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第三章

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 パストリスの内に秘められた「地世のチカラ」は強大であり、百人の天世人ラミウムのチカラを以てして均衡を保っているほどの物。
 しかしハクサンは、その事実を知ってか知らずかひょうひょうと、
「中世人はみんなぁ生まれながらに「地世のチカラ」を少なからず持ってるのが普通でしょ?」
(((((確かに、そぅだけど……)))))
 納得いかない様子の五人に、彼は半ば呆れた顔して、

「だってぇさぁ、ここに居並ぶ顔ブレ見てみてよぉ」

(((((!)))))

 ハッとするラディッシュ達。
 一人は百人の天世人になりつつある「異世界勇者」、一人は天世を護る使命を帯びた「先祖返り」、そして二人と比肩するチカラを持つ「異世界勇者の末裔」たち。
 
 ある意味「天世の梁山泊」。

 そんな特異な存在たちを前に、
「この面子の比率で「天世のチカラだけ」を送り込んでみなよぉ、天世人どころか「神様」が出来ちゃうよぉ?」
 どこまで本気で言っているのか分からない、冗談めかした物言いで、
「そぅそぅ「もう一つ」あったね♪」
 ターナップとパストリスに、

「丁度イイ機会だし二人とも、お互いに「言っておきたい事」を、正直に言った方が良いんじゃなぁい?」
((!))

 自らの正体を、自分の口から明かすのを促される二人。
 すると、予てより機会を窺っていたパストリスがおずおずと、

「あ、あのぉ、でぇすぅ、実はボク……」

「ちょっと待って欲しいっス、お嬢ぉ!」

 ターナップはそれを手で制し、
「一応、これでも漢(おとこ)なんで、「小っちぇぇ誇り」かも知んねぇっスけど、俺から言わせてほしいっス」
 真っ直ぐ見据える彼にパストリスが小さく頷くと、
「…………」
 小さく息を吐いて気持ちを改めてから、
 
「俺は「異世界勇者の末裔」なんス……魔王との戦いから、怖くて逃げ出した……勇者の……」

 恥じる様に、
「俺の先祖たちは長々と、天世の顔色ばかり窺いビクビクと……だから俺は、本当は、ラディの兄貴を、弱腰だぁ、なんだぁ、と言えた義理じゃねぇんス……」
 視線を落とした。
 両親の死に対し、天世に抗議の声を上げる事が出来なかった自分も「同罪」だと思い。
 すると、

『でぇもぉタープさぁんは、今、ここに居るでぇす♪』
「え?」

 上げた顔に彼女は、
「ご先祖様の事は、ボクには、分からないでぇすけどぉ」
 にこやかに微笑みながら、
「タープさぁんは、これからを変えようとぉしてぇ、変わろぅとぉしてぇ、一歩を踏み出しているのでぇす。ボクは、それは、とてもスゴイ勇気だとぉ思うのでぇす♪」
「!」
 何かを許された様な、心の曇りが晴れた様な気がした。
 
(恥じる必要は、もうねぇ……のかぁ?!)

 思わず、ラディッシュ、ドロプウォート、ニプル、仲間たちの顔を見回すと、三人もパストリスと同意の笑顔を見せていて、

(そうか……そうだったのか……許していなかったのは「俺自身ダケ」だったのか……)

 自嘲気味の笑みを浮かべていると、蚊帳の外扱いハクサンが、
『ちょっとちょっとぉ、ぼくぁ?!』
 涙目で訴え、
「悪りぃ悪りぃ~すっかりぃ忘れてたぜぇ~♪」
 憑き物が落ちた様な、すっきりとした笑顔に、

「酷くなぁい! ぼくぉ扱い酷くなぁい!」
「「それなりの感謝は」してるってぇ♪」
「何だよぉ、その「取って付けた」みたいな感謝はぁ!」

 なお憤慨する彼を、ラディッシュは間に入って「まぁまぁ」と宥めながら、
「パストさんも、伝えないとね♪」
 笑顔の投げ掛けに、彼女は頷きと共にターナップに向き直り、
「もぅ気が付いていると思うでぇすけどぉ……ボクは「妖人」なのでぇす。ラミィさぁんがチカラの一部を分けてくれてぇ……今の姿で居られる訳で……そのぉ……」
 徐々に視線を落とし、

「妖人のボク……(司祭のタープさんは特に)気持ち悪くぅなぁい、のでぇす……?」

 するとターナップが、彼女を無言ですっと抱き締めた。
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