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第四章

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 ラディッシュの「無謀」としか言えない駆け出しに、
「ちょ、ラディ!」
 慌てて追従するドロプウォート。
 コンビネーションも無く、バラバラの心で迫る二人を目の当たりにしたケンタウロスの二人は、

『『愚かなり!』』

 短い一言で断じて、言い捨てると大斧を構え、
「「参る!」」
 激しく地を蹴り、二人を上回る速度で駆け迫った。

 想定外の速さで急接近に、
(こっ、これじゃ剣を振るう間合いが十分に取れない!)
 慌てて一刀を放ったが、剣先に十分なチカラを込められず、ただ振り回したダケの雑な一撃が通じるような容易な相手ではなく、ケンタウロスの一人が、

『甘ァい!』

 重量物を振り回しているとは思えない速度で大斧を真横に一振り、天世の七草サジタリアの許可の下、千本刀から譲り受けた名刀天流護聖剣は、
 キィイィィイィン!
 易々と弾き返され、
「しっ、しまったぁ!」
 バランスを崩したラディッシュの胴体に目掛け、次のケンタウロスが入れ替わりで、

『戦場(いくさば)に私情を持ち込むは「浅はか」なりィイィ!』

 情け容赦ない一刀を、大上段から袈裟切りに放った。
 しかし、

『させませんですわァ!』

 眩き白銀の輝きにその身を包んだドロプウォートが、
「フゥン!」
 刀身の細い日本刀の横一閃で受け止め、

 カァガァキィキィイィィイィイイイィン!

 丸太の様な腕から放たれた大斧の一刀を弾き返した。
 これには流石の剛腕ケンタウロスの二人も一旦距離を取り、ラディッシュを背に身構えるドロプウォートを見据え、
「驚いた……我らの一刀を、細腕一本で弾き返すとは……」
「流石は聞こえた噂にたがわぬ……」
 声を揃えて、

『『怪力女!』』
「他の褒め言葉はありませんのぉ!」

 思わずツッコミを入れるドロプウォートであったが、ケンタウロスの二人は華麗にスルーし、

『『行くぞバケモノめぇ!』』

 敵に恐れられるは、戦士の誉れ。
 とは言え、彼女も騎士の肩書を外せば「うら若い一人の少女」である。
 人外の姿をした二人からの「バケモノ呼ばわり」に、
「…………」
 少々割り切れない面持ちの、金髪碧眼美少女。

 そんな彼女の背で、
(僕は何をやってるんだ! 多くの人達の命が掛かっている一大事に、迷ったり、同情したり、狼狽えたりと!)
 ラディッシュは迂闊であった自身に猛省中。
 しかし敵は「その様な時間」を待ってはくれず、初太刀で彼女の力量を読み取ったケンタウロスの二人は、

『『相討ち覚悟で行かせてもらう!』』

 腹を括った物言いで二人に迫った。
 すると彼らに対して身構えるドロプウォートが背で、
「ラディ! 貴方が何に思い惑っているは分かりませんですが、今は戦いに集中してですわ!」
「…………」
「でなければ、貴方の背を守り切る事が出来ませんのですわ!」

(僕を守るぅ?!)

 ラディッシュはハッとした。
(それって、まるきり「足手まとい」じゃないかぁ!)
 自らの不甲斐なさに怒りを覚え、
 ザシュ!
 剣を地面に突き立て、

(目を覚ませぇ、僕ぅ!!!)
 パァアァァン!

 自身の両頬を両手で威勢よく叩き挟み、
「らっ、らでぃ???」
 肩越し驚き顔を見せるドロプウォートに、

「ゴメン! もぅ大丈夫だから!」

 気合いの入った表情を見せると、
(…………)
 何かを察した彼女は、

『では行きましてですわよ、ラディ!』

 気合いの入った笑顔を返し、
「うん!」
 二人は迫るケンタウロスに立ち向かって行った。
 二対二の対決は、コンビネーションの対決に。

 その場合、一般的には「より息の合った二人の方」が勝者となるが、それはあくまでチカラが同等であったらの話。
 二組の内訳は「元妖人の合成獣」が二人と、対するは百人の天世人になりつつ「異世界勇者」と、かつて世界を救った英雄の流れをくむ「先祖返り」のペアであり、コンビネーションの話を持ち出す以前に、肩書だけ見れば「ラディッシュとドロプウォートの圧勝」で幕を下ろす筈であった。
 しかし現実は、攻守を目まぐるしく入れ替え手傷を負わせながらも、

(てっ、手強い!)
(煩わしい戦い方をして来ますわ!)

 致命傷が与えられず、苦戦を強いられていた。
 理由は、ケンタウロスの二人が「捨て身」であったから。
 捨て身はある意味最強で、彼らにとっては「ハクサンが事を成すまで」の一分一秒が稼げれば良い話であり、致命傷を受けずに戦い続けさえ出来れば、それで構わなかったのである。
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