上 下
250 / 706
第四章

4-24

しおりを挟む
 それから二、三日――

 謎の騎士兵士たちの追撃を警戒しながらも「追い付かれる腹括り」は既にあるが故に、食事、稽古、移動、睡眠の日常を送るラディッシュ達ではあったが、やがてその時は訪れた。
 ラディッシュ達の背後の藪の中から、

『そこの者ども止まれぇ!』

 上から目線で停止を命じたのは、騎士兵士たち一団の隊長。
 足を止め振り返ったラディッシュ達に、
「我こそは!」
 名乗りを上げようとすると、呆れ顔したハクサンが珍しく先陣切って、

『名乗らなくてぇ良いよぉ』

 二の句を遮り、
「!」
 ムッとする隊長に、
「誰の命令で、何の任かは、知りたくもないし知らないけどぉ」
 小馬鹿にした笑みの奥に陰り、怒り、苛立ちを滲ませながら、

「帰ってもらえるかなぁ?」

 追い払う様な仕草まで見せたが、彼は「百人の天世人ハクサン」を前に、
「ハクサン様とは、お見受け致しますが」
 言葉遣いこそ丁寧であったが、跪きもせず、
「これは「アルブル国宰相アルブリソ様」からの勅命であり、例えハクサン様、勇者様一行と言えど従っていただきます!」
 前置きした上で語気を強め、

『そこの稚児二人の引き渡しを要求する!』
(((((((!)))))))

 ラディッシュとドロプウォートに足に怯え顔でしがみつく、キーメとスプライツを指差した。
 隊長の一声に呼応する様に、一斉に武器を構える配下の者たち。
 その姿にラディッシュ達は「ヤッパリか」と思った半面、幼子二人に平然と「物の様に指差す隊長」に、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 怒りを新たにしつつ、二人をこれ以上に怯えさせない為、幾分か「年上としての冷静さ」を保ちながら、
「二人を両親の下に送ってくれるんですか?」
 ラディッシュが問うと、隊長は鼻先でフンと笑った後、

『異世界人のキサマ如きが知る事ではなぁい!』

 それに合わせ、ニヤケた笑みを浮かべる騎士兵士たち。
 彼らは見誤っていたのである。
 天世から信任を得ている程の「強国の後ろ盾」があれば、例え相手が「百人の天世人」であろうと、「勇者」であろうと、従わせる事など容易であると。

 仮そめとは言え、安寧の世が長く続いた平和ボケの弊害か、はたまた武器開発を一任されるほど好戦的な「国の風土」、「気質」から生まれた、思い上がりの産物か。
 そしてラディッシュは、内心で言葉に出来ぬほど腹を立てていた。

 見下された事に対してではない。

 彼らの言動から、二人(キーメとスプライツ)を両親の下に送る気などさらさら無い事に気付き。
 それに加え、虐待を受けている訳でもない幼子を「両親から無理矢理引き剥がす」と同意の行為を平然とやってのける彼らに、
(どうして笑って居られるのぉ!?)
 マグマが湧き上がるが如く、激しい怒りが込み上げて来た。
 すると、

≪この世は理不尽……理不尽の全て……斬り払え……≫

 例の仄暗い言葉が。
 しかし今までならば、一も二も無く拒絶していた筈が、今の心境とシンクロしてしまってか、それとも繰り返された事により「親和性」が高まってしまったのか、心が次第に黒に覆われていき、
(本当に、この世界も、度し難い…………)
 うつむき加減で剣の柄に手を伸ばし始め、今、正に、彼らを闇に囚われた怒りが赴くまま斬殺しようという刹那、

『仲睦まじき親元から子を連れ去るなど言語道断の所業ですわァアァッ!』

 怒りの咆哮を上げたのはドロプウォート。
 そしてその気迫に当てられ、
(!)
 ハッと正気を取り戻すラディッシュ。
 彼らに対する、彼女の説教演説が続く中、
(ぼっ……僕はあと少しで、あの人達を……)
 受け入れてしまった「底知れぬ殺意」と「選んだ自身」に恐怖していた。

 そんなラディッシュの苦悩を知ってか知らずか、ドロプウォートは憤怒の表情で彼らを睨んだまま袖まくり、
「貴方がたの「生みの親」や「育ての親」に成り代わり!」
 武器を構えた騎士兵士たちを相手に、毅然と拳を振りかざし、

『その「腐った性根」を叩き直して差し上げますですわァ!』

 そこから先は言わずもがな。
 彼女の独壇場であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活

mio
ファンタジー
 なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。  こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。  なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。  自分の中に眠る力とは何なのか。  その答えを知った時少女は、ある決断をする。 長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!

処理中です...