上 下
192 / 706
第三章

3-19

しおりを挟む
 一夜が明け――

 防壁で囲まれた村の中から幾本も細長く立ち昇る、残り火による黒煙と、周囲に漂う火事場特有の異臭。

 防壁の外側には、整然と並べられた幾つもの亡骸が。

 その傍らで泣き崩れる遺族たちや村人たちを、憔悴した表情で見つめるのは、煤にまみれたラディッシュ達。
 無数の汚染獣に四方八方から襲われた村は、いかな百人の天世人に近づきつつある異世界勇者と、その仲間たちとの特異なチカラを以てしても、防ぎ切る事は出来なかったのである。

 彼ら、彼女たちは死力を尽くした。

 尽くしてなお、届かなかった。

 犠牲者は、村人の半数以上。
 その中には助けた筈の、あの親子も。
「「「「「…………」」」」」
 かける言葉が見つけられない中、遺族の中から、

「やっぱり、よそ者なんて招き入れるんじゃなかった……」

 その嘆きに同調する様に、

「そうだァ! コイツ等が来たからぁこんな事になったんだァ!」

 するとプルプレアが同胞たちのやり場のない怒りに理解は示しつつ、
「何を言ってるんだ司祭が言っていただろォ! そもそも犯人はこの村の人間でぇ!」
 同胞だからこそ言える苦言を呈そうとしたが、ラディッシュはそれを静かに制し、
「村の人達の言い分は「最も」かも知れない……」
 自分たちの存在が引き金であった可能性を示唆し、

(!)

 プルプレアが視線を落とすと、村長が申し訳なさげに歩み寄って来て、
「理不尽な物言いであるのは重々承知……じゃが、村の皆の心中を察し、どうか一刻も早いお引き取りを……」
 即時出て行くよう促した。
「…………」
 返す言葉も無いプルプレア。
「陛下に……陛下には支援要請の手紙を出しておきました……」
 それが伝えられる言葉の、精一杯であった。

 失意のまま村を後にするラディッシュ達。

 チカラを付け、己の心と向き合いながら戦った筈が、結果は「助けた筈の命」さえ守り切れず、肩を落として、うつむき歩き、
(僕のした事の意味っていったい……)
 無意味にさえ思えて来た中、

『揃いも揃ってぇ何を辛気臭い顔をしてるんだかぁ』

 唐突に呆れ声を上げたのはハクサン。
 何を気に病んでいるのかと問わんばかりに、
「あぁなるのを分かった上で生活していたのは、彼らだよぉ? ぼくぁは忠告もした。そしてキミ達は村人の半数も救った。上等じゃないかぁ。キミ達が居なければ全滅だよ?」
 普通レベルのイケメンスマイルで前髪をたなびかせたが、
「でもハクさぁん……僕たちが行かなかったら、」
 村が襲われなかったか可能性を言おうとすると、

「ノンノンノン」

 続く言葉を半笑いで制し、
「百歩譲って「だとしてもぉ」だよぉ? 遅いか早いかの違いで、いずれ起きた事態だよ」
 彼なりの(意外な)気遣いなのか、はたまた本心からそう思っているかは分からなかったが、目の前で「守っていた多くの命」を易々と奪われては、気持ちの切り替えなど簡単に出来る筈も無く、

「僕たちはカルニヴァ城に着くまで……もぅ村や町に近づかない方が良いのかも知れない……」

 呟きに、ハクサンはヤレヤレ顔を見せたが、うつむき加減のドロプウォート達は小さく頷き同意を示した。


 街道を行くラディッシュ達――

 プルプレアの話では、城への道程も半分に差し掛かった辺り。
 (襲撃を受けた)村を後にして数日、天世の横槍は無く、加えて汚染獣との遭遇も無く、旅路が晴天続きであったが故に、沈んでいた空気も幾分明るさを取り戻し、ラディッシュは青空に浮かぶ雲をぼんやり眺めながら、

「お昼は、何がイイかなぁ……」

 何の気なしに呟くと、

「らーめんっ!」
「ちゃ―はんっ!」
「はんばーぐっ!」
「すぱげてぇーっ!」
「ぎょざっ!」

 各々、フルール国の同人誌作業で目にし、ラディッシュが再現して気に入った異世界料理の名を上げ、独り言への思わぬ食いつき反応に、
「あははは……」
 困惑笑いを浮かべたが、ふと、
「そう言えばプルプレアさん」
「ん?」
「カルニヴァ国の名物料理って、何かあるの?」
「カルニヴァの? そうだなぁ……」
 プルプレアは黙考し、

「やはり「肉」だな!」

 パッと見せた笑顔に、
「え……」
 言葉に詰まるラディッシュ。
(えぇと……料理を聞いたんだけど……僕の「質問の仕方」が悪かったのかな?)
 思い改め、

「どんな調理をする、肉料理で有名なの?」

 するとプルプレアは、
「ちょうり?」
 キョトン顔に、
「え? あ、う、うん……」
 戸惑いに、

「そんなもの「丸ごと焼いて丸かぶり」に決まってるだろぅ♪」

 満面の笑顔を返され、
(えぇ~~~)
 流石に困惑する中、

((((((流石は脳筋国……))))))

 苦笑するドロプウォート達であったが、ラディッシュは、
(!)
 会話の中から何か料理を閃いた様子で、
「プルプレアさんが気に入るかどうか分からないけど、今日のお昼は肉料理にしてみるよぉ♪」
「「「「「「肉料理ぃ♪」」」」」」
 ドロプウォ―ト達も色めき立った。

 何だかんだと理由をつけても、体力勝負に「肉」は必須であり、言わずもがな『皆、肉好き』なのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の従魔は恐ろしく強いようです。

緋沙下
ファンタジー
僕は生まれつき体が弱かった。物心ついた頃から僕の世界は病院の中の一室だった。 僕は治ることなく亡くなってしまった。 心配だったのは、いつも明るく無理をして笑うお母さん達の事だった。 そんな僕に、弟と妹を授ける代わりに別の世界に行って見ないか?という提案がもたらされた。 そこで勇者になるわけでもなく、強いステータスも持たない僕が出会った従魔の女の子 処女作なのでご迷惑かける場面が多数存在するかもしれません。気になる点はご報告いただければ幸いです。 --------------------------------------------------------------------------------------- プロローグと小説の内容を一部変更いたしました。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

弓使いの成り上がり~「弓なんて役に立たない」と追放された弓使いは実は最強の狙撃手でした~

平山和人
ファンタジー
弓使いのカイトはSランクパーティー【黄金の獅子王】から、弓使いなんて役立たずと追放される。 しかし、彼らは気づいてなかった。カイトの狙撃がパーティーの危機をいくつも救った来たことに、カイトの狙撃が世界最強レベルだということに。 パーティーを追放されたカイトは自らも自覚していない狙撃で魔物を倒し、美少女から惚れられ、やがて最強の狙撃手として世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになるのであった。

処理中です...