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第四章
4-24
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それから二、三日――
謎の騎士兵士たちの追撃を警戒しながらも「追い付かれる腹括り」は既にあるが故に、食事、稽古、移動、睡眠の日常を送るラディッシュ達ではあったが、やがてその時は訪れた。
ラディッシュ達の背後の藪の中から、
『そこの者ども止まれぇ!』
上から目線で停止を命じたのは、騎士兵士たち一団の隊長。
足を止め振り返ったラディッシュ達に、
「我こそは!」
名乗りを上げようとすると、呆れ顔したハクサンが珍しく先陣切って、
『名乗らなくてぇ良いよぉ』
二の句を遮り、
「!」
ムッとする隊長に、
「誰の命令で、何の任かは、知りたくもないし知らないけどぉ」
小馬鹿にした笑みの奥に陰り、怒り、苛立ちを滲ませながら、
「帰ってもらえるかなぁ?」
追い払う様な仕草まで見せたが、彼は「百人の天世人ハクサン」を前に、
「ハクサン様とは、お見受け致しますが」
言葉遣いこそ丁寧であったが、跪きもせず、
「これは「アルブル国宰相アルブリソ様」からの勅命であり、例えハクサン様、勇者様一行と言えど従っていただきます!」
前置きした上で語気を強め、
『そこの稚児二人の引き渡しを要求する!』
(((((((!)))))))
ラディッシュとドロプウォートに足に怯え顔でしがみつく、キーメとスプライツを指差した。
隊長の一声に呼応する様に、一斉に武器を構える配下の者たち。
その姿にラディッシュ達は「ヤッパリか」と思った半面、幼子二人に平然と「物の様に指差す隊長」に、
「「「「「「「…………」」」」」」」
怒りを新たにしつつ、二人をこれ以上に怯えさせない為、幾分か「年上としての冷静さ」を保ちながら、
「二人を両親の下に送ってくれるんですか?」
ラディッシュが問うと、隊長は鼻先でフンと笑った後、
『異世界人のキサマ如きが知る事ではなぁい!』
それに合わせ、ニヤケた笑みを浮かべる騎士兵士たち。
彼らは見誤っていたのである。
天世から信任を得ている程の「強国の後ろ盾」があれば、例え相手が「百人の天世人」であろうと、「勇者」であろうと、従わせる事など容易であると。
仮そめとは言え、安寧の世が長く続いた平和ボケの弊害か、はたまた武器開発を一任されるほど好戦的な「国の風土」、「気質」から生まれた、思い上がりの産物か。
そしてラディッシュは、内心で言葉に出来ぬほど腹を立てていた。
見下された事に対してではない。
彼らの言動から、二人(キーメとスプライツ)を両親の下に送る気などさらさら無い事に気付き。
それに加え、虐待を受けている訳でもない幼子を「両親から無理矢理引き剥がす」と同意の行為を平然とやってのける彼らに、
(どうして笑って居られるのぉ!?)
マグマが湧き上がるが如く、激しい怒りが込み上げて来た。
すると、
≪この世は理不尽……理不尽の全て……斬り払え……≫
例の仄暗い言葉が。
しかし今までならば、一も二も無く拒絶していた筈が、今の心境とシンクロしてしまってか、それとも繰り返された事により「親和性」が高まってしまったのか、心が次第に黒に覆われていき、
(本当に、この世界も、度し難い…………)
うつむき加減で剣の柄に手を伸ばし始め、今、正に、彼らを闇に囚われた怒りが赴くまま斬殺しようという刹那、
『仲睦まじき親元から子を連れ去るなど言語道断の所業ですわァアァッ!』
怒りの咆哮を上げたのはドロプウォート。
そしてその気迫に当てられ、
(!)
ハッと正気を取り戻すラディッシュ。
彼らに対する、彼女の説教演説が続く中、
(ぼっ……僕はあと少しで、あの人達を……)
受け入れてしまった「底知れぬ殺意」と「選んだ自身」に恐怖していた。
そんなラディッシュの苦悩を知ってか知らずか、ドロプウォートは憤怒の表情で彼らを睨んだまま袖まくり、
「貴方がたの「生みの親」や「育ての親」に成り代わり!」
武器を構えた騎士兵士たちを相手に、毅然と拳を振りかざし、
『その「腐った性根」を叩き直して差し上げますですわァ!』
そこから先は言わずもがな。
彼女の独壇場であった。
謎の騎士兵士たちの追撃を警戒しながらも「追い付かれる腹括り」は既にあるが故に、食事、稽古、移動、睡眠の日常を送るラディッシュ達ではあったが、やがてその時は訪れた。
ラディッシュ達の背後の藪の中から、
『そこの者ども止まれぇ!』
上から目線で停止を命じたのは、騎士兵士たち一団の隊長。
足を止め振り返ったラディッシュ達に、
「我こそは!」
名乗りを上げようとすると、呆れ顔したハクサンが珍しく先陣切って、
『名乗らなくてぇ良いよぉ』
二の句を遮り、
「!」
ムッとする隊長に、
「誰の命令で、何の任かは、知りたくもないし知らないけどぉ」
小馬鹿にした笑みの奥に陰り、怒り、苛立ちを滲ませながら、
「帰ってもらえるかなぁ?」
追い払う様な仕草まで見せたが、彼は「百人の天世人ハクサン」を前に、
「ハクサン様とは、お見受け致しますが」
言葉遣いこそ丁寧であったが、跪きもせず、
「これは「アルブル国宰相アルブリソ様」からの勅命であり、例えハクサン様、勇者様一行と言えど従っていただきます!」
前置きした上で語気を強め、
『そこの稚児二人の引き渡しを要求する!』
(((((((!)))))))
ラディッシュとドロプウォートに足に怯え顔でしがみつく、キーメとスプライツを指差した。
隊長の一声に呼応する様に、一斉に武器を構える配下の者たち。
その姿にラディッシュ達は「ヤッパリか」と思った半面、幼子二人に平然と「物の様に指差す隊長」に、
「「「「「「「…………」」」」」」」
怒りを新たにしつつ、二人をこれ以上に怯えさせない為、幾分か「年上としての冷静さ」を保ちながら、
「二人を両親の下に送ってくれるんですか?」
ラディッシュが問うと、隊長は鼻先でフンと笑った後、
『異世界人のキサマ如きが知る事ではなぁい!』
それに合わせ、ニヤケた笑みを浮かべる騎士兵士たち。
彼らは見誤っていたのである。
天世から信任を得ている程の「強国の後ろ盾」があれば、例え相手が「百人の天世人」であろうと、「勇者」であろうと、従わせる事など容易であると。
仮そめとは言え、安寧の世が長く続いた平和ボケの弊害か、はたまた武器開発を一任されるほど好戦的な「国の風土」、「気質」から生まれた、思い上がりの産物か。
そしてラディッシュは、内心で言葉に出来ぬほど腹を立てていた。
見下された事に対してではない。
彼らの言動から、二人(キーメとスプライツ)を両親の下に送る気などさらさら無い事に気付き。
それに加え、虐待を受けている訳でもない幼子を「両親から無理矢理引き剥がす」と同意の行為を平然とやってのける彼らに、
(どうして笑って居られるのぉ!?)
マグマが湧き上がるが如く、激しい怒りが込み上げて来た。
すると、
≪この世は理不尽……理不尽の全て……斬り払え……≫
例の仄暗い言葉が。
しかし今までならば、一も二も無く拒絶していた筈が、今の心境とシンクロしてしまってか、それとも繰り返された事により「親和性」が高まってしまったのか、心が次第に黒に覆われていき、
(本当に、この世界も、度し難い…………)
うつむき加減で剣の柄に手を伸ばし始め、今、正に、彼らを闇に囚われた怒りが赴くまま斬殺しようという刹那、
『仲睦まじき親元から子を連れ去るなど言語道断の所業ですわァアァッ!』
怒りの咆哮を上げたのはドロプウォート。
そしてその気迫に当てられ、
(!)
ハッと正気を取り戻すラディッシュ。
彼らに対する、彼女の説教演説が続く中、
(ぼっ……僕はあと少しで、あの人達を……)
受け入れてしまった「底知れぬ殺意」と「選んだ自身」に恐怖していた。
そんなラディッシュの苦悩を知ってか知らずか、ドロプウォートは憤怒の表情で彼らを睨んだまま袖まくり、
「貴方がたの「生みの親」や「育ての親」に成り代わり!」
武器を構えた騎士兵士たちを相手に、毅然と拳を振りかざし、
『その「腐った性根」を叩き直して差し上げますですわァ!』
そこから先は言わずもがな。
彼女の独壇場であった。
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