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第三章

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 その日の夕刻――
 たき火を囲むラディッシュ、ターナップ、ハクサンの男子三人。
 ゆらゆら燃える炎をただ見つめて暖を取っていたのだが、そんな中、ソワソワと落ち着かない様子を見せるハクサンに、ターナップが鋭い視線を向け、
 
「まさか「のぞきに行こう」なんてぇ企んでんじゃねぇだろぅなぁ?」

 責める様な問い掛けに、彼の挙動不審が気になっていたラディッシュも苦笑い。
 すると、

「ぼ、ぼくぅだってぇそこまで馬鹿じゃないよぉ!」

 憤慨し、
「天威の効かないあの子たちの入浴を覗くなんてぇ!」
 離席しているドロプウォート、パストリス、ニプルの女子三人は入浴中であった。

 入浴と言っても、今いる場所は森の中。
 湯につかるなど容易に出来る筈も無く、正確には簡易的なテントを張り、その中で一人ずつ、桶に湯を張り、布で体の汚れを拭きとり、終わるまでの間、二人がテントの周辺警戒(主にハクサンを)に当たると言う形を取っていた。
 ハクサンは犯行に及んだ後に、女子三人から受けるであろう仕打ちを想像し、

「見つからったぁ半殺しじゃ済まなぁいぃ」

 真っ青に青ざめ、

((一応、自制心はあるんだ……))

 皮肉交じりに思うラディッシュとターナップであったが、しかしながら彼は怯えた表情を見せながらも、
「でも見れないと思うと「余計に見たくなる気持ち」もあってだねぇ♪」
(懲りねぇヤツ……)
 呆れ笑うターナップであったが、おもむろに、
「なぁハクサンよぉ」
「?」
「その「天威」ってやつ……「ドロプの姉さん」と「ラディの兄貴」に通用しなかったのは分かるけどよぉ……なんで俺やニプル、パストのお嬢にも効かなかったんだぁ?」
 するとハクサンはヤレヤレ笑いで、

「察しが悪いねぇ、キミは~」

「あぁ!?」

 ムッとするターナップに、
「ぼくぃ言われなくても、キミ自身に「思い当たる節」があるんじゃないのかぁい?」
(!)
 内心で、ギクリとした。
 それは、異世界勇者の血を引いているのを意味し、
(何で知ってやがんだ……)
「…………」
 思わず黙ると、話の見えないラディッシュが、

「え?! 何? 何何?? 何の話ぃ???」

 身を乗り出し、
「それはねぇ、」
 説明しようとしたハクサンの言葉を遮るように、
「だとしてニプルと、パストのお嬢はどぅなんだよぉ?」
 その行為は「時が来たら自分で説明する」との意思表示であり、察したハクサンはあえて「その事(※ターナップが逃げた異世界勇者の末裔である事)」は伏せつつ、
「ニプルちゃんも、キミと同類なのさぁ♪」
「な?!」
「髪の色はその影響ぉさ。だから彼女の両親は戦のどさくさ紛れに「生まれて間もない彼女」を捨てたんだろぅねぇ~世間に知られるのが怖くなってさぁ♪」
「!」
(アイツも「異世界勇者の末裔」だったのかぁ!)
 驚くと同時、
 
(にぃしてもぉ「親が子を捨てる」だとォオォ!)

 彼女の両親に怒りを覚えつつ、自身の両親が良人であった事に感謝したが、
「ん? ならぁパストのお嬢は?」
 それは予てより抱いていた違和感。
 
 彼が聞いたパストリスの出自は、「普通の村娘」。
 
 しかしドロプウォートと共にエルブ国を救った「英雄の一人」であり、そのギャップから抱き始めた違和感であったが、フルール国での天法修行を経て、天法に関する鋭さを増した今の彼は、彼女の中から感じる「一般的な中世人」と明らかに異なる気配に関心は日ごと増すばかり。
 気になる最大の理由は「そちら」ではなく、もう一つの方にあるのだが、その事実に未だ辿り着けない「恋愛音痴ターナップ」は、
(普通の村娘がラミィの姐さん加護を直接受けて、国を一つ救って、今は勇者と旅をしている…………そうかぁ!)
 自分なりに「とある答え」を導き出し、そして、
 
(その突飛過ぎる物語性が気になって、俺ぁお嬢の事をつい考えちまうのかぁ!)

 真実は、更に遠ざかった。
 そんな彼の心の内を、表情変化から見透かしたハクサンは呆れ笑い。
(好きなのを認めちゃえば、楽になるのにねぇ~)
 辟易していると、
 
『さっきから二人して何なんだよぉ!』

「「!」」

 すっかり蚊帳の外であったラディッシュが憤慨。
 
 するとターナップはニッと笑って、
「そのうちキチンと説明(※異世界勇者の末裔である事)しやすんでぇ、もぅ少しだけ待って欲しいんっス♪」
 その笑顔から、何かしらの理由があると悟ったラディッシュは、
(仕方が無いかぁ)
 不承不承、
 
「絶対だからねぇ」

 矛を収める意図が伝わる憤慨を、彼に返した。
 いつも通りに見えた笑顔の中に薄っすら感じた物が「陰り」であったから。
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