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第六章
6-43
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呆気にとられる彼女たちを尻目に、ドロプウォートは気恥ずかしそうに顔を赤らめながら、
「だっ、だってぇ、これから向かうのは同人誌の総本山、フルール国ですわのよぉ! イリィが「同志となり得(う)る」か否かぁ、いかな嗜好が「琴線に触れる」のかぁ、気になるではありませんかぁ!」
すると、
「プッ!」
ニプルウォートが小さく噴き出し笑いをしたのを皮切りに、仲間たちは束縛から解放された様に笑い出し、
「へ?! え??! なっ、何ですのぉこの笑いはぁ???!」
戸惑う彼女を前に、
『いやぁ~ドロプぅ~アンタぁやるさぁねぇ~アタシぁてっきりぃ♪』
『まさかぁ「この時宜」にぃ、流石のウチもそぅ来るとは思わなかったさぁ♪』
『ドロプさぁん、スゴ過ぎなのでぇすぅ♪』
『まったくにぃありんすなぁ♪』
女同士のプライドを賭けた緊張の場は一転。
「え? え?? えぇ???」
理解の追い付かない様子の彼女を置き去りに、明るい笑いに包まれ、その頃、筋書きのない愛憎劇に出演中のターナップは、
(もぅ勘弁してくれぇ~)
オールアドリブでありながら、徹底したリアリティーを追及する演者兼監督チィックウィードからの厳しい演技指導の数々の下、いつ終わるとも知れない「生き地獄(おままごと)」に晒され、
(ラディの兄貴ぃ~助けてくれぇスぅ~)
救いを求める視線を送ったが、飯の支度に取り組むラディッシュは、
(…………)
済まなそうにサッと眼を背け、
(ゴメンなさいタープさぁん! 頑張ってぇ! 骨は、拾ってあげるからぁ)
(兄貴ぃ~そりゃ無ぇっスよぉ~)
嘆きの眼をした途端、
『ヨソミはゲンキンなぉ! シュウチュウするなぉ!』
チィックウィード監督からのダメ出しが。
(…………)
精神的疲弊が著しいターナップ。
(姉さん方ぁ~早く帰って来て欲しいっスぅ~)
空に向かって懇願していた時、イリスは少々お疲れモードで、
「・・・・・・」
何かに、耳を傾けていた。
彼女は、女子組から「推しの作家の作品」のプレゼンテーションを、代わる代わる受けている真っ最中だったのである。
ドロプウォート(GL)、ニプルウォート(BL)、カドウィード(制服物)の順で、それぞれから神回(かみかい)を使った説明を受けながら「数ページ読む」を繰り返しながら、
(何がそんなに、イイのかぁねぇ~)
今一つ心に響かない中、パストリスの番。
仲間内からは「ハチミツに砂糖をまぶした様だ」と揶揄され、評判は芳しくなかったが、
(エルブの国の本屋さんで発掘したぁ、この新人作家「ユリユリさん」の本ならぁ間違いないのでぇす!)
満を持してプレゼンテーションに挑み、熱く語り、そして尽くし、一仕事終えたような満たされた表情で、
『どぅ~でぇすかぁ、イリィ! そしてぇ皆さぁんもぉ♪』
熱を以て語り過ぎ、少々呼気の荒いパストリスであったが、仲間たちは、
「ど、どぅと言われてましてもぉ……」
ドロプウォートが口籠る一方で、ニプルウォートが少し青い顔して、
「ウチ、ちょっと胸ヤケが……大量の砂糖をまぶしたハチミツを煮込んで「更に濃縮した」みたいさ……」
「えぇ!? 何でぇなのでぇすぅ!」
憤慨する彼女に、カドウィードも体調悪そうに胸元を擦りながら、
「聞いてる方が気恥ずかしくなるほどぉ……「ウブ過ぎ本」にぃありんすなぁ……」
「むぅ! ボクは皆さぁんの感性を疑うなのでぇす! 皆さんの心は穢れているのでぇすぅ!」
パストリスは立腹したが、同志を求める彼女は「一転した笑顔」をイリスに向け、
「イリィは、どうでしたぁ♪」
顔を寄せると、
「!」
彼女は一瞬、ビクッとしてから、
「えっ、えぇ~と、さねぇ……」
気マズそうに視線を逸らし、
「まっ、まぁ、好みは人それぞれ、さぁねぇ……」
『のぉ!!!?』
慄くパストリス。
≪同志獲得ならず≫
誰からの賛同を得られず、
「そぅ……なのぉでぇすかぁ……」
寂しげに微笑んだが、この時イリスは、
≪ゴメンよぉ、パスト!≫
何故、彼女が心の中で謝罪したのか。
それは、プレゼンテーションされた数々の作品の中で、唯一心を、激しく揺さ振られたのが「彼女が推した本」だったから。
イリスは、パストリスの同志としての扉を開いていた。
イリスの心根は、パストリスと良い勝負の「無垢なる乙女」だったのである。
無自覚に閉ざされていた彼女の扉は、今、「気付き」と「解放の時」を迎えたのであったが、
(いっ、言える訳が無いさぁねぇ!)
その理由とは、
≪こんな「ガラッパチ」なアタシがぁ、何も知らない「純粋ド生娘」みたいな本がぁ、実は「大好物」だったなぁんてぇねぇ!≫
当人が「自身のキャラ」を自覚しているが故に、そのギャップ差から打ち明けられずにいたのが真相であった。
彼女は「目覚めてしまった嗜好」をひた隠し、
「ざぁ、残念ながらアタシの琴線に触れる本は、一つも無かったさねぇ~」
聖典と気付いた本に対する罪悪感と、同志に対する自責の念に苛まれながら、表面上は平静を務めながら、プレゼンテーションの数々で凝った体をほぐす様に背伸びをしながら、
「さぁ~てぇ、そろぉそろぉ戻るとするさぁねぇ~」
「「「…………」」」
些か残念そうな顔を見合わせるドロプウォート、ニプルウォート、カドウィード。
パストリスと同様に、同志獲得とはならなかったから。
しかし、内に隠した「秘め事」を晒した結果、イリスとの心の距離は確実に縮まり、
「ですわねぇ。チィちゃんが心配ですし、戻りましょうですわぁ♪」
「だなぁ。話し込んでたら、小腹が空て来ちまったしさぁ♪」
「旦様にぃ、焼き菓子でも用意して頂きんしょぅ♪」
「賛成なのでぇすぅ♪」
女子組は、ラディッシュ達の下へ戻って行った。
「だっ、だってぇ、これから向かうのは同人誌の総本山、フルール国ですわのよぉ! イリィが「同志となり得(う)る」か否かぁ、いかな嗜好が「琴線に触れる」のかぁ、気になるではありませんかぁ!」
すると、
「プッ!」
ニプルウォートが小さく噴き出し笑いをしたのを皮切りに、仲間たちは束縛から解放された様に笑い出し、
「へ?! え??! なっ、何ですのぉこの笑いはぁ???!」
戸惑う彼女を前に、
『いやぁ~ドロプぅ~アンタぁやるさぁねぇ~アタシぁてっきりぃ♪』
『まさかぁ「この時宜」にぃ、流石のウチもそぅ来るとは思わなかったさぁ♪』
『ドロプさぁん、スゴ過ぎなのでぇすぅ♪』
『まったくにぃありんすなぁ♪』
女同士のプライドを賭けた緊張の場は一転。
「え? え?? えぇ???」
理解の追い付かない様子の彼女を置き去りに、明るい笑いに包まれ、その頃、筋書きのない愛憎劇に出演中のターナップは、
(もぅ勘弁してくれぇ~)
オールアドリブでありながら、徹底したリアリティーを追及する演者兼監督チィックウィードからの厳しい演技指導の数々の下、いつ終わるとも知れない「生き地獄(おままごと)」に晒され、
(ラディの兄貴ぃ~助けてくれぇスぅ~)
救いを求める視線を送ったが、飯の支度に取り組むラディッシュは、
(…………)
済まなそうにサッと眼を背け、
(ゴメンなさいタープさぁん! 頑張ってぇ! 骨は、拾ってあげるからぁ)
(兄貴ぃ~そりゃ無ぇっスよぉ~)
嘆きの眼をした途端、
『ヨソミはゲンキンなぉ! シュウチュウするなぉ!』
チィックウィード監督からのダメ出しが。
(…………)
精神的疲弊が著しいターナップ。
(姉さん方ぁ~早く帰って来て欲しいっスぅ~)
空に向かって懇願していた時、イリスは少々お疲れモードで、
「・・・・・・」
何かに、耳を傾けていた。
彼女は、女子組から「推しの作家の作品」のプレゼンテーションを、代わる代わる受けている真っ最中だったのである。
ドロプウォート(GL)、ニプルウォート(BL)、カドウィード(制服物)の順で、それぞれから神回(かみかい)を使った説明を受けながら「数ページ読む」を繰り返しながら、
(何がそんなに、イイのかぁねぇ~)
今一つ心に響かない中、パストリスの番。
仲間内からは「ハチミツに砂糖をまぶした様だ」と揶揄され、評判は芳しくなかったが、
(エルブの国の本屋さんで発掘したぁ、この新人作家「ユリユリさん」の本ならぁ間違いないのでぇす!)
満を持してプレゼンテーションに挑み、熱く語り、そして尽くし、一仕事終えたような満たされた表情で、
『どぅ~でぇすかぁ、イリィ! そしてぇ皆さぁんもぉ♪』
熱を以て語り過ぎ、少々呼気の荒いパストリスであったが、仲間たちは、
「ど、どぅと言われてましてもぉ……」
ドロプウォートが口籠る一方で、ニプルウォートが少し青い顔して、
「ウチ、ちょっと胸ヤケが……大量の砂糖をまぶしたハチミツを煮込んで「更に濃縮した」みたいさ……」
「えぇ!? 何でぇなのでぇすぅ!」
憤慨する彼女に、カドウィードも体調悪そうに胸元を擦りながら、
「聞いてる方が気恥ずかしくなるほどぉ……「ウブ過ぎ本」にぃありんすなぁ……」
「むぅ! ボクは皆さぁんの感性を疑うなのでぇす! 皆さんの心は穢れているのでぇすぅ!」
パストリスは立腹したが、同志を求める彼女は「一転した笑顔」をイリスに向け、
「イリィは、どうでしたぁ♪」
顔を寄せると、
「!」
彼女は一瞬、ビクッとしてから、
「えっ、えぇ~と、さねぇ……」
気マズそうに視線を逸らし、
「まっ、まぁ、好みは人それぞれ、さぁねぇ……」
『のぉ!!!?』
慄くパストリス。
≪同志獲得ならず≫
誰からの賛同を得られず、
「そぅ……なのぉでぇすかぁ……」
寂しげに微笑んだが、この時イリスは、
≪ゴメンよぉ、パスト!≫
何故、彼女が心の中で謝罪したのか。
それは、プレゼンテーションされた数々の作品の中で、唯一心を、激しく揺さ振られたのが「彼女が推した本」だったから。
イリスは、パストリスの同志としての扉を開いていた。
イリスの心根は、パストリスと良い勝負の「無垢なる乙女」だったのである。
無自覚に閉ざされていた彼女の扉は、今、「気付き」と「解放の時」を迎えたのであったが、
(いっ、言える訳が無いさぁねぇ!)
その理由とは、
≪こんな「ガラッパチ」なアタシがぁ、何も知らない「純粋ド生娘」みたいな本がぁ、実は「大好物」だったなぁんてぇねぇ!≫
当人が「自身のキャラ」を自覚しているが故に、そのギャップ差から打ち明けられずにいたのが真相であった。
彼女は「目覚めてしまった嗜好」をひた隠し、
「ざぁ、残念ながらアタシの琴線に触れる本は、一つも無かったさねぇ~」
聖典と気付いた本に対する罪悪感と、同志に対する自責の念に苛まれながら、表面上は平静を務めながら、プレゼンテーションの数々で凝った体をほぐす様に背伸びをしながら、
「さぁ~てぇ、そろぉそろぉ戻るとするさぁねぇ~」
「「「…………」」」
些か残念そうな顔を見合わせるドロプウォート、ニプルウォート、カドウィード。
パストリスと同様に、同志獲得とはならなかったから。
しかし、内に隠した「秘め事」を晒した結果、イリスとの心の距離は確実に縮まり、
「ですわねぇ。チィちゃんが心配ですし、戻りましょうですわぁ♪」
「だなぁ。話し込んでたら、小腹が空て来ちまったしさぁ♪」
「旦様にぃ、焼き菓子でも用意して頂きんしょぅ♪」
「賛成なのでぇすぅ♪」
女子組は、ラディッシュ達の下へ戻って行った。
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