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第六章

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 自身が「おとり」となる事で時間を稼ぎ、子供たちの生存確率を少しでも高めようとの神風的、挺身的発想を基にした最終手段であり、三人も幼いながらに今生の別れを感覚的に感じ取り、
「「「…………」」」
 躊躇いを見せたが、

『オレっちも、後から必ず追い掛けるからよぉ♪』

 その軽やかさを装った笑顔と言葉から「何かしらの決意」と言うモノを感じ、
(((ここにいたら兄ちゃんのジャマになる!)))
 頷き合うと、

『『『ゼッタイだよぉ!』』』

 彼が指差した方へ走り出した。
 しかし次第に遠ざかる三つの小さな背に、
(すまねぇな、ザリス、オラム、フリジ……大人ってヤツぁ、根っから嘘つきなのさぁ……)
 彼は寂しげに笑って振り向きざま、

『こっから先は通さねぇ!!!』

 異形の群れに咆哮したが、
「なっ!」
 既に目の前に、人狼の怪しく光る爪先が。

『クソがぁあぁあ!』

 怯まず下がらず前に出るインディカ。
 それは勇気を要する咄嗟の判断であったが、まかり下がっていたならば更に踏み込まれ、爪は彼の顔面を捉え、即死は不可避。
爪の餌食となるところであった。
 とは言え、英断で初手をかわしたからと言って不利な状況が一転する訳も無く、一撃でもその身に受ければ致命傷の状況に変わりなく、子供たちの逃走時間を稼ぐ為にも、

(クソがぁ! 易々とくたばってぇたまるかよォ!)

 それは生存本能の強さが成した技か、子供たちを守る為に発揮された「火事場の馬鹿力」か、初手をかわした彼は反射的に、即座に顔の横に左腕を立て、高速の次撃をガード。

 ドガァアァア!

 顔面への直撃を防いだ。
 しかし相手は「人知を超えた怪物」であり、その様な者からの一撃を生身で受け止めては、

 メキィメキィイッ!

 何かが砕けるイヤな音と同時、
「グクッ!」
 耐え難い激痛から顔を歪めた彼は、そのまま数十メートルも弾き飛ばされ、

 ダガァアアン!
『がぁはぁ!』

 巨木の幹に背中から激突。
 グシャッと言う痛ましい鈍い音を立て地に落ちた。
 地に横たえ、途切れ途切れの意識の中、余裕を見せつけるように悠然と近づく人狼の足の向こうに見えたのは、

(ッ!?)

 子供たちが逃げた方へ、大移動を開始する汚染獣の群れ。
 数頭と思われた群れの、数十頭にも上る実数に、
(な……なんてぇ数が……居やがったんだぁ……)
 驚愕しつつ、

(まっ……待ちやがれぇ……)

 しかし体は動かない。
 痛みも感じない。
 指先一本、動かす事さえままならず、次第に薄れ行く意識の中、
(ガキ共も……死んじまう……のか……)
 脳裏をよぎったのは「変わり果てた子供たち」の姿と、未だ目の奥に焼き付いて離れない、過度に厳しかった思い出しかない「事故死した両親」の亡骸。

「ッ!」

 ハッとするインディカ。
(コレじゃ時間稼ぎにもなってねぇ! 単なる無駄死にじゃねぇかよォ!)
 奥歯をギリッと噛み締めると動かぬ体に、

『根性見せろやぁあっぁぁあぁ!』

 叱責しながら、折れた左腕を押さえ、生まれたての小鹿の如き足取りではあったが立ち上がり、立っている事さえままならない体で、

『コッチ見ろやぁボケカス共がァアーーーーーーッ!』

 精一杯の雄叫びを上げた。
 無論、その程度で汚染獣の群れが標的を変える事は無く、それを理解する彼は、
(シカト上等ぉ! イヤでもコッチぃ向かせてぇやんぜぇ!)
 死相が浮かんだ瀕死の顔の中に不敵な笑みを浮かべ、

≪天世より授かりし恩恵を以てぇ我が眼前の敵を打ち滅ぼさぁん!≫

 天法を発動する前小節を唱え、その身を白銀の輝きに包み込むと、

「「「「「「「「「「ガァルァ?!」」」」」」」」」」

 行軍を止め、一斉に振り返る汚染獣の群れ。
 良質なエサであるのを認識させ足止めには成功したが、

「チッ!」

 輝きが安定せず強弱を繰り返し、
(ま……マジメに修行しとけやぁ良かったぜぇ……お陰でオジキから、後小節を一っつも教えてもらえてねぇしぃ……)
 彼は汚染獣と渡り合う為の「天技に繋がる後小節」を、一つとして教えてもらっていなかった。
 修行不足を今更のように後悔こそしたが、

(だがよぉ♪)

 青ざめた顔に不敵な笑みを浮かべ、
(ヤツ等を釣るには十分だったぜぇ! さぁコッチに来やがれぇってんだクソどもぉ!)
 歩みを止めた汚染獣の群れを睨み見た。
 ところが、

(なっ?!)

 子供たちが逃げた方へ、行軍を再開する汚染獣の群れ。
 それは、上位種である合成獣のエサを「横取りする訳にはいかない」との、弱肉強食的な反応か。
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