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第五章

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 アルブル国が後継者不在で倒れるような事にでもなれば後ろ盾を失う事になり、近隣諸国の全てから反感を買っているパラジット国の存立は風前の灯火。
 間違いであれば思うミトラに、クスキュートは静かに頷き応え、
「密かに潜り込ませていた我が国の諜報員からの報告ゆえ、間違いない」
「…………」
 言葉が出て来なかった。

 それでも絞り出す様に、
「そ……それでハクサン様は……」
「異世界勇者一行の手により、御隠れになったらしいとの事だ」
「なんて……」
(キーメとスプライツの消息が未だ掴めないと言うのに、更に一位様(いちいさま)によるアルブル国への襲撃だなんて……いったいどうしたらぁ……)
 難題ばかりが募ったが、答えの見つけられない自問自答を繰り返しても意味はなく、一先ずミトラは、

「そ、それで大佐……自分が呼ばれました理由と言うのは……」

 するとクスキュートは机の引き出しから書類束を取り出し、
「…………」
 静かに彼の前に置いた。
 得も言われぬ重々しい空気に、
「拝見しても?」
 恐る恐る手に取るミトラ。
 そして内容に目を通すなり、

『ッ!!!』

 戦慄した。
 しかしクスキュートにとって彼の反応は想定内の物であったのか、表情を変えぬまま、
「どうだ? やってもらえないか?」
「…………」
「これはミナー評議員、もとい円卓会議の総意であり、民意でもある」
(これが民意だってぇ!?)
 わななく彼から視線を外す事無く、

「貴君も気付いていよう? みな敗戦国としての息苦しさに飽き飽きし、共和国時代の豊かさを求めているだよ」
(!)

 確かにそう言った「市中の会話」は彼の耳にも届いていた。
 しかし、

(同盟国の犠牲に上に成り立っていたダケの「かりそめの豊かさ」を求めるなどッ!)

 怒りは暴発寸前であったが、クスキュートは決断を迫る様に、
「私としては「経験者の貴君を是非に」と思っている。他国の眼があるが故、刑に服している生き残りを強引に出獄させる訳にもいかぬのでな。全ては「故国の豊かさ」を取り戻し、再びの「繁栄」を手にする為」
 愛国心に満ちた説得に、ミトラは視線を背けたまま、
「…………」
 静かに書類束を机に置き、今にも消えそうなか細い声で、

「少し……考えさせて下さい……」

 チカラの無い「形ばかりの敬礼」を残し、
「失礼します……」
 部屋を後にした。
 打ちひしがれた様子で本部を出て、町を歩き、自室に戻ると静かに扉を閉め、

『ッ!!!!!!』

 狂気染みた怒りに任にて軍服の上着を剥ぎ脱ぎ、

『我が国はァ生まれ変わったのではァなかったのかァアァッァアァ!』

 床に激しく叩き付け、苦悶の表情で頭を抱え、

『アッァァァアアアァッァァァアアァァッ!』

 目に見える全てを薙ぎ払った。

 彼が目にした資料とは、
≪アルブル国占領計画に伴う幼年兵育成機関設立≫
 キャシート・フィリィフォームが健在であった頃への逆戻りを示し、宗主国アルブルが抱えた現在の混乱に乗じ、幼年兵を使って「油断を誘い攻め入る」との浅ましい企てであった。
ミトラが自国の将来を想い、周辺諸国との信頼回復に尽力して来た「その全て」が無意味に帰した瞬間であり、悔しさから血の涙を流しそうな眼をして肩で激しく息を切らせながら、

(こんな国などォ!)

 歯が折れそうな程の歯ぎしりをさせながら、

(何の後悔も反省も持たないぃこんな恥知らずな国などォオ!)

 失望に堪え切れぬ怒りで以て、

『滅んでしまぇばイイッ!!!』

 人外の者に変化でもしてしまいそうな咆哮を上げた。
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