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第四章

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 ラディッシュまでもが驚きの声を上げた事に、女子三人は意外そうに、
「ラディが「カデュフィーユ」殿を存じていると思いませんでしたわぁ」
「まぁ、有名っちゃあぁ有名だしねぇ~」
「そうだな、ですわねぇ」
 有名人と知らなかったターナップとパストリスまでも、彼の博識に感心し、
「流石はラディの兄貴ぃ♪」
「でぇすでぇすねぇ♪」
 集まる尊敬の視線に、

「え?! あっ、う、うん! まぁ、そぅなんだぁよ! あははは」

 ラディッシュは照れた様に笑って見せたが、その心の内では、
(いっ、今さら言えないよ……ウィード(カドウィード)さんと、名前を聞き間違えて驚いたなんてぇ!)
 冷や汗をかいていた。

 しかし、仲間たちは既に気付いていた。
 彼が聞き間違いで、驚いたであろう事に。
 引きつり笑顔から全てを悟っていたものの、間違いを指摘された時の「彼の羞恥」を思い、あえて生温かい眼差しで見守っていたのである。
 ところがそこに、一人だけ我慢できなかった人物が。

 当然の如く、ハクサンである。

 彼は何かに思い至るとラディッシュに気付かれないよう密かにニヤリと笑い、真顔に戻してから、過剰とも思えるオーバーリアクションで、

『なぁ~んとぉ! キーメちゃんとスプライツちゃんは、アルブル国の「王様の子息令嬢」だったのかぁ~い! いやぁ~ビックリだよねぇ、ラディ!』
(えぇッ!? 王族ぅ!!!?)

 内心ギョッとしたが、知ったかぶりをしてしまったが為に、今さら驚愕を顔に出す訳にもいかず、
「ほっ、ホントだよねぇ! ビックリしたよぉ~!」
 話と調子を合わせが、仲間たちの笑いを必死に堪える様子に、

(ん? あれ? この国って「アルブル」の王様って確か……)

 キーメとスプライツと、変わらぬ歳の「幼王」であったのを思い出し、
(ッ!!!)
 からかわれたと気付くや、勘違いも最初からバレていたと知り、恥は二重三重の上塗りに。
 噴出する様に湧き上がる「言葉に出来ない程の羞恥」に耳まで真っ赤に、

『はっ、ハクさァ&%$“*+#&%”%#&ぁぁぁああぁぁん!!!』

 誤魔化しを多分に含んだ憤慨を彼にぶつけたが、当の本人はケラケラ笑いながら、
「いやぁ~必死に誤魔化すものだから、つい、からかいたくなっちゃってぇさ♪」
 反省する素振りも見せず、

「カデュフィーユはアルブル国三大騎士団の実質一位の騎士団、カデュフィーユ騎士団の団長で、名実ともに、この国の騎士の総大将だよぉ♪」

 驚きの事実ではあったが、とんだ赤っ恥を掻かされた後の「今のラディッシュ」にとっては霞んで思えてしまう事実であり、
「まっ、まったくぅ、ハクサンのイタズラにも、困ったモンだよぉ」
 羞恥の赤面顔でブツブツ文句を言いながら、生温かく見守る仲間たちを前に、封書を開封して手紙を読んだ。
 すると内容を知らないキーメとスプライツは、既に素性を明かしたにもかかわらず懐いた笑顔でラディッシュにまとわり、

「「パパ♪ なにがかいてあるなぉ♪」」

 親しみを込めた笑顔で見上げたが、
「「?」」
 そこには、手紙の内容に顔色を急変させた彼の顔が。

 異変を察したドロプウォートが歩み寄り、
「ラディ? どうかいたしまして?」
 不安げに見上げる幼子二人に寄り添うように、ラディッシュが手にする手紙に、そっと視線を落とし、
「…………」
「「ママ?」」
 不穏な空気に息を呑む二人。
 内容を知った親しい人間にその様な反応をされては、不安は募る一方で、
「「ママ……」」
 未だ黙読中の彼女にしがみ付くと、彼女は二人にバッと抱き付き、思いの丈をぶつけるように、

『私達は家族ですわァ!』
「「?!」」

 鬼気迫る懇願に二人が慄きを隠せない中、ラディッシュから手紙を受け取ったパストリス達も内容に目を通すなり、
「「「「「ッ!」」」」」
 愕然とした驚きを見せ、仲間たちから悲愴を感じ取った幼子二人は、
「なんなんぉ……」
「なんなんのぉ……」
 後退る様にドロプウォートの両腕から離れ、かける言葉さえ見い出せない様子の彼女の悲し気な表情に、
「「!」」
 二人は幼児とは思えない俊敏さで、パストリスが手にする「本当の父親の手紙」をむしり取り、中を読むなり、

『『ッ!!!』』

 今までラディッシュ達に見せた事の無い、沈痛な驚愕を見せた。
 そこに書かれていたのは『手紙を届けるお使い』の真実。

 「お使い」と言うのは名目で、本当の目的は「勇者ラディッシュ一行」に対するキーメとスプライツの保護依頼であった。
 彼はアルブル国宰相アルブリソに、命を狙われていた。
 国の未来を信じて幼王アルブルを支え、それ故に、国を私物化しようとするアルブリソと事あるごとに対立し、意見の衝突も一度や二度ではなかったが、それでも無事で来れたのは、彼の「騎士としての戦闘力」もさる事ながら、国民や騎士たちからの圧倒的支持があったが故。
 政(まつりごと)を執るにアイドルは必要不可欠であり、国民に無理難題を押し付けながらも求心力を維持する為にも迂闊な手出しが出来なかったのである。

 しかし昨今、事態はカデュフィーユの目の届かぬ所で謎の急転をきたしたらしく、命の危機を日々感じるようになった彼は、誰が味方か分からぬ現状と化していく中、キーメとスプライツを守る為に一縷の可能性に掛け、アルブル入国を目前にしていたラディッシュ達の下に向かわせたと綴られていた。
 手紙には、愛する我が子たちと離れ離れにならなければならない苦しい胸の内も、切々と綴られ、しかも括りには、

≪二人が勇者様の下へ辿り着いた時、私は既に、この世に居ないかも知れませぬ≫

 衝撃を受けるキーメとスプライツ。
 手紙を手に、愕然とした表情で後退り、
「「そんな……」」
 目に浮かぶのは、送り出してくれたカデュフィーユの、いつもと変わらず、憂いを全く感じさせない、太陽の様に明るく温かな笑顔。
 二人の心の状態を案じたラディッシュが、
「キーメ、」
 声を掛けるが先か二人は王都のある方角へ駆け出し、

「「「「「「「ッ!」」」」」」」

 止める間もなく一瞬にして姿を消し、普通の幼子ではない事を薄々感じていた「隠密を旨とするニプル」が、
「気配まで消えやがったさァ!」
 思わず感嘆を漏らすと食い気味に、

『追いますわよォ!』

 ドロプウォートが鬼気迫る声を上げて走り出し、緊張を纏ったラディッシュたちも彼女の後に続いた。
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