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第四章

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 数日後――

 街道を迂回しながら森の中を進んだ一行の前に、初めて目にする関所の砦が見えて来た。
 見るからに頑強そうであった「カルニヴァ国国境の砦」とまではいかないまでも、渓谷の谷間を利用し、大きな自然石を積み上げて固めた、ダムの様な石造りの砦に、

「「「「「「「着いたぁ……」」」」」」」

 感慨深い、感嘆の息を漏らすラディッシュ達。
 カルニヴァ国からアルブル国までの道中、鬼女とかした女性達に、刃物を持って追い回されずに済んだから。
 正に、積み上げた経験値のなせる技であったが、単に「ハクサンのとばっちり」であり、不要の経験値であると言えなくもないが。
 しかし、
「「「「「「…………」」」」」」
 砦を目視できる所まで来ておきながら、

『『『『『『…………』』』』』』

 何故か、足が止まるラディッシュ、ドロプウォート、パストリス、ニプル、ターナップ、そしてカドウィード。
 更なる懸念の理由もまた、ハクサン。

 彼が原因で、新天地に足を踏み入れた途端に捕縛されたこと数知れず、初入国がすっかりトラウマと化していたのであった。
 気が重い仲間たちの一方で、上機嫌なのもハクサン。
 女性たちの襲撃に遭わず、目的地にたどり着けた事だけで足取り軽く、

「みんなぁ、何で立ち止まってるのぉ♪ さぁさぁ早く行こうよぉ♪」

 先陣切って歩き出し、その呑気で、能天気な背に、
((((((貴方のせい、なんですけどぉ))))))
 心の中だけで、一斉ツッコミを入れるラディッシュ達。
 言ったところで話は通じず「時間の無駄」であり、「暖簾に腕押し」なのが分かるだけに。

 とは言え、ハクサンを一人で行かせて砦の入り口を守る番兵と話をさせるのは、あまりに危険な行為。
 ラディッシュは仲間たちと困惑顔を見合わせ、
「「「「「「…………」」」」」」
 アイコンタクトで会話を交わす中、やはり「一人で行かせる訳にはいかない」との答えに至り、
「「「「「「…………」」」」」」
 六人はため息交じりの重々しい足取りで、彼の後を追った。
 やがて砦の入り口に近づき、

「「「「「「…………」」」」」」
((((((捕縛で済むなら、その場で釈明を……))))))

 お互いの覚悟を確認し合う、ハクサン以外。
そして数分後、

「「「「「「え?」」」」」」

 六人は澄み切った青空を見上げていた。

 その背には、アルブル国国境の砦が。

 六人は何の障害も無く、むしろ歓待を以て迎え入れられ、国内へと送り出されたのであった。
 肩透かしなほど、あまりにすんなりと、滞りなく、アルブル国内に足を踏み入れた六人。
「「「「「「なんでぇ?」」」」」」
 茫然自失で立ち尽くしていると、

『何でも何も無いよぉん♪』

 ハクサンが普通レベルのイケメンスマイルで前髪をたなびかせ、
「何たってぇ、このぼくぁ「根回し」しておいたんだからぁんねぇ♪」
 少々イラつく物言いではあったが、今回ばかりは褒めない訳にはいかず、
「「「「「「…………」」」」」」
 しかし「見せつける様なドヤ顔」を見せつけられては、褒めたい気持ちは一瞬にして萎え、仲間たちの思いを代表するが如くターナップの口から出た言葉は、

『出来んならぁ普段からやれぇ!』

 ナイスな捨て台詞であった。

『ちょ! 酷くなぁい!? ぼくぉ扱い酷くなぁい!』

 褒められて当然と思っていたハクサンが半泣きで憤慨し、ラディッシュ達が苦笑していると唐突に、

『『パパぁ!』』

 幼子の歓喜の呼び声がして、
「「「「「「「ッ!?」」」」」」」
 ラディッシュ達は何かを目撃してギョッとした。
 特にラディッシュが。

 何処からともなく駆け出して来た二人の幼子が迷うことなく、彼の足に抱き付いたのである。
 足下に纏わる、男児とも女児ともつかぬ満面の笑顔の一方で、
「…………」
 血の気が引いた青い顔するラディッシュ。
 絶句して仲間たちを見回すと、そこには、

「!?」
「「「「「「…………」」」」」」

 幾つもの死線を共にくぐり抜けた盟友たちが向ける、信じられない物でも見る目が。
 身に覚えのないラディッシュではあったが、記憶を消してもらったが故に自信が持てず、
(まさか過去に、そんな事がぁ?!)
 ほんの一瞬、狼狽を覚えたが、

「!」

 即座に冷静に、
(いやいやおかしいでしょ!)
 疑惑の眼差しを向ける仲間たちに訴えかけるように、

『僕がこの世界に来て、まだ一年経つか経たないかだよぉ?! こんな大きな子が居たら計算が合わないでしょ!?』
「「「「「「!」」」」」」

 ハッとした、気付き顔をするドロプウォートたち。
 明らかに疑っていたにもかかわらず、

「もっ、モチロン分かっていましてですわぁ~♪」
「でっ、でぇすでぇすぅ! ラディさんがぁ、そんな不誠実な事をする訳がないのでぇすぅ~♪」
「おっ、おぅさぁ! ラディが「そんなヤツじゃない」のはぁ、ウチらが一番良く分かってるさぁ~♪」
「じっ、自分は、もといアタシは、最初から信じていたぞぉ、わよぉ~♪」
「そっ、そうっスよぉ、ラディの兄貴ぃ! コイツ(ハクサン)なら、やり兼ねない事っスけどぉ~♪」

 各々笑って誤魔化した。
「ちょ! 何気にぼくぉ引き合いにディスるのヤメテェ!」
 流れ弾的にディスられた「憐れな一人」を除いて。

 しかし、収まりがつかないのはラディッシュ。
 散々疑われた上での掌返しに、
「…………」
 不審のジト目を向けると、
(うっ……)
 ドロプウォートの胸が痛んだ。
 誰が何を言おうと勇者を信じなければならなかった「誓約者(仮)」の立場と、彼に想いを寄せる者としての立場から。
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