ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

文字の大きさ
244 / 894
第四章

4-18

しおりを挟む
 それから数分後――

 大人げないハクサンの「収まり知らずのワガママ」に折れる形で、休憩に入ったラディッシュ達。
 強行軍を続けようとするドロプウォートに対し、キーメとスプライツが「やすんであげよぅ」と提案して実現した、早めの休憩、昼食でもあった。
 ワガママを言うハクサンと、そんな彼を気遣う幼子二人。
 いったいどちらが大人なのか首を傾げたくなる状況に仲間たちが呆れ笑う中、食材の入った木箱から、スライスした肉束を取り出すラディッシュ。

 それを木鉢に入れると、上から醤油の様な香りのする液体、甘味料、幾つかの香辛料と若干の水を入れ、
「あとはコレを揉んで、味を染み込ませるだけなんだけど……」
 興味津々覗き込んでいたキーメとスプライツに、

「揉んでみる?」

 二人は笑顔で、

『『もむぅ♪』』

 手を伸ばしたが、
「!」
 二人の手は藪を掻き分け進んで来た為に、草の汁や泥だらけ。

「ちょ、ちょっと待って二人とも。先に手を洗わないとだね」

 注意したが、自分の手も見て、
「あっ、僕もだ……」
 迂闊な自身に苦笑し、
「どうしよう……?」
 すると二人はニッと笑い合い、

「「パパ、テテだしてなぉ♪」」
「こう?」

 促されるまま二人の前に両手を差し出すと、幼子二人は小さな両手をかざし、
≪≪てんぜのおんけいをもってわれら、ねがう≫≫
「「「「「「「!?」」」」」」」
 驚くラディッシュ達を尻目に、その身を白銀の輝きに包み、

≪≪ちょっとのぉ、ミズぅう≫≫

 何もない空間からラディッシュの手に、水圧の弱い蛇口から出た様な水がチョロチョロと流れ落ち、彼の手の汚れを洗い流し始めた。
 この水は、魔法のように降って湧いた物ではない。

 言わずもがな、キーメとスプライツの天技により、ラディッシュ達の周囲の空気中から、周囲の草木から、地面から、少しずつ分けてもらい、集まって出来た物である。
 しかし、それを実行したのは幼子。

 中世の子供は、生まれながらに天法が使える素質を持っているとは言え、二人はあまりに幼く、見た目年齢にそぐわぬ高度な天技に、天法開発を天世から一任されている国フルールで重責を担って来たニプルは、

(普通この歳で……これほど繊細に天法を扱えるモノなのか……?)

 微かな、疑惑染みた感覚を抱いた。
 その一方で、

『天才ですわぁあぁっぁあぁぁ♪』

 歓喜の歓声を上げたのはドロプウォート。
 何の疑いも無く、満面の笑顔で二人を後ろから抱き締め、二人同時に頬ずりしながら、

「流石は「ワタクシ達の子」なのですわぁあぁ♪」

 有頂天な笑顔に毒気を抜かれたニプルは疑念も忘れ、
(やれぇやれぇ……)
 パストリス達と呆れ笑いを向け合った。
 和気あいあいとした昼食準備のさ中、巨木の幹の陰に隠れ、
((((((…………))))))
 様子を窺う幾つもの目。

 その目たちは、互いに何かを確認し合うように無言で頷き合うと、一人が森の奥へ向かって駆け出した。
 しかもネコ科動物さながら、足音を全くさせず。

 森の中を疾走する何者か。

 木漏れ日に一瞬照らし出された「その者の姿」は全身黒尽くめの、影の様な黒装束で、忍者とでも言えば想像易いであろうか。
 やがて森を抜け、少し開けた場所に出ると、そこに居たのは鎧を纏った騎士兵士の一団で、ざっと見て三十人。
 黒装束の何者かは、一団の中央で切り株に座し、他の騎士兵士たちと異なる存在感を放つ騎士の前に跪き、
「発見しました隊長」
「うむ」
 仏頂面した青年騎士が頷くと、

『俺たちの言った通りだったしょぉ!?』

 調子よく、彼らの前に躍り出たのはキーメとスプライツを連れ去ろうとした、あの冒険者たち。
 愛想笑いでへつらうと、隊長と呼ばれた青年騎士は仏頂面したまま一瞥くれる事も無く、

「褒美を受け取り、早々に下がれ」
(((((…………)))))

 見下した物言いに思う所はあったが、

(((((金さえ貰えれば……)))))

 割り切った半笑いで、代表格の一人が両手を差し出すと、

「「「「「え?」」」」」

 彼の手に乗せられたは、とても小さな、それはとても小さな小袋が一つ。
 まさかと思い中を覗いた冒険者たちは、

「何だこりゃぁ!?」
「何だよ、この額はぁ!?」
「子供の駄賃か、手間賃か?!」
「五人の一食分にもなりゃしねぇ!」
「今日び、下働きの連中でももっと貰ってるぞ!」

 あまりの額の少なさに不平を口にしたが、隊長は背けたままの目を合わせる事も無く、
「貴様らが請け負った依頼は「捕縛」であろう。それを達成出来なかったと言う事は「任務失敗」の意。本来は無賃であろうが」

「「「「「うっ……」」」」」

 痛い所を突かれる男たち。
 しかし、ここで引き下がっては冒険者の名折れ。

「で、でもよぉ! 俺たちのお陰で、隊長さん達も点数稼ぎが出来るんじゃねぇかぁ」

 食い下がると、
「点数稼ぎ、だと?」
 不穏な空気を纏い、立ち上がる隊長に、

(((((やべぇ……)))))

 怒りの導火線に火を点けたと、瞬時に察する冒険者たち。
 世渡り上手も長生きの秘訣。
 即座に、

「「「「「失礼しましたぁあっぁあぁぁ!」」」」」

 飛ぶように逃げ去った。
 足早に遠ざかる背に、

「点数稼ぎなど生ぬるい」

 隊長は不敵な笑みを浮かべ、
「私はこれを機に、中央へ行ってみせるのだよ」
 跪いたままの黒装束を見下ろし、
「標的の動きは如何に?」
「はっ! 奴らは、我ら「影」が使う「天法を偽装する天技」と似た術を使い、存在を気取らせないよう森を進んではおりますが、標的の子供二人には不可能の様子。加えて未熟者も混じって居り、我らに捕捉された時点で、もはや逃げ切る事はもはや叶わぬでしょう」
「そうか」
 再びの仏頂面で頷いたが、

「しかし」

 眉間に深いシワを寄せ、
「逃げ込んだ先が「勇者一行」とは厄介な……」
 黙考すると、
 
『子供だけを連れ去る事は可能か?』
「是非も無し」

 黒装束は即答し、
「名高き勇者一行と言えど、我らに気付けぬ程度。そこから子供二人を連れ去るなど造作もありませぬ。なれば、」
 跪いたまま面を上げ、

「隊長が中央の任に就いた暁には、我ら「影」を正式な配下として取り立てて頂きたく、」
 申し入れの言葉が終わるのを待たず、
「良いだろ。ならばこそ、果たして見せよ」
 鋭く見下ろす眼光に、

「はっ! 必ずや!」

 黒装束は隠し切れない喜びをひた隠し、来た道を駆け戻って行くと、副官と思しき騎士が歩み寄り、
「良いのですか、隊長? あの様な下賤の輩を、我が騎士団に加えるなどと」
 苦言を呈すと、
「中央に返り咲く為には、使える物は何でも使う。それに……」
「それに?」
「団員として受け入れるとは、一言も言っておらぬしな」
 陰りを持った笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

【完結】能力が無くても聖女ですか?

天冨 七緒
恋愛
孤児院で育ったケイトリーン。 十二歳になった時特殊な能力が開花し、体調を崩していた王妃を治療する事に… 無事に王妃を完治させ、聖女と呼ばれるようになっていたが王妃の治癒と引き換えに能力を使い果たしてしまった。能力を失ったにも関わらず国王はケイトリーンを王子の婚約者に決定した。 周囲は国王の命令だと我慢する日々。 だが国王が崩御したことで、王子は周囲の「能力の無くなった聖女との婚約を今すぐにでも解消すべき」と押され婚約を解消に… 行く宛もないが婚約解消されたのでケイトリーンは王宮を去る事に…門を抜け歩いて城を後にすると突然足元に魔方陣が現れ光に包まれる… 「おぉー聖女様ぁ」 眩い光が落ち着くと歓声と共に周囲に沢山の人に迎えられていた。ケイトリーンは見知らぬ国の聖女として召喚されてしまっていた… タイトル変更しました 召喚されましたが聖女様ではありません…私は聖女様の世話係です

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~

けろ
ファンタジー
【完結済み】 仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!? 過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。 救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。 しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。 記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。 偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。 彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。 「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」 強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。 「菌?感染症?何の話だ?」 滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級! しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。 規格外の弟子と、人外の師匠。 二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。 これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

処理中です...