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第四章

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 ラディッシュとドロプウォートの足にしがみ付き泣きじゃくる小さな背を、温かく見守るパストリス達。

 その一方で心を通わせ合う仲間たちの姿に、
「…………」
 微かな苛立ちを覚えるハクサン。

 感じていたのは「疎外感」に端を発する「嫉妬」であったが、とあるプライドが邪魔をしてそれと気付かぬ彼は、仄暗い感情に支配されたまま、傍らで怯え固まるアルブリソに、
「良かったじゃないか、キミ。命が、少しは長らえる事になったようで、さぁ♪」
 チラリと視線を送ると、

『ハクさぁん!』
「?」

 ラディッシュの強めの呼び声が。
「何だい、ラディ?」
「説明は、して、貰えるんだよねぇ?!」
 強めなれど、窺う様な声色に、
(弱腰な所は変わらないねぇ~)
 ヤレヤレ笑いを浮かべながら、ことさらイケメン風スマイルを強調して前髪をたなびかせ、
「モチロンさぁ♪」
 爽やか口調で頷くと、溜を作って満を持し、

『ぼくぁ、この国の「王様」なのさぁ♪』
「「「「「「「なァつ?!」」」」」」」

 驚く仲間たち。
 彼は、その姿に満足げに、
「でも、正確に言うと「なっちゃった」かなぁ~」
 話題の中心に戻れた事に内心で悦びを感じながら、
「あぁ~と、誤解はしないで欲しいんだけどぉ、強引に玉座を奪ったりはしてないよぉ~」
 玉座の左傍らで突っ立ったまま、瞬き一つしない幼王アルブルの頬を突きながら、
「この子の精神がさぁ、王様と言う職責の重圧に耐え兼ねて壊れちゃってねぇ、世継ぎが居ないアルブルを他国から守るついでに、天世と戦う為にぃぼくぁ、」

『ちょっ、ちょっと待ってよぉハクさぁん!』
「ん?」

 サラッと放り込まれる爆弾発言にラディッシュ達は慌て、
「天世と戦う為って、何を言ってるのぉ!」
「貴方は何を言い出してますの!」
「でぇすでぇす!」
「何の話をしてんのさァ!」
「テメェ何をとち狂ってやがるゥ! ついに頭のネジが飛びやがったのかァ!」
「自分が何を言っているか分かっているのか、もとい、分かっているのぉ!」
 仲間たちからの一斉批判に、

「酷い言われようだなぁ~♪」

 ヘラっと笑うハクサンであったが、
「あのさぁ」
 大きなため息を一つ吐くと、
「キミ達も散々見て来たでしょ、天世の不遜をさ? 天世は熱心な信仰を要求するだけで、何も返してはくれない。例え多くの命が犠牲になろうともさぁ。そんな連中を相手に、いつまで「媚び」、いつまで「へつらう」気なのぉ?」
「「「「「「「…………」」」」」」」
 論破されたか如く、押し黙るラディッシュ達。

 何もしてくれなかった結果の惨状を、この世界の民ではないラディッシュでさえ、数多く目の当たりにし、募り始めていた不信のど真ん中を射抜かれ気がしたから。
 安易に反論する事が出来ない様子の仲間たち。
 その様子に、
(当然そう言う反応になるよねぇ? だって「事実」なんだからぁ♪)
 ハクサンは人知れずほくそ笑んだが、彼が次に語った「自慢げな一言」が、期せずして惑う七人の心を正気に戻した。

「その為の秘密兵器も、この地下で準備しているしねぇん♪」
(((((((ヘイキィ!?)))))))

 天世に対する蜂起が、口先だけで無いのを悟るラディッシュ達。
 再び流されるであろう多くの血を、これまでの惨事から連想し、

『沢山の人の命を奪う気なのぉ、ハクさぁん!』

 ラディッシュは責めるような物言いで身を乗り出したが、彼は半ば呆れたように、
「当然でしょ? だって戦争なんだよぉ?」
 そしてむしろ失望交じりに、

「だからこそ、ぼくぁ「天世の七草」に対抗する為にキミ達を集めて、」
(((((((え?!)))))))

「試練まで与えて、鍛えもしたんだよぉ?」
(((((((シレン!?)))))))

 平然とした問い掛けは、驚愕を隠せない七人を前に、
「お陰で強くなれたでしょ♪」
 彼の笑顔で締め括られ、
(((((((…………)))))))
 いったい何時から、何処から何処までが、彼の手による試練であったのか。
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