上 下
310 / 706
第五章

5-24

しおりを挟む
 様々な食材が置かれた調理台を前に――

(はぁ~)

 思わず、ため息を吐くラディッシュ。
(なぁ~んかぁ面倒な事にぃなっちゃったなぁ~)
 ボヤくように呟やいていると、

『パパ♪』

 チィックウィードが足元にしがみ付き、
「ん?」
 驚き見下ろす顔を、彼女は満面の笑顔の見上げ、

「パパのゴハンはイチバンなぉ♪ ぜったい、まけないなぉ♪」
「!」

 その笑顔に、
(負ける訳にはいかなくなっちゃった、かなぁ?)
 ニコリと笑いながら彼女の目線の高さまで屈むと、

「そうだね。チィちゃんが「嘘つきじゃない」って証明する為にも、パパは負ける訳にはいかないねぇ♪」
「うん!」

 天使の笑顔に続き仲間たちからも、

『ラディなら絶対に勝てますですわ!』
『ラディが負ける筈が無いさ!』
『ラディさんなら絶対に大丈夫なのでぇす!』
『手加減は無用ですのよぉ!』
『ラディの兄貴ぃ信じてヤスぜぇ!』

 少々強めの激励が続き、「叱咤」を多分に含んだ声援に、
(みんな、あの人(ミネズ)が苦手(嫌い)なんだなぁ)
 思わず小さく苦笑した。
 しかし「可愛い我が子(仮)」を相手にした、容赦ない「高飛車な態度」と「物言い」が癇に障っていたのはラディッシュも同じ。

(勝たないとね)

 密かに闘志を燃やしていた一方で、
「大丈夫であろうな?」
 不安を口にするコマクサ。
 準備中のミネズに顔を寄せ、
「天世における「元老院の料理人」たるウヌが、よもや「異世界人」や「中世の民」ごときの、しかも素人に遅れを取るなど無かろうな?」
「何を心配されておいでか、コマクサ様ぁ♪」
 ミネズは「自信の笑顔」で一蹴し、

「その様な事など万に一つも、あり得ませんのですわ! 格の違いと言うモノを、見せつけて御覧に入れますですわ♪」
「うっ、ウヌ。な、ならば良いのだが……」

 過剰な自信に一抹の懸念を残しつつ、
「た、頼んだぞ」
 チョウカイとハイマツが待つ、長テーブルの自席に戻る間、
(どうしよう?)
 腕組みして思案するのはラディッシュ。

 用意された豊富な食材を前に、
(肉や魚は身を見れば、だいたい「味の予想」はつくけど野菜が……)
 既に調理を開始しているミネズをチラ見し、

(悩んでいても仕方が無いかぁ)

 腹を括ると根菜類の一つを手に取って、例の如くに生のままヒト齧り。
 ミネズのギョッとした視線を遠目に感じつつ、初見となる他の野菜も次々齧って味を確認し、調理補助に就いていたパストリスやチィックウィードにではなく、少し離れて見守る一団の一人のターナップに、

「タープさん、悪いけど、男性用着替え室から、僕の手荷物を持って来てもらえるかなぁ?」
「!」

 瞬時に意図を察した彼は、

「了解っス、兄貴ぃ!」

 軽やかな笑顔を返すと、即座に部屋から出て行った。
 その間にも、対戦相手の料理人ミネズは着々と調理を進め、一品、二品と、安定した速度を以て作り上げ、その仕上がりも彼の「過剰な自負」が伊達では無いのを示す通り、食欲をそそる見た目を持たせつつ華やかさは失わず、宮廷料理として申し分ない、彼の「料理人としての腕」は、確かな物であるのを窺わせた。

 しかし、未だ調理を始めないラディッシュを横目に、
(シッシッシッ♪ 愚鈍ですわね~。調理は速さが命と言うのに、未だ調理も始められていないなんてぇ~)
 小さくほくそ笑み、元老院の御歴歴が危惧する様に、性格に難ありであるのも改めて窺わせた。

 そんなさ中、議場に居た他の御歴歴が料理対決の噂を聞きつけたらしく、野次馬として続々集まり、
「…………」
 流石に不安を覚え始める調理補助のパストリス。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

フルン・ダークの料理人

藤里 侑
ファンタジー
料理人・神名咲は、ある日突然、別世界に飛ばされてしまう。 右も左も分からず途方に暮れていたところ、レストラン「フルン・ダーク」の人びとに助けられる。 そのレストランは古く、暖かな場所であったが、料理長が代替わりしてからというもの、客足が遠のき、不安を抱えていた。 咲は、フルン・ダークのお世話になることになったのだが、そこで不思議な夢を見る。 混乱のせいで妙な夢を見たのだと思い込む咲。 しかし、その夢が、店の運命を変えることになる―― *小説家になろう・カクヨムでも連載中

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...