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第三章

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 放心するでもなく、置かれたその場に、ただスッと立つビフィーダ。

 そんな彼を、現王カルニヴァは冷酷なほど静かに見つめ、
「ビフィーダよ」
 沈着なれど重々しく口を開き、
「極刑は免れぬと理解しながら黙秘を続けているそうだが、彼ら(ラディッシュ達)を前にしても、なお「言い遺す事」は無いのか?」
 しかしビフィーダはカルニヴァを真っ直ぐ見据えたまま、
「…………」
 表情一つ変えず、呻きの一言さえ漏らさず、カルニヴァ王もまた、彼を真っ直ぐ見据えまま、
「そうか」
 眉一つ動かさず、頷きの言葉だけ返すと、彼から視線を外す事無く、
「下れ。(刑の執行)期日は追って沙汰する」
 それはプルプレアやラディッシュ達の到着を待ってから下された、事実上の死刑宣告であった。
 
「…………」

 それでも無言のビフィーダ。
 微かな心の揺らぎも感じさせずカルニヴァに小さく一礼だけすると、背を向け、団長トムフォルと共に謁見の間から出て行こうとした。
 すると、
 
『待って下さァいぃ!』

 悲痛な声を上げたのはプルプレア。
「王よ! 本当にこれで良いのですか! 王も本当は御気付きなのではないのですか! ビフィーダ様の気持ちにぃ!」
「…………」
「…………」
 眉の端に、微かな心の揺らぎを見せる現王カルニヴァと、背を向けたまま無言で足を止めるビフィーダ。
 それは互いに本心を押し殺している証であり、そんな二人を前に、

『ビフィーダ様は貴方に振り向いて頂きたかっただけぇで、ソレに付け込まれたダケ! それは想いがありながら、見て見ぬフリをした貴方様にも原因があるのではないのですかァ!』

 自分の「淡い想い」は内に抑え留め、二人の仲を取り持とうするプルプレアの献身に、
(((((…………)))))
 心打たれるラディッシュ達ではあったが、少し違う角度の人物が一人。

 それは、ニプルウォート。

 カルニヴァ王(兄)×ビフィーダ(弟)の構図に色めき、顔の緩みが抑えきれずにいると、

(不謹慎ですわぁ!)

 ドロプウォートが密かに、尻つねり。
(痛ぁ!)
 静かに痛がるニプル。
 咎めを受ける自覚はあるだけに「皆まで言うな」と言わんばかり、

(分かってるさぁ分かってるぅ)

 ムッとしたが、
(けどぉさぁ~)
 ニヘラぁと笑みを浮かべ、
((((…………))))
(!)
 仲間全員からの批判の眼差しに気付き、
(……自重します)
 申し訳なさげに小さく頭を下げた。
 
 一部で、その様な、聞いて呆れるやり取りが起きていたなどと知る由も無いプルプレアとビフィーダ、そしてカルニヴァ。
 抑え、隠していた感情を爆発させるが如く、
「分かっていたとして「応える訳」にはいかないだろぅがァ!」
 カルニヴァは激昂して立ち上がり、

『腹は違えどビフィーダは「俺の妹」だァアァ!』

『『『『『いっ「妹」ぉおっぉぉぉっぉおぉ!!!』』』』』

 衝撃を受けるラディッシュ達。
 とりわけニプルが、皆と違った意味で(※彼女の中の至高の構図「兄×弟」崩壊により)。
 
 ビフィーダは、女性であった。
 
 後々カルニヴァ王から聞かされた話であるが、カルニヴァ国はフルール国とは真逆の「男系の国」で、王位には男子しか就くのが許されず、しかも王家の血筋に生まれた男子は現王カルニヴァのみ。
 故に、王位継承が心許ない弱みを他国に悟られる訳にはいかず、また現王カルニヴァの身に不測の事態が起きた場合を考え、腹違いの妹であった「ウトリクラリア」を幼少より男子と偽り、名を「ビフィーダ」に変え、「時間稼ぎのスペア」として育てられていたのであった。
 
 しかし側近一族として、御学友として、裏事情を知っていたプルプレアは引き下がるどころか、
「他国では王家の血を薄めぬ為のぉ近親婚を行っている国もあるではないですかァ!」
 グッと奥歯を噛み締め、火刑送りが確実となってしまったビフィーダの無念を代弁するように、
 
『素直になれなかったダケを偽るなァ!』

 そこに居たのは「王と臣下」ではなく、言いたい事が何でも言い合える「幼馴染みが二人」の姿であった。
「クッ!」
 痛い所を突かれたのか、カルニヴァが言葉に詰まると、

『もぅイイんだぁプレアぁ!』

 ビフィーダが涙ながらに声を上げ、
「もぅ、良いんだ……すべては……全ては素直になれないばかりか、悪魔の囁きにまで耳を傾けてしまった私の不徳……王族の身でありながら、多くの臣民の命を奪う事になってしまい……」
 うつむいたが、涙を払う様にパッと笑顔を上げ、

「こんな自分勝手な私の為に「王に盾を突いてくれた友達が居た」と言う事実だけで、私は謹んで刑を受け止められる」

 そして彼女は、

「ありがとう」

 一点の曇りも無い、晴れやかな満面の笑顔を見せた。
 しかし、
「ふざけないで……」
「え?」

『ふざけないでよぉウトリクラリアァッ!』

 プルプレアは怒りを以て咆哮し、
「幼い頃から私がどれだけ貴方たちに振り回されて来たと思ってるのぉ! それが何! 今更どぅもありがとう?! 勝手に「有終の美」を決め込まないでよォ!」
(プレア……)
「貴方たちのせいで傷付いた「王家の信頼」はどうするの! 現王は王位に就いたばかりで内も外も敵だらけなのよォ!」
「落ち着いてぇ、プレアぁ!」
「落ち着いてなんか居られる訳がないでしょクラリア(※幼少期の愛称)ッ!」
 憤怒の表情のまま、カルニヴァ王の傍らに立つ「じぃや」に、
 
「おじいちゃん! イイわよねぇ!」

 新たな事実。
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