318 / 706
第五章
5-32
しおりを挟む
木々に囲まれた街道をニ十分ほど歩いて後――
波打つ畑の畝(うね)の連なりが見え始めると、その奥に小さながらも、町と同様に白い外壁を持った家屋が点々と見え始め、
((((((天世人の村……))))))
ラディッシュ達は初対面となる「天世の村」を前に、天世に初めて足を踏み入れた時の様な興奮を覚えていた。
ターナップの背で疲れて眠る、チィックウィードは別として。
しかし着いた村には、
((((((誰も居ない……))))))
ひと気が無く、
「「「「「「…………」」」」」」
言葉でうまく表現できない違和感も。
人の気配が感じられないにも関わらず、家も、庭も、畑も、あぜ道や用水路にいたるまで綺麗に整い、ゴミどころか雑草の一本もなく、畑の畝に崩れなども皆無で、徹底して管理されている様子が窺え、言うならば「異様に綺麗」すぎ。
生活感が感じられず、模型かモデルハウスの様であり、揚げ足取り的に言うならば、模範のサンプル画像をコピーペーストで貼り付けて作ったように見える村で、人の手による温もりが感じられぬ、非現実的な光景に見えたのであった。
とは言え、それは一方的な「偏見」とも取れる見方。
手入れが行き届いているのは事実であり、ラディッシュは失礼に当たらないよう言葉を慎重に選びながら、
「む、村の人達は、凄く、丁寧に手入れしてるんでぇすね♪」
慎重になり過ぎて多少引きつり気味の笑顔で褒めると、スパイダマグは一枚布で隠した素顔に、意外そうな空気を漂わせ、
「手入れ?」
「え? あ、だ、だって畑に雑草の一つも生えてないし、用水路に落ち葉とかの汚れも無くて……」
すると彼は何ごとか察した様に「なるほど」と頷きを一つ見せてから、
「天世の農家の者は、何の作業もしておりませんぞ」
「「「「「「えぇ!?」」」」」」
ラディッシュ達の「信じ難い」と言った驚きを前に、
「作業は全て「プリズニア」が定期的に行っております」
((((((ぷ、プリズニア?))))))
初耳の名称。
疑問形の顔を見せる六人に、スパイダマグは言葉足らずに気付き、
「プリズニアとは天世における、「終身刑を受けた者」たちのことです」
「「「「「「終身刑ぇえ?!」」」」」」
それほどの「重刑を受けた者」たちに作業を任せきりにしている行為に、他人事ながら不安がよぎったが、察した彼は慌てる事も無く、
「大丈夫なのです。理由は……まぁ、おいおい……」
お茶を濁し、
((((((?))))))
「勇者様方は、何故に天世が「春のように気候が穏やか」であるか分かりますか?」
体よく話を逸らされた。
((((((…………))))))
そこに何があるのか気にはなったが、
(言いたくない事を無理に言わせるのは、なんかイヤだなぁ)
ラディッシュは思い改め、同意の仲間たちも「問いただし」はせず、問われに対して、
(((((「なんで」って?)))))
首を傾げると、スパイダマグは気遣いに密やかな感謝を抱きつつ、
(少々難し過ぎましたね……)
自省し、
「中世の人々の「祈り」から得られるチカラによって「天技を発動」し、天候や気候を安定させているからなのです」
「「「「「「え?」」」」」」
「加えて、野菜の生育の妨げとなる病気や害虫なども、中世の人々の「祈り」から得られるチカラによって、自動的に排除されているのです」
「「「「「えぇ?!」」」」」
驚きを隠せない中世の人々、ドロプウォート達。
自分たちが幼い頃より捧げて来た「祈り」の、意外な使われ方の真実に。
それと同時、
(((((全てがぁ他力本願?!)))))
呆気にとられる中、異世界人ラディッシュは、
(天候は穏やかで、手入れもされている? それなら野菜が美味しくならないのは……?)
引き算的に、原因となりうる「とある可能性」に至り、
「肥料も、天技であげるか、プリズニアの人が与えてるんですか?」
するとスパイダマグは、
「ヒリョウ?」
「え? あ、はい……いやぁですから野菜を育てるのに必要な栄養を、」
「普通に育つのでしたら、あえて「何か」を追加で与える必要など無いのでは?」
「「「「「「へ?」」」」」」
「ん?」
互いの認識のズレに、
「「「「「「…………」」」」」」
「…………」
一瞬黙り合い、そしてラディッシュ達は理解する。
天世の野菜や果物たちは見た目が綺麗であるのに、味が極度に薄い理由を。
農作は肥料を大地に与えるなど土壌を改良し、土づくりから始め、収穫した後も「連作障害」を防ぐ為に「同じ作物を同じ場所で何度も作らない」など、土地を休ませ地力(ちりょく)を回復させ、土地を痩せさせず、病気を防いだりするのだが、天世ではその作業が一切行われていなかったのである。
通常であれば土地が地力を失いやせ細り、作物が育たなかったり、病気になったりと、収穫量が激減する。
しかし天法により天候は十分で、病気は浄化され、障害さえも祓われ、成長の妨げとなる全てが天技により補完されていたのであった。
言うなれば「土を使って栽培」はしてはいるが、大地から何の恵みも得られておらず、何の栄養も無い「水分だけで栽培」しているのと変わらない状況で、形ばかりの収量を得られているとは言え、味が薄いのも当然。
栽培されている農作物は、水しか摂取していないのだから。
その様な物を口にしている、海や陸の動物達も言わずもがな。
波打つ畑の畝(うね)の連なりが見え始めると、その奥に小さながらも、町と同様に白い外壁を持った家屋が点々と見え始め、
((((((天世人の村……))))))
ラディッシュ達は初対面となる「天世の村」を前に、天世に初めて足を踏み入れた時の様な興奮を覚えていた。
ターナップの背で疲れて眠る、チィックウィードは別として。
しかし着いた村には、
((((((誰も居ない……))))))
ひと気が無く、
「「「「「「…………」」」」」」
言葉でうまく表現できない違和感も。
人の気配が感じられないにも関わらず、家も、庭も、畑も、あぜ道や用水路にいたるまで綺麗に整い、ゴミどころか雑草の一本もなく、畑の畝に崩れなども皆無で、徹底して管理されている様子が窺え、言うならば「異様に綺麗」すぎ。
生活感が感じられず、模型かモデルハウスの様であり、揚げ足取り的に言うならば、模範のサンプル画像をコピーペーストで貼り付けて作ったように見える村で、人の手による温もりが感じられぬ、非現実的な光景に見えたのであった。
とは言え、それは一方的な「偏見」とも取れる見方。
手入れが行き届いているのは事実であり、ラディッシュは失礼に当たらないよう言葉を慎重に選びながら、
「む、村の人達は、凄く、丁寧に手入れしてるんでぇすね♪」
慎重になり過ぎて多少引きつり気味の笑顔で褒めると、スパイダマグは一枚布で隠した素顔に、意外そうな空気を漂わせ、
「手入れ?」
「え? あ、だ、だって畑に雑草の一つも生えてないし、用水路に落ち葉とかの汚れも無くて……」
すると彼は何ごとか察した様に「なるほど」と頷きを一つ見せてから、
「天世の農家の者は、何の作業もしておりませんぞ」
「「「「「「えぇ!?」」」」」」
ラディッシュ達の「信じ難い」と言った驚きを前に、
「作業は全て「プリズニア」が定期的に行っております」
((((((ぷ、プリズニア?))))))
初耳の名称。
疑問形の顔を見せる六人に、スパイダマグは言葉足らずに気付き、
「プリズニアとは天世における、「終身刑を受けた者」たちのことです」
「「「「「「終身刑ぇえ?!」」」」」」
それほどの「重刑を受けた者」たちに作業を任せきりにしている行為に、他人事ながら不安がよぎったが、察した彼は慌てる事も無く、
「大丈夫なのです。理由は……まぁ、おいおい……」
お茶を濁し、
((((((?))))))
「勇者様方は、何故に天世が「春のように気候が穏やか」であるか分かりますか?」
体よく話を逸らされた。
((((((…………))))))
そこに何があるのか気にはなったが、
(言いたくない事を無理に言わせるのは、なんかイヤだなぁ)
ラディッシュは思い改め、同意の仲間たちも「問いただし」はせず、問われに対して、
(((((「なんで」って?)))))
首を傾げると、スパイダマグは気遣いに密やかな感謝を抱きつつ、
(少々難し過ぎましたね……)
自省し、
「中世の人々の「祈り」から得られるチカラによって「天技を発動」し、天候や気候を安定させているからなのです」
「「「「「「え?」」」」」」
「加えて、野菜の生育の妨げとなる病気や害虫なども、中世の人々の「祈り」から得られるチカラによって、自動的に排除されているのです」
「「「「「えぇ?!」」」」」
驚きを隠せない中世の人々、ドロプウォート達。
自分たちが幼い頃より捧げて来た「祈り」の、意外な使われ方の真実に。
それと同時、
(((((全てがぁ他力本願?!)))))
呆気にとられる中、異世界人ラディッシュは、
(天候は穏やかで、手入れもされている? それなら野菜が美味しくならないのは……?)
引き算的に、原因となりうる「とある可能性」に至り、
「肥料も、天技であげるか、プリズニアの人が与えてるんですか?」
するとスパイダマグは、
「ヒリョウ?」
「え? あ、はい……いやぁですから野菜を育てるのに必要な栄養を、」
「普通に育つのでしたら、あえて「何か」を追加で与える必要など無いのでは?」
「「「「「「へ?」」」」」」
「ん?」
互いの認識のズレに、
「「「「「「…………」」」」」」
「…………」
一瞬黙り合い、そしてラディッシュ達は理解する。
天世の野菜や果物たちは見た目が綺麗であるのに、味が極度に薄い理由を。
農作は肥料を大地に与えるなど土壌を改良し、土づくりから始め、収穫した後も「連作障害」を防ぐ為に「同じ作物を同じ場所で何度も作らない」など、土地を休ませ地力(ちりょく)を回復させ、土地を痩せさせず、病気を防いだりするのだが、天世ではその作業が一切行われていなかったのである。
通常であれば土地が地力を失いやせ細り、作物が育たなかったり、病気になったりと、収穫量が激減する。
しかし天法により天候は十分で、病気は浄化され、障害さえも祓われ、成長の妨げとなる全てが天技により補完されていたのであった。
言うなれば「土を使って栽培」はしてはいるが、大地から何の恵みも得られておらず、何の栄養も無い「水分だけで栽培」しているのと変わらない状況で、形ばかりの収量を得られているとは言え、味が薄いのも当然。
栽培されている農作物は、水しか摂取していないのだから。
その様な物を口にしている、海や陸の動物達も言わずもがな。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
僕の従魔は恐ろしく強いようです。
緋沙下
ファンタジー
僕は生まれつき体が弱かった。物心ついた頃から僕の世界は病院の中の一室だった。
僕は治ることなく亡くなってしまった。
心配だったのは、いつも明るく無理をして笑うお母さん達の事だった。
そんな僕に、弟と妹を授ける代わりに別の世界に行って見ないか?という提案がもたらされた。
そこで勇者になるわけでもなく、強いステータスも持たない僕が出会った従魔の女の子
処女作なのでご迷惑かける場面が多数存在するかもしれません。気になる点はご報告いただければ幸いです。
---------------------------------------------------------------------------------------
プロローグと小説の内容を一部変更いたしました。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした
せんせい
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。
その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ!
約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。
―――
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる