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第四章

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 触る事さえ「畏れ多い」と感じているのか、刀身を食い入る様に見つめながら、
「こっ、これがぁあぁ……」
 フルフルと震える千本刀。

 日本刀を作る過程の焼き入れで出来る「美しき波目模様」の刃紋に映る自身の姿に、
「こっ、これがぁ……御主人様から、幾度となく聞かされ、夢にまで見た日本刀ぉ……」
 心の底から魅了された様子に、
「…………」
 言い知れぬ不安を抱き始めるドロプウォート。
 思わず大人げなく、

『さっ、差し上げませんですわよぉ!』

 愛刀をサッと隠したが、千本刀は憤慨すること無く、むしろ諭すように、
「小娘は、その刀に愛されているのであります。作った人の想い、贈った者の想い、様々な思いが込められ形を成した逸品を無下に取り上げるなど、それは無粋の極みなのであります」
 たしなめられたドロプウォートは、
「…………」
 煌めく刀身を愛しげに見つめ、
(私が、人々から愛されている証……)
 それは、嫌われる事が「日常」であった人生を送って来た彼女にとって、戸惑いを感じる言葉であり、思い掛けず見入っていると、

『武器と相思相愛のキサマに、僭越ながら小生から進物(しんもつ)があるであります』
「え?」

 彼女が我に返るが先か、千本刀は何を思ったか「プレゼントを贈る」と言いながら、
「ペッ!」
 彼女の愛刀の刀身に唾を吐き掛け、

「「「「「「「ッ!!!」」」」」」」

 血相を変えるラディッシュ達。
 彼女の心中を察すれば、タダで済まないのは明らかで、
((((((何てぇ事ぉおぉっぉぉ!))))))
 しかし何故か、ドヤ顔の千本刀。
 命知らずな蛮行に、
「「「「「「…………」」」」」」
 ラディッシュ達が恐る恐るドロプウォートの顔色を窺うと、
「「「「「「ッ!」」」」」」
 そこにあったのは、異常なほどの冷笑。
 彼女は背筋が凍り付きそうな程の「美しき笑み」を浮かべながら、

『キレイな三枚に、おろして差し上げますわ♪』

 穢された愛刀を振り被ると、今にも斬り掛かりそうな眼をして千本刀を見下ろし、

『まっ、待であります! 話を聞くでありますぅ! 話せば分かり合えるでありますゥ!』

 ペンギンながらも、血の気が引いたと分かる表情で後退る千本刀に、
「問答無用……手入れの為の「なめし皮」にでもして差し上げますわ♪」
 怒りマックスの彼女は聞く耳を持たず、異様な眼光を放ち斬り掛かろうとしたが、

『待ってぇ! 待ってぇ待ってぇドロプさぁん!』

 苦笑のラディッシュ達が慌てて後ろから羽交い締め。
 総出の拘束をも、振り飛ばしそうなチカラを前に、
「いっ、一応、話を聞くだけ聞いてみようよぉ、ドロプさぁん!」
 宥めすかすように促すと、血走った眼をしたドロプウォートが鼻息荒く顔だけ振り返り、
「ラディがそこまで言うならァ、命を少々待って差し上げますですわァ」
 想像以上に怒り心頭、怒髪天の御様子。
 羽交い締めを解除すると、何をしでかすか分からない為、ラディッシュ達は彼女の拘束は解かず、
「なっ、何か理由があるんですよねぇ、千本刀さぁん」
 腰が抜けた格好で、カタカタと震えて後退る千本刀に優しく問うと、問われた千本刀は彼女が身動きを封じられているのを良い事に、怯えていたのが嘘のように毅然と立ち、

『無礼にも程があるぞ小娘ぇ!』

 指(羽)差して憤慨を露わにすると、ドロプウォートを目下拘束中の仲間たちを代表してラディッシュが、いっぱいいっぱいの笑顔で、
「あ、あのぉ、千本刀さぁん、そう言うのはイイんで早く……」
 苦言を呈し、
「ギャワ?!」
 不思議に思う千本刀であったが、

「!」

 彼は気が付いた。
 勇者と、その仲間たちの総掛りでさえ、バーサーカー(※ドロプウォート)の猛りを封じておくには、限界が近い事を。
 命の危機を悟る千本刀。
 カウントダウンが既に始まっているのを知るや、過剰な早口で、

「小生は御主人様から収蔵の武器の手入れを一任されており「今の(唾吐き)」は武器の寿命を長めると同時、持ちの主の想いの強さに比例して強くなる「特異な天技」を掛けたのでありますゥ!」
「「「「「「「え?」」」」」」」

 半信半疑のラディッシュ達。
 特にドロプウォートが。
 戸惑いながらも徐々に怒りを静め、
「そ……その様な事が可能、ですのぉ……?」
 仲間たちの拘束から解放されると、千本刀は変わりつつある旗色に調子づき、再び強気を強め、
「疑うと言うなら、天法、天技を使わず、そこの巨木を斬ってみるであります!」
 一本の大木を指(羽)差した。
「…………」
 惑うドロプウォート。
 よく切れる剣とは折れ易く、また「刃こぼれもし易い」と聞いた事があったから。
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