上 下
242 / 649
第四章

4-16

しおりを挟む
 森の中を進むラディッシュ達――

 誰が敵で、誰が味方かも分からぬ国の真っ只中で、人目を避けつつ、アルブルの城を目指す九人。
 幼子二人を、大人の背丈ほどの藪から守りながら進む中、ラディッシュが前を行くハクサンの背に、
「ねぇハクさん」
「?」
「聖具って……どうしても、」
「揃って無いと困るのはキミだよ」
 続く言葉を遮り、

「気持ちは分かるよぉ。二人を連れて、今すぐにでもアルブルから出たいんだろ?」
(!)

 見透かされていた事に少々驚きつつ、
「う、うん……」
 するとハクサンは心情に理解は示しつつも、少し困った様な笑みを浮かべ、

「でも聖具を揃えないとラディの体に異変が起きるし、今から逆戻りして無数の敵に追われるより、元凶を絶った方が良いと思うよ。そうしないと二人は、見えない敵から延々と追い回される羽目になるよ?」
「それは、そうだけど……」

 いつ、どんな敵と開戦するかも知れない自身のソバに、幼い二人を置く危険を懸念しての惑いであった。
 するとドロプウォートも残念そうに、
「不本意ながら、今回はハクサンの言う事に一理がありますわぁ」
「不本意って……」
 苦笑交じりのハクサンを横目に、嘆くように吐露し、

「年端も行かぬ幼き二人には些か酷な現実ですが、今の二人にとって「この世界で一番安全」なのは、「私達の傍ら」と言えますわ」

 その意見には仲間たちも同意らしく、ラディッシュを見つめて頷き答え、
(やっぱりそうか……)
 ラディッシュも腹を括ると、ドロプウォートと自身の間で守られながらも逞しく、小さな手と足で藪を掻き分け進む幼子二人を憂いた表情でみつめ、
「せめて二人が「何処の町から来たのか」が分かればなぁ……」
 こぼす様に呟くと、キーメとスプライツがクルっと振り返り、

「ん?」

 二人は逃走中の身であるのを何処まで理解しているのか、まるで探検として楽しんでいるかのような笑顔で、

『『アルブレスなぉ♪』』
「あ、あるぶれすぅ?」

 首を傾げるラディッシュ。
 この世界の住人ではないが故に地理に疎く、その様な反応になるのは当然と言えたが、

『『『『『『アルブレス!?』』』』』』

 ドロプウォート達は驚愕の声と共に足を止め、
「え? 何何?? そんなに驚く事なの???」
 戸惑う彼に、

「当然なのですわ! この国の首都ですわ!! 王都ですわ!!!」
「大人の足で歩いて何日かかると思うのさ!」
「ボクでも遠いのが分かる(一般常識的な)話なのでぇすぅ!」
「有り得ない距離だ、ですのよぉ!」
「子供の足だと途方も無い距離なんだよ、ラディ」
「いったいどうやって、んな距離を歩いて来やがったんだぁ?!」

 大人たちが驚きを隠せない一方で「何を騒いでいるのか」と言わんばかりの、
「「?」」
 愛らしいキョトン顔を見せるキーメとスプライツ。

 そんな二人に、スグにでも尋ねたい疑問は次々湧いて来たが、一先ずドロプウォートが仲間たちを代表して、逸る気持ちをグッと押し留めながら、努めた笑顔で、

「御二人はぁ、どぅやって来ましたのぉ?」

 すると二人は、
「「うぅ~んとぉ……」」
「「「「「「「…………」」」」」」」
 固唾を呑んで答えを待つ仲間たちを前に、空を見上げてしばし考えた後、

『『わかんなぁい♪』』
(((((((?!)))))))

 見事な肩透かしに大きくコケたが、その「天使のような笑顔」に、母ドロプウォートの目尻は下がり、

「ですわよねぇ~♪ 分かったら苦労しませんですわよねぇ~♪」

 満面の笑顔を返しながら、二人の頭を撫で撫で。
「「くろぅしなぁい♪ くろぅしなぁい♪」」
 言葉のリズムが琴線に触れ、歌うように謎の連呼をする二人を、

『イイ子ですわぁ♪』

 笑顔で抱き締めて頬擦り。
((((((…………))))))
 そこに、正騎士さえ恐れをなした最強戦士「先祖返り」の面影は無く、

((((((親バカだ……))))))

 内心で苦笑するラディッシュ達ではあったが、これで彼ら、彼女たちの行き先は揺るぎなく確定した。
 目指すはやはり、アルブル国国王の居城が建つ「王都アルブレス」。
しおりを挟む

処理中です...