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第三章

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 想定外の事態は色々(※主にターナップとクルシュ)起きたが――

 救援部隊との引継ぎが無事に終わり、やっと一息つく事が出来るラディッシュ、ドロプウォート、ニプル、プルプレア。
 家族や友人、知人を失った村人たちの心情を思うと、居た堪れない気持ちにはなったが、久々な気のする「焚き火を囲んだ穏やかな時間」に、安堵の表情を見せ合っていた。
 そんな落ち着きを取り戻したラディッシュ達の下へ、

『お疲れのところ誠に申し訳ありませんが、少々お話を伺えますか?』

 ヴェズィクローザが割って入り、
「申し遅れましたが、私はカルニヴァ国国王直属騎士団団長四人衆が一人、ヴェズィクローザと言います。以後、お見知り置きを」
 恭しく頭を下げ、
「そして、これは、」
 クルシュを紹介しようと傍らを見ると、
「…………」
 困惑笑いのパストリスを間に挟んで、

「キミの名はぁ何て名なんだ? へぇ~「パストリスちゃん」かぁ~♪」
「テメェ! お嬢に気安いんだよォ!」
「ぁんだとぉ!」
「やんのかぁ!」

 互いに疲労困憊の筈の「クルシュとターナップ」が早速モメていて、ヴェズィクローザが心苦しそうに、
「重ね重ね申し訳ありません……コレも、一応、四人衆が一人の「クルシュ」と言います……」
 モメる「似た者同士」は一先ず脇に置き、ラディッシュはプルプレアの補足を交えながら、一連の出来事を彼に説明し、
「なるほど……」
 深々頷くヴェズィクローザに対してプルプレアは、
「ですから直ちに「ビフィーダ」様の捕縛を!」
 訴えると、彼は冷静に、
「その必要はありません」
「「「「!?」」」」
 驚くラディッシュ達。

 最も驚いたのはプルプレア。
 隠ぺい工作と思える物言いに、

『何故でぇす!』

 激しく激昂、
「如何な理由があろぅと、この様な惨事をォ!」
 怪我や心痛で苦しむ村人たちを指し示して身を乗り出したが、ヴェズィクローザは平静に、それを手で制し、
「誤解があるようだが、既に「探す必要が無い」と言うだけです」
「え?!」
「此方に現着するなり城から「早馬での連絡」があり、あの方(ビフィーダ)が自ら出頭されたそうなのです」
「な……」
 言葉を失うプルプレア。
 責任を取らせたかった気持ちに嘘や偽りは無かったが、その半面で捕まれば極刑は免れず、幼き頃の「彼の屈託ない笑顔」が脳裏をよぎり、

(国外逃亡……していなかったのか……)

 複雑な思いで視線を落とすと、幼馴染みと聞かされていたラディッシュが彼女の心中をおもんぱかっておずおずと、
「そ、そのぉ……ビフィーダさんは、今はどんな扱いをぉ……」
「投獄され、取り調べを受けております。しかし理由の如何に関わらず……」
 ヴェズィクローザは「疲弊した村人たち」を平静に見つめ、
「国民感情を鑑みれば、極刑は免れないでしょうが」
 その物言いは、物事を冷静に分析する彼の気質が表れてか、事務的であり、やや冷たくも感じたが、それはラディッシュ達にとって他国の人の話。
 文化の違いもあるので一概に「冷徹」とは責められず、うつむくプルプレアに対し、

「「「…………」」」

 何と言葉を掛けたら良いのか惑う中、彼の事務的報告は続き、
「現在はクルシュの班が「遺体の回収」と「埋葬」をしております。あと半日もすれば、簡易的な合同葬儀が可能となるかと思います」
(((簡易的……)))
 更なる引っ掛かりを覚えるラディッシュ達。
 数分の会話の中から、彼に他意はなく、彼の持つ「合理性が言わせた言葉」であるのは察したが、それでも人情として違和感を拭えず複雑な表情で居ると、唐突に、

『ならぁ「祭り」だなぁ♪』

 明るい声を上げたのは、今の今までターナップと(パストリスをめぐり)モメていたクルシュ。
 その突拍子も無い提案に、

「「「「「祭りぃ!!!?」」」」」

 ギョッとして振り返るラディッシュ達と、驚き顔で彼を凝視するパストリスとターナップ。
いくら「文化に違いがある」とは言え、あまた村人が亡くなった当日に「祭り」など不敬にも程があり、

(な、何を言ってるだろぉこの人ぉ?!)
(何を考えてますのぉこの方はぁ?!)
(何、言い出してんのさぁ!?)
(ビックリなのぉでぇす!)
(コイツぁナニ考えてやがぁんだぁ!)

 不快感を隠せずに居ると、ヴェズィクローザが呆れ顔して額を押さえ、
「クルシュ……何度も言う通り、その物言いは「不穏当」です」
 釘を刺し、
「誤解を抱かないでいただきたいのですが」
 ラディッシュ達には前置きした上で、
「この国では「亡くなった者」が不安なく旅立てるようにと、悲しみに暮れるのではなく、古くから「酒宴の席を設ける」習わしがあるのです。その事を「この者(クルシュ)」は、何度注意しても「祭り」と……」

(((((葬儀に宴会?!)))))

 丁寧に説明されてもなお半信半疑で、プルプレアをチラリと見ると、ビフィーダの件で未だ落ち込みの中にある彼女も小さく頷きを見せ、真実であるのを示し、諭されたクルシュは全く悪びれる様子もなく、

『祭りは「祭り」だろうがぁ!』

 満面の笑顔で立ち上がり、
「シケタ面してチビチビ飲んでたら、死んだ連中も「遺した家族」が心配で、あの世に行けなくなっちまうだろぅがぁ!」
 拳を高々空に突き上げ、
「俺達は大丈夫だァ! って所を見せてぇ送り出してやるのがぁ、遺されたモンの務めじゃねぇのかぁ!」
 屈託無い少年の様な笑顔で、

「だから『祭り』だ! そぅは思わねぇかぁ♪」

 拳をラディッシュ達に向けた。
 陰りや二心を全く感じさせない彼の物言いに、ラディッシュは他意無く、
(故人をしのぶ想いって、人それぞれなんだなぁ)
 染み染み思い、
(でも……)
 とある思いが胸中に湧いた途端、期せずして、

『『『『発想が脳筋』』』』

 同じ感想を、包み隠さずこぼすドロプウォート、ニプル、パストリス、ターナップ。
 思わずラディッシュが苦笑し、的を射ていると思ったか、感情の起伏が少なく見えたヴェズィクローザまでもが「プッ」と小さく噴き出すと、笑われたクルシュは、

『誰が「脳筋」かぁ!』

 憤慨し、当人に自覚無し。
 その後、動ける村人を含めて全員で、焼け残った品々をかき集め、出来る限りの「盛大な酒宴の席」が設けられた。
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