上 下
287 / 706
第五章

5-1

しおりを挟む
 アルブル国の北方と国境を接するパラジット共和国。
 この国は強国パラジットを中心に、幾つかの小国家が集まり共和国の形を成し、王都は当然の如くパラジット国に存在し、その名を「パラジクス」。

 王都と呼ぶにふさわしく、町は石像や飾り彫りなどが施された豪奢な石造りの官庁舎が立ち並び、その一角に、成人男性数人分ほどの高さがある頑強な鉄柵に囲まれた、特に目を引く、歴史を感じさせる建物が。

 正面の柵門を通り抜け、アプローチを飾る円形の噴水の横を通り、煌びやかに飾り立てられている訳では無い、重厚な建物の正面入り口から中に入ると、そこは巨大な広間。

 ひと気は無く、見上げるほど高い吹き抜けのあるロビーの中央まで進むと、何処からともなく人の声が。
 一人の人物が、何かを言っているように聞こえる。

 何を言っているのかまでは、分からない。

 声のする廊下の方へ歩みを進め、幾つかの扉の前を通り過ぎ、やがて突き当りの両開きの扉を開けると、そこは体育館並みに天井がやたらと高い講堂。
 そこには、一人の声しか聞こえなかったのが信じられない程の数の若い男女が、等しく揃いの学生服を思わせる制服を纏い、みな一様に、正面に設けられた高さ一メートルほどの講壇に向かって、些か緊張した面持ちで整然と簡易椅子に腰掛け、膝の上には制帽が。
 定規で描いた様に背筋を伸ばし、瞬きの心配をさせるほどの真剣な眼差しで、講壇に立ち何かを語る軍服姿の「イカツイ顔した年配男性」を見つめていた。

 そんな部屋の正面右には同様の軍服を纏った、これまたイカツイ顔した中年男性が直立不動で「壇上の年配男性」の言葉が終わるや否や、まるで怒鳴るように、

『全員起ィ立ッ!』

 一糸乱れず、制帽を手に立ち上がる若い男女たち。
 すると講壇の年配男性は眼下の彼ら、彼女たちを鋭い眼光で見下ろし、

「よくぞ今日まで扱(しご)きに耐え抜いた、生徒諸君!」

 少し表情を緩め、野太い声で見回すと、
「諸君らは本日より「命を受けた部署」にて、国や民の為に士官として汗を流す事になる訳であるが、本校で学んだ経験と知識を活用し、持てるチカラを遺憾無く発揮してもらいたい!」
 大きく息を吸い、

『卒業おめでとう、生徒諸君!』

 力強い祝辞の締めくくりに合わせ生徒たちは、

『『『『『『『『『『うおぉおっぉぉおーーーーーーーーーーーーッ!』』』』』』』』』』

 歓喜の歓声と共に、手にした制帽を真上に向かって投げ上げた。
 ここは王都パラジクスに作られた、伝統と格式ある士官学校である。

 故に、パラジット国内の全域から集まった成績優秀者たちが、更に競争率数百倍の難関を突破して入学し、厳しい教練の日々に耐え切れず逃亡した者たちを数名出しつつも、踏み堪えた生徒達は、卒業式と言う「門出の日」を迎えたのであった。
 成し遂げた感動も一入(ひとしお)の中、彼ら、彼女たちは卒業と同時に「少尉」と言う階級を与えられ、命を受けた各部署へ各々散って行く事と成る。
 将来を約束されたエリートの一人として。

 苦楽を共にした学友たちと、互いの新たな門出を祝い、ひと時の別れを惜しみ合い、
「首席卒業おめでとう、ミトラ中尉殿ぉ♪」
「卒業と同時に「中尉」だなんてぇ聞いた事ないぜぇ♪」
「ホント、凄いよねぇ♪」
「まぁったくだぜぇ! 今度何か奢れよぉ♪」
 ひと際、大きな輪の中心に居たのは、
「たまたまだよぉ~」
 照れ臭く謙遜し、
「ちょっと「出来過ぎ」だけどねぇ♪」
 笑顔を見せる、一人の青年。

 少年らしさを若干残した、ミトラと呼ばれた彼の笑顔からは、嫌味や卑屈の類いは感じられず、彼の持つ人柄の良さが現われ、男女問わず集まったクラスメイトの数からも、人気がほどが窺え知れ、笑顔を交わし合う中、クラスメイトの一人がおもむろに、
「「ミトラ中尉殿」ぉはぁ、何処に配属されるのでぇありますかぁ?」
 からかい交じりに尋ね、
「「中尉殿」は止めてくれよぉ~今日までは、みんな一緒だろぉ~」
 苦笑しながらも、

「特務機関への配属を、」
『『『『『『『『えぇーーーっ!?』』』』』』』』

 彼の言葉終わりを待たずに驚愕する仲間たち。
「おぃマジかよぉ、スゲェな!」
「国の中枢も中枢の機関じゃねぇか!」
「どんだけ異例尽くしなんだよぉ!」
「出世街道まっしぐらねぇ♪」
 感嘆の声を上げる中、

「でも、その分の重圧は感じてる」

 当の本人は少し緊張を纏った顔を見せながらも、
「感じてはいるけど……国や国民の為に働けると思うと、同時に喜びも感じてるよ」
 絵に描いた様な「品行方正な解答」に、彼らしいと思ったのかヤレヤレ笑いを浮かべるクラスメイト達。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

僕の従魔は恐ろしく強いようです。

緋沙下
ファンタジー
僕は生まれつき体が弱かった。物心ついた頃から僕の世界は病院の中の一室だった。 僕は治ることなく亡くなってしまった。 心配だったのは、いつも明るく無理をして笑うお母さん達の事だった。 そんな僕に、弟と妹を授ける代わりに別の世界に行って見ないか?という提案がもたらされた。 そこで勇者になるわけでもなく、強いステータスも持たない僕が出会った従魔の女の子 処女作なのでご迷惑かける場面が多数存在するかもしれません。気になる点はご報告いただければ幸いです。 --------------------------------------------------------------------------------------- プロローグと小説の内容を一部変更いたしました。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした

せんせい
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ―――

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

『スキルの素』を3つ選べって言うけど、早いもの勝ちで余りモノしか残っていませんでした。※チートスキルを生み出してバカにした奴らを見返します

ヒゲ抜き地蔵
ファンタジー
【書籍化に伴う掲載終了について】詳しくは近況ボードをご参照下さい。 ある日、まったく知らない空間で目覚めた300人の集団は、「スキルの素を3つ選べ」と謎の声を聞いた。 制限時間は10分。まさかの早いもの勝ちだった。 「鑑定」、「合成」、「錬成」、「癒やし」 チートの匂いがするスキルの素は、あっという間に取られていった。 そんな中、どうしても『スキルの素』の違和感が気になるタクミは、あるアイデアに従って、時間ギリギリで余りモノの中からスキルの素を選んだ。 その後、異世界に転生したタクミは余りモノの『スキルの素』で、世界の法則を変えていく。 その大胆な発想に人々は驚嘆し、やがて彼は人間とエルフ、ドワーフと魔族の勢力図を変えていく。 この男がどんなスキルを使うのか。 ひとつだけ確かなことは、タクミが選択した『スキルの素』は世界を変えられる能力だったということだ。 ※【同時掲載】カクヨム様、小説家になろう様

処理中です...