筈が、
「?」
 すると「凛」を絵に描いた様なリブロンまでもが、

『パストリス殿ぉおぉおおおっぉ御助けぉおおぉぉおぉぉおぉ!』

 泣き付きに、
「えぇ?!」
 パストリスは戸惑いを隠せず、
「どぉ、どうしたのでぇすぅ、リブロンさんまでぇ?! もしかしてマネージメントを、」
 失敗したのか問おうとするより先、彼女は女王フルール以上の大泣きで、

『出版社にぃ踊らされてしまったんですぅ~っ!』
「踊ぉ?!」

 彼女は二人に落ち着くよう促しながら、順を追って話を聞くと、事の次第は次の様な物であった。
 出版社の担当者から、

≪手違いで出版枠を一つ余分に空けてしまい困っています≫

 それは「追加で一本書いて欲しい」との遠回しの要求であり、聞かされたリブロンは日頃から無理を聞いて貰っている手前、なんとか手助け出来ない物かとスケジュール帳を開くも、女王フルールの予定は公務に加え、ペンネーム三人分の作家業ですし詰め状態。
「き、気持ちは、なんとかして差し上げたいのですが……」
 すると彼女の口籠りに「手助けの可能性」を見出した担当者は、

『そうだリブロン様ぁ!』

 晴れやかな閃きを以て、

「リブロン様が一本書いていただけませんか!」
「わっ、私がぁ!?」
「そうですよ♪ リブロン様は先生の作品の校正や添削までされているとか! それならば小説に造詣が深いのではありませんか?!」
「まっ、まぁ確かに一般の方より深いとは思いますが、」

『助けると思ってぇお願いしますぅ!』
「…………」

 泣き付きに絆(ほだ)される形で、止む無く一本書いて納品した彼女であったが、それがそもそもの悪夢の始まり。
 納品してしばし後、打ち合わせの折に担当者から、

「部内でのウケは良く、読者からの反応が良かったら漫画化でもしましょう♪」

 しかしこの時点では、社交辞令と受け取るリブロン。
 愛想笑いをしてから、

「そうですね♪ 売れたら絵は、先生にでも描いてもらいましょう♪ 売れたらぁ♪」

 調子を合わせたダケのつもりが、正にフラグ。
 小説は彼女の予想を裏切りマニア受けして大ヒット。

 同時進行中のペンネーム三人分のマネージメントをしているにも関わらず新作を要求され、挙句に担当者から約束を笠に漫画化まで迫られ、窮地に陥る女王フルールと側近リブロン。
 とは言え「漫画化」に至っては正式書類を交わした訳ではなく、あくまで世間話し程度の会話の中で生まれた口約束に過ぎず、反故にしても法的問題は何ら発生しない案件ではあったが、

≪国民との約束を破る行為≫
≪国民の期待を裏切る行為≫

 国政を担う二人は首を横に振る事が出来ず、結果として自らの首を絞める事となり現在に至ると言う、冗談のような話であった。
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