297 / 894
第五章
5-11
しおりを挟む
不意を衝かれた形となり、
「え、えと……貴方はぁ?」
思わず素で尋ねると、その人物は何かしらの要人であるのかクスキュートが話に割って入り、
「中尉は「評議会」を知っているかね?」
「は、ハイ。王政廃止に伴い新設された「円卓会議」と聞いております。王族に替わり国政を担うと言う……」
話の流れから、
「もしかぁ円卓会議の評議員のお一人ぃ?!!!」
一介の軍人でしかないミトラにとって、正に雲の上の存在。
(しっ、しまったぁ~思わず一般人相手の話し方で聞いちゃったぁあぁ~)
心の中で後悔してみても後の祭り。
しかしその人物は神経質そうな面立ちと相反し、小さな笑みを浮かべると、スッと立ち上がり、
「私は円卓会議の評議員の一人、ミナーだ。英雄ミトラ君」
差し出された右手を、
「とっ、とんでもありませぇん!」
咄嗟に、条件反射的に右手で取ったが、
「えっ?! 英雄?」
キョトン顔を見せると、
「なんだ? 君は自身の「世間での評価」を知らないのかね?」
「へ? え?? 世間での評価???」
「君は、我が身の危険を顧みず子供たちを守ろうとした英雄として、元共和国の一員であった近隣諸国で有名人なのだよ?」
「じっ、自分が、で、ありますかぁ?!」
半信半疑でクスキュートを見ると、彼も静かに頷き同意を示したが、
(…………)
救えなかった子供たちの顔が脳裏をよぎり、
「自分には……「英雄」などと呼ばれる資格が……」
ミトラの胸は小さく痛んだ。
(自分は誰一人、救えていない……双子だって結局はアルブル国のカデュフィーユ殿が……)
視線を落とすと、
『顔を上げなさい、少佐』
「しょ、しょうさ???」
あげた顔にミナーはニッと笑い、
「今日から君は「少佐」だ。そしてクスキュート君も、本日付けで「大佐」となった」
「?」
頭の理解が追い付かず、反射的にクスキュートに振り向くと、彼は毅然とした表情で、
「冗談ではない。昨日行われた円卓会議で、満場一致で決まった結論だそうだ」
大尉を飛び越えての二階級特進に、
(そんなのを受ける資格は自分に無い!)
『自分は何も!』
成し得ていない事を理由に辞退しようとしたが、
『これは決定事項だ!』
「!」
強めに断じるクスキュートに、ショックを隠し切れない様子で下を向くと、ミナーが静かに歩み寄り、
「君が「拝命を受けるのは恥」と思う気持ちは分からなくもない」
いきさつを知っている口振りで、落ち込む彼の肩にポンと手を置き、
「ならば、それに足りる働きをしなさい」
「……自分は……何をすれば……」
苦悩から解放される術を尋ねると、昇進の「めでたい席」で表情を曇らせるミトラの前にクスキュートは書類束を差し出し、
「貴君には本日より、故国の「戦争の後始末」を頼む」
「後始末……で、ありますか?」
意味が分からない様子の彼に、ミナーは言葉足らずを補足する様に、
「具体的には、アルブル国や元共和国の一員であった近隣諸国との「賠償交渉」などにおける、橋渡し役を担ってもらいたいのだよ」
(!)
なるほどと思うミトラ。
損害を被った国々との交渉において、好感を以て受け入れられている彼が担当となるのは、相手国側の心証からも正に適任。
少佐への昇進も、パラジット国が「彼を評価している」とのアピールにも打って付けであり、他国との交渉における体裁を取り繕ったと瞬時に理解した。
ある意味、交渉を円滑に進める為の「お飾り」。
しかしミトラは、
(人形になるつもりなど毛頭ない!)
顔には出さず、決意を新たにした。
故国の思惑が何であれ、それこそが短い生涯で終える事になってしまった子供たちに対する、無慈悲に子供を奪われた遺族の方々に対する、自らが出来る「贖罪である」との考えに至ったから。
拝命を受諾して後、「引き籠り」であった彼の生活は一変した。
従属国扱いをしていた元共和国の国々との賠償交渉や、近隣諸国との信頼構築に奔走し、孤軍奮闘するミトラ。
忙しくも充実した日々を送り、その働きは、パラジット国を支配下に治めたアルブル国にとっても非常に有難いものであった。
通例ならば自国も被害を被りながらも宗主国として、加害者国と被害者国の間に立ち、恨みを多分に含んだ罵詈雑言飛び交う場を、両国の言い分をバランスよく取りまとめながら、交渉を円滑に進める責があるのだが、今のアルブル国は正直な話として「尻拭い交渉」などに長々と付き合っている余裕は無かったのである。
その理由は、アルブル国の現王が若くして突然に崩御してしまったから。
王位継承権を唯一に持つ、年端も行かぬ幼い王子を残し。
王都アルブレスに建つ王城内は、上を下への大騒ぎであったが、それはあくまでアルブル国の事情。
パラジット国の代表として周辺諸国と交渉に当たるミトラにとっては、関係のない話で、宗主国アルブルから漏れ聞こえる混乱を耳にしつつも、変わらぬ忙しい日々を送っていた。
そんな彼の下に、耳を疑う話が。
「え、えと……貴方はぁ?」
思わず素で尋ねると、その人物は何かしらの要人であるのかクスキュートが話に割って入り、
「中尉は「評議会」を知っているかね?」
「は、ハイ。王政廃止に伴い新設された「円卓会議」と聞いております。王族に替わり国政を担うと言う……」
話の流れから、
「もしかぁ円卓会議の評議員のお一人ぃ?!!!」
一介の軍人でしかないミトラにとって、正に雲の上の存在。
(しっ、しまったぁ~思わず一般人相手の話し方で聞いちゃったぁあぁ~)
心の中で後悔してみても後の祭り。
しかしその人物は神経質そうな面立ちと相反し、小さな笑みを浮かべると、スッと立ち上がり、
「私は円卓会議の評議員の一人、ミナーだ。英雄ミトラ君」
差し出された右手を、
「とっ、とんでもありませぇん!」
咄嗟に、条件反射的に右手で取ったが、
「えっ?! 英雄?」
キョトン顔を見せると、
「なんだ? 君は自身の「世間での評価」を知らないのかね?」
「へ? え?? 世間での評価???」
「君は、我が身の危険を顧みず子供たちを守ろうとした英雄として、元共和国の一員であった近隣諸国で有名人なのだよ?」
「じっ、自分が、で、ありますかぁ?!」
半信半疑でクスキュートを見ると、彼も静かに頷き同意を示したが、
(…………)
救えなかった子供たちの顔が脳裏をよぎり、
「自分には……「英雄」などと呼ばれる資格が……」
ミトラの胸は小さく痛んだ。
(自分は誰一人、救えていない……双子だって結局はアルブル国のカデュフィーユ殿が……)
視線を落とすと、
『顔を上げなさい、少佐』
「しょ、しょうさ???」
あげた顔にミナーはニッと笑い、
「今日から君は「少佐」だ。そしてクスキュート君も、本日付けで「大佐」となった」
「?」
頭の理解が追い付かず、反射的にクスキュートに振り向くと、彼は毅然とした表情で、
「冗談ではない。昨日行われた円卓会議で、満場一致で決まった結論だそうだ」
大尉を飛び越えての二階級特進に、
(そんなのを受ける資格は自分に無い!)
『自分は何も!』
成し得ていない事を理由に辞退しようとしたが、
『これは決定事項だ!』
「!」
強めに断じるクスキュートに、ショックを隠し切れない様子で下を向くと、ミナーが静かに歩み寄り、
「君が「拝命を受けるのは恥」と思う気持ちは分からなくもない」
いきさつを知っている口振りで、落ち込む彼の肩にポンと手を置き、
「ならば、それに足りる働きをしなさい」
「……自分は……何をすれば……」
苦悩から解放される術を尋ねると、昇進の「めでたい席」で表情を曇らせるミトラの前にクスキュートは書類束を差し出し、
「貴君には本日より、故国の「戦争の後始末」を頼む」
「後始末……で、ありますか?」
意味が分からない様子の彼に、ミナーは言葉足らずを補足する様に、
「具体的には、アルブル国や元共和国の一員であった近隣諸国との「賠償交渉」などにおける、橋渡し役を担ってもらいたいのだよ」
(!)
なるほどと思うミトラ。
損害を被った国々との交渉において、好感を以て受け入れられている彼が担当となるのは、相手国側の心証からも正に適任。
少佐への昇進も、パラジット国が「彼を評価している」とのアピールにも打って付けであり、他国との交渉における体裁を取り繕ったと瞬時に理解した。
ある意味、交渉を円滑に進める為の「お飾り」。
しかしミトラは、
(人形になるつもりなど毛頭ない!)
顔には出さず、決意を新たにした。
故国の思惑が何であれ、それこそが短い生涯で終える事になってしまった子供たちに対する、無慈悲に子供を奪われた遺族の方々に対する、自らが出来る「贖罪である」との考えに至ったから。
拝命を受諾して後、「引き籠り」であった彼の生活は一変した。
従属国扱いをしていた元共和国の国々との賠償交渉や、近隣諸国との信頼構築に奔走し、孤軍奮闘するミトラ。
忙しくも充実した日々を送り、その働きは、パラジット国を支配下に治めたアルブル国にとっても非常に有難いものであった。
通例ならば自国も被害を被りながらも宗主国として、加害者国と被害者国の間に立ち、恨みを多分に含んだ罵詈雑言飛び交う場を、両国の言い分をバランスよく取りまとめながら、交渉を円滑に進める責があるのだが、今のアルブル国は正直な話として「尻拭い交渉」などに長々と付き合っている余裕は無かったのである。
その理由は、アルブル国の現王が若くして突然に崩御してしまったから。
王位継承権を唯一に持つ、年端も行かぬ幼い王子を残し。
王都アルブレスに建つ王城内は、上を下への大騒ぎであったが、それはあくまでアルブル国の事情。
パラジット国の代表として周辺諸国と交渉に当たるミトラにとっては、関係のない話で、宗主国アルブルから漏れ聞こえる混乱を耳にしつつも、変わらぬ忙しい日々を送っていた。
そんな彼の下に、耳を疑う話が。
0
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】能力が無くても聖女ですか?
天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。
十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に…
無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。
周囲は国王の命令だと我慢する日々。
だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に…
行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる…
「おぉー聖女様ぁ」
眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた…
タイトル変更しました
召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる