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第五章
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チョウカイから何事かのアドバイスを受けて後日――
眉間に不快なシワを寄せ、
『またウヌかァ!』
怒り心頭な御様子なのは、元老院の実質的ナンバーワンのコマクサ。
「ウヌと話す事など何も無い!」
露骨な鬱陶しさを以てスパイダマグをあしらったが、彼は傍らに跪いたまま引き下がる様子も見せずに淡々と、
「ラディッシュ殿が来られぬは、ハクサン様に貶められた天世の庇護下にある四国の一国である「アルブル」をば付け狙う、賊国から守っておられるが故」
「…………」
黙するコマクサ。
ラディッシュ達が色々な意味で「天世を守る」と言う、天世の勇者としての「役割」を果たしているのみならず、天世人がしでかした「尻拭い」までさせているとの裏の意を察したから。
如何に頑ななコマクサと言えど、その理不尽さは分かるが故に黙してしまったのだが、
(此奴(こやつ)め、ワシの良心に揺さ振りをかけて来おったか!)
物言いから計略を感じ取り、不愉快を滲ませた。
しかしスパイダマグは、
「それもこれも昨今、パラジット国の愚行が表す様に「ラミウム様の献身」を忘れ、天世を軽んじる中世人が増えているが故と存じます」
「…………」
(搦め手で、ワシを口説き落としに来たのではないのか?)
昨日までとは一線を画す言い回しに、警戒心を解くことなく、
「ウヌは、何が言いたい」
するとスパイダマグは、一枚布で隠した素顔の口元に不敵な笑みを浮かべ、
「天世の意に従わぬ輩には「躾(しつけ)が必要」なのではないか、と」
(!)
ラディッシュ達が天世に来られない原因を作っている者達への「制裁」を促し、かつ原因を排除する事での「ラディッシュ達の自主的な参上」の可能性を示唆すると、
『なるほどのぉ、確かに躾は必要だ』
コマクサが、仄暗い腑に落ちた笑みを見せた。
パラジット国の首都パラジクスが問答無用で消滅に至ったのは、それから数日後の事である。
一つの大都市の完全消滅を目の当たりにし、
(そこまでするのか?!)
衝撃を受けるスパイダマグ。
きっかけを作った張本人ながらも、よもや弁明の機会も与えず、暮らしている人々ごと「町を消し去る」などとは流石に思っていなかったのである。
パラジクスが消えなければならなかった理由とは、天世の権威を中世の人々に改めて示す為であり、天世のプライドを維持する為の、言うなれば「見せしめ」であった。
しかしながらその効果は極めて絶大。
パラジット国に従属国扱いされていた元共和国の国々は、虎視眈々と復讐の機会をうかがっていたにもかかわらず、国政を完全に失った国に対し、
≪アルブル国の庇護下にある「彼(か)の国」に手を出すは、二の舞を被るのでは?!≫
無言の圧力を感じ、侵攻計画の全てを白紙に戻した。
その火の粉は、想定外の角度からラディッシュ達にも。
損害を受けた地域の「復興作業と情勢安定化」を理由に、天世からの召喚要請を拒み続けていた七人であったが、プレッシャーを感じたエルブ国を始めとする四国が保留期間の長さに焦りを覚え、
≪勇者たちよ! 直ちに天世へ向かうのだぁ!≫
急き立てる王命を下したのであった。
故国からの勅書で急かされては、流石のドロプウォート達もゴネて中世に留まっている訳にもいかず、
「行くしかない、ですわねぇ……」
「だねぇ……」
「でぇすでぇすねぇ……」
「そうっスねぇ……」
「そぅさねぇ……」
「そう、ですのよねぇ……」
大人たちが渋々を見せる一方で、
『イクしかなぁい♪ イクしかなぁい♪』
上機嫌の御様子で連呼する、チィックウィード。
((((((…………))))))
何を、何処まで理解しているのか、いないのか。
眉間に不快なシワを寄せ、
『またウヌかァ!』
怒り心頭な御様子なのは、元老院の実質的ナンバーワンのコマクサ。
「ウヌと話す事など何も無い!」
露骨な鬱陶しさを以てスパイダマグをあしらったが、彼は傍らに跪いたまま引き下がる様子も見せずに淡々と、
「ラディッシュ殿が来られぬは、ハクサン様に貶められた天世の庇護下にある四国の一国である「アルブル」をば付け狙う、賊国から守っておられるが故」
「…………」
黙するコマクサ。
ラディッシュ達が色々な意味で「天世を守る」と言う、天世の勇者としての「役割」を果たしているのみならず、天世人がしでかした「尻拭い」までさせているとの裏の意を察したから。
如何に頑ななコマクサと言えど、その理不尽さは分かるが故に黙してしまったのだが、
(此奴(こやつ)め、ワシの良心に揺さ振りをかけて来おったか!)
物言いから計略を感じ取り、不愉快を滲ませた。
しかしスパイダマグは、
「それもこれも昨今、パラジット国の愚行が表す様に「ラミウム様の献身」を忘れ、天世を軽んじる中世人が増えているが故と存じます」
「…………」
(搦め手で、ワシを口説き落としに来たのではないのか?)
昨日までとは一線を画す言い回しに、警戒心を解くことなく、
「ウヌは、何が言いたい」
するとスパイダマグは、一枚布で隠した素顔の口元に不敵な笑みを浮かべ、
「天世の意に従わぬ輩には「躾(しつけ)が必要」なのではないか、と」
(!)
ラディッシュ達が天世に来られない原因を作っている者達への「制裁」を促し、かつ原因を排除する事での「ラディッシュ達の自主的な参上」の可能性を示唆すると、
『なるほどのぉ、確かに躾は必要だ』
コマクサが、仄暗い腑に落ちた笑みを見せた。
パラジット国の首都パラジクスが問答無用で消滅に至ったのは、それから数日後の事である。
一つの大都市の完全消滅を目の当たりにし、
(そこまでするのか?!)
衝撃を受けるスパイダマグ。
きっかけを作った張本人ながらも、よもや弁明の機会も与えず、暮らしている人々ごと「町を消し去る」などとは流石に思っていなかったのである。
パラジクスが消えなければならなかった理由とは、天世の権威を中世の人々に改めて示す為であり、天世のプライドを維持する為の、言うなれば「見せしめ」であった。
しかしながらその効果は極めて絶大。
パラジット国に従属国扱いされていた元共和国の国々は、虎視眈々と復讐の機会をうかがっていたにもかかわらず、国政を完全に失った国に対し、
≪アルブル国の庇護下にある「彼(か)の国」に手を出すは、二の舞を被るのでは?!≫
無言の圧力を感じ、侵攻計画の全てを白紙に戻した。
その火の粉は、想定外の角度からラディッシュ達にも。
損害を受けた地域の「復興作業と情勢安定化」を理由に、天世からの召喚要請を拒み続けていた七人であったが、プレッシャーを感じたエルブ国を始めとする四国が保留期間の長さに焦りを覚え、
≪勇者たちよ! 直ちに天世へ向かうのだぁ!≫
急き立てる王命を下したのであった。
故国からの勅書で急かされては、流石のドロプウォート達もゴネて中世に留まっている訳にもいかず、
「行くしかない、ですわねぇ……」
「だねぇ……」
「でぇすでぇすねぇ……」
「そうっスねぇ……」
「そぅさねぇ……」
「そう、ですのよねぇ……」
大人たちが渋々を見せる一方で、
『イクしかなぁい♪ イクしかなぁい♪』
上機嫌の御様子で連呼する、チィックウィード。
((((((…………))))))
何を、何処まで理解しているのか、いないのか。
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