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第四章

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 村を目指しての移動を開始するラディッシュ達――

 困惑顔して歩くパストリス、ニプル、カドウィード、ターナップ、ハクサン。
 その背後には、屈託ない満面の笑顔の幼子二人を間に挟んで、手をつなぎ歩く、ドロプウォートとラディッシュの姿が。

 日頃の凛とした彼女は何処へやら、浮かれた顔して歩くドロプウォートと、正面からチクチクと刺さり来る、女子組からの「物言いたげなチラ見」に、バツが悪そうな笑顔を見せるラディッシュ。
 しばしの間は笑顔で誤魔化し歩いていたが、流石にいたたまれなくなり、

「む、村に着く前に、ちょ、ちょっと軽い食事にでもしようよぉ♪ 小さい子も居ることだしぃ、大人の速さで歩き続けるのはちょっとさ♪」

 体よく休憩を提案し、針のむしろからの脱却を画策した。
 当然の如く、ドロプウォートは少々残念そうではあったが、
「確かに二人が疲れてしまいますわね」
 思い改め同意すると、仲睦まじい親子の様な姿を見せつけられ続けた女子組も、

「でぇすでぇすねぇ♪」
「そぅさねぇ♪」
「そうだ、ですわねぇ♪」

 一先ずの親子状態解除に、笑顔を見せた。

 
 食事の準備を始めるラディッシュ達――

 いつも通り、ターナップが竈の準備に、ラディッシュの調理補助であるパストリスを除いたドロプウォート達女子組が狩りに出かけようとすると、
「今回は、狩りは大丈夫だよぉ」
 ラディッシュが笑顔で呼び止め、
「あり物で作った軽食で済ませようと思うから」
 するとキーメとスプライツが興味津々、

『『パパが作るなぉ?!』』
「う、うん」

 少々気圧され気味にではあるが、笑顔で頷きはしたものの、
(やっぱり「パパ呼ばわり」は慣れないなぁ、身に覚えも無いのにぃ……)
 内心で苦笑しながら、
「美味しく出来なかったらゴメンねぇ♪ と、言う事で、」
 竈作りの真っ最中であるターナップに視線を移し、

「タープさん」
「ん?」

 手を止め振り向いた彼に、
「竈作りはドロプさん達にお願いして、タープさんには「コレ」を、お願いします」
 箸が刺さった、両手サイズの木鉢を差し出した。
「ソレはなんスか、ラディの兄貴?」
 受け取ると、中には卵数個分の卵白が。
(?)
 意味が分からず、

「え、えとぉ……兄貴は俺に、コレをどうしろと???」

 向けるキョトン顔に、
「僕が「イイよ」って言うまで、ひたすらかき混ぜて欲しいんだ」
 それを聞いた調理補助のパストリスも不思議そうに、
「かき混ぜるだけならボクが、」
 しかしラディッシュはすかさず、

「ううん。これは多分、タープさんが適任で、タープさんだからこそ「成功率が上がる料理」なんだ♪」
「!」

 そこまで信頼されて「漢ターナップ」が上がらない筈も無く、弾けんばかりの笑顔で、

『やらせて欲しいっス! 任せて欲しいッス!! ラディの兄貴ィ!!!』

 意気揚々、箸を振り被って卵白を仇敵の如くに睨み付け、
「ラディの兄貴が感動する「完璧な混ぜ」を披露して見せるっスゥ!」
 気合いと共に、

『ウヲォオォォォッォオォォオッォオラァアァッァ!』

 眼にも止まらぬ高速でかき混ぜ始め、
 シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャーーーーーーッ!
 快音を響かせたが、
「う、うん。お願い……」
 少々不安げな笑顔を見せるラディッシュ。
(最初から、こんな勢いで飛ばして……大丈夫なのかな?)
 そして数分後、

『フワっフワっ、なのぉ♪』
『モっコモコ、なんのぉ♪』

 感嘆の声を上げるキーメとスプライツ。
 二人の前にあったのは、液状であったのが嘘のような、木鉢からこぼれんばかりの「泡の山」と化した卵白であった。
いわゆる「メレンゲ」である。
 その傍らには、ゼェハァ肩で息を切らせ、

「ハァ、はぁ、ハァ、こぉ、これでぇ、イイんス、よねぇ兄貴ぃ……」

 期待に応えようと過剰に飛ばし過ぎたターナップが、疲れながらも達成感に満ちた笑顔を見せたが、ラディッシュは、
「ごめん……」
「へぇ?」
 申し訳なさげな笑みを浮かべながら、
「まだ工程の半分なんだ……」
 完成したと思われたメレンゲの中に、卵黄と白糖代わりの果汁を流し込んだ。

(まぁ、マジっすかぁ……)

 心が折れそうになるターナップ。
 炎(やる気)も消えかけたが、
(!)
 パストリスの期待の眼差しと、

「「がんばってなぉ、おにいちゃん♪」」
(!!!)
 双子の声援に、
(お兄ちゃん、だぁとぉおぉおッ!?)
 心が焔となって燃え盛り、

『任されたぁあぁっぁぁっぁぁぁぁぁあぁぁぁ!』

 息を吹き返してエンジン全開、フルスロットル。
 シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャーーーーーーッ!
 疲れを感じさせぬ「高速かき混ぜ」に、

『『おにいちゃん、ガンバなぉ♪』』

 双子の更なる声援に、

『うっぉおぉおおぉっぉおおぉぉおぉおおぉ!!!』

 限界突破。
 更にギアを上げるターナップ。
 その一方で、困惑笑いのラディッシュ。
(そんなにチカラを込めなくて良いんだけどぉ……)
 内心で思ってはいたが、もはや気力だけで泡立ている彼の心を折る訳にはいかず、あえて生温かく見守った。
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