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第二章
2-55
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それから数ヶ月が経ち――
先のミノタウロスの事件で幸いにも死者が皆無(公式発表として)であった為に、毎年恒例の「憂さ晴らしの祭り」は無事に行われ、ニプルとリブロンによる孤児院への「贈り物合戦」や、年末の大掃除に新年祝賀の行事など、平穏な日常が過ぎて行く中でも、騎士たちは効率的な呼称による「天法・天技の発動」の開発に勤しみ、ラディッシュ達も同人誌作業を手伝いながらの「偽装の天法」習得の修行に明け暮れ、やがて雪が解けを迎え、花の国フルールが彩で本領を表す「春の季節」がやって来た。
それは「ラディッシュ達の修行の終わり」を告げる便りでもあり、同時に「ラディッシュ達の旅立ち」が近いのも意味していた。
しかし、
『『『『これから何処に行けば良いんだ?』』』』
次なる行き先が、定まっていなかった。
言い出しっ屁のハクサンが姿を全く見せず、途方に暮れていたのであった。
謁見の間で女王フルールとリブロンを交え、どうしたものかと困り顔を合わせるラディッシュ達。
そんな中、ターナップが呆れ交じりに、
「ラディの兄貴ぃ、もぅエルブに帰っちまいまスかぁい?」
「「「「「「!」」」」」」
それぞれの思いでギョッとするラディッシュ達。
ラディッシュは、
(で、でも、それじゃあラミィの情報が……)
ドロプウォートは、
(それも「やむなし」ですわねぇ……)
パストリスは、
(この旅もここまで……ボク、また一人になっちゃうでぇすね……)
ニプルは、
(コイツ等が去って、ウチはまた「針のむしろ」に……ラディともこれで……)
リブロンは、
(私を置いて去って行ってしまうのですね、私の勇者様……)
女帝フルールは、
(あぁ……やっと手にした「アシスタント達」が……一人徹夜に逆戻りでゴザルぅ……)
七者七様の思いでいると、
『やぁーや皆さん、何やらお困りの様ですねぇ♪』
能天気な声と共に姿を現したのは、
((((((((ハクサァン!))))))))
やっと来たかと思う反面、ドロプウォート達には天世人を相手に、直接口に出来ない「疑念」が。
それは、
≪彼が姿を消してから牛人(ミノタウロス)が現れた≫
と、言う事実。
思い返してみれば「ターナップの村」でも同様で、彼が現れて牛人が現れたとも思えた。
しかし天世人を相手に、それも「百人の天世人」を相手に「中世の人間」が、悪行の嫌疑をかけ問いただすなど天罰を受けるに等しい行為であり、不信感をそれぞれの内に留める中、
『ハクさんが居なくなった途端に牛人が出て、本当にタイヘンだったんだよぉ!』
ギリギリスレスレの超危険球を放ったのは、ラディッシュ。
天然男の際どい物言いに、
((((((!!!?))))))
ギクリとするドロプウォート達。
とは言え、彼が言った言葉には「ハクサンを怪しむ気持ち」は微塵も感じられず、それが分かってか、ハクサンも顔色一つ変える事無く、
「いやぁ~ぼくぉ出先で聞いた聞いた、タイヘンだったらしいねぇ~でも大活躍だったそうじゃないか♪」
「無我夢中だったダケだよぉ~」
ラディッシュは照れ笑い、
「それで結局ハクさんは、何処で何をしてたの? またナンパ?」
するとハクサンは自慢げに「ふふ~ん♪」と一笑い、
「次の国に入る為の「根回し」をしていたのさぁ♪」
「次の国?!」
「そぅそぅ。フルールでの修業は済んだんだろぅ?」
「一応は、済んだけど……」
思う所があり歯切れの悪いラディッシュであったが、意を決し、
「課題を一つ達成出来たからラミィに関する情報を!」
ラミウムに関する話の片鱗でも聞けないかと持ち掛けたが、ハクサンは即座に、
「ノンノン♪」
続く二の句を言われる前に打ち消し、
「安売りは出来ないねぇ~あと二つ、課題を達成出来たら教えてあげるよん♪」
交渉に際し「上位の手札」は全て彼の手元にしかなく、
「…………」
黙るしかないラディッシュと、
「「「「「「「…………」」」」」」」
二人のやり取りを黙って見つめるドロプウォート達。
(彼はいったいラミィの「何を知っている」と言うのですの……実は何も知らず「踊らされているダケ」など言う事は……)
疑惑は増え、深まるばかりであったが、いくら訝しんでも答えが明らかになる訳でもなく、そんな中で女王フルールが先陣切って、
「してハクや、ヌシは此の者らを、次は何処へ導こうつもりかえ?」
するとハクサンは、
「次はね~パンパカパァ~~~ン! 発表しまぁす!」
勿体を付けるようにラディッシュ達を見回した上で、
「次の国は『カルニヴァ』でぇ~すぅ!」
この世界の知識に乏しいラディッシュにとっては、どの国でも同じような物であったが、フルールは納得であったのか妖艶な笑みを浮かべ、
「カルニヴァを先に選ぶとはぁ、ヌシにも「人並みの良識」と言うモノがあったとはのぉ」
「酷いなぁ~ぼくぁいつだって良識人さぁ♪」
「「「「「「「…………」」」」」」」
ドロプウォート達の物言いたげなジト目を尻目に、
「あんな「きな臭い国(アルブル国)」なんて行かずに済むなら、ぼくぅだってぇそぅしたいさぁ~。けど、ラディの「聖武具」を手に入れるには避けて通れないからねぇ~。だから先にカルニヴァに行って「聖防具」を手に入れてチカラをつけるのさ~」
ヤレヤレ笑いに、素朴な疑問を抱いたラディッシュが、
「きな臭い国?」
首を傾げると、ドロプウォートが疎まし気に、
「エルブの北に位置するアルブル国は王が崩御され、唯一継承権を持った王子が玉座に就いたのですが……」
言葉尻を濁すと、ニプルが補足する様に、
「その王子ってのが十歳になったばかりでさ、実権は宰相の「アルブリソ」ってのが握ってるのさ。しかしコイツの評判が、すこぶる悪い。しかも「先王の死因は不明」って尾頭付きなのさ」
「何それ!? その人、真っ黒じゃないかぁ」
ラディッシュは顔をしかめ、
「そんな国にも行かないといけないのぉ?」
不安しかない眼差しをハクサンに向けると、彼は珍しくも、済まなそうに笑いながら、
「カルニヴァ国は「防具」を、アルブル国は「武器」を、天世の命で研究開発をしている国だから、「聖なる武具と防具」が必要になるラディが両国に向かうのは必須なんだよぉ」
苦笑すると、得心が行った様子を見せるターナップ。
「なるほどぉ、それで何が起きるか分からない「ヤバイ国」に入る前に、フルールで天法を身に付け、カルニヴァ国で防御を手に入れ、いざって訳か」
頷いて見せると、パストリスが話を聞いているだけで嫌そうに頭を抱え、
「うぅ~行きたくないでぇすぅ……」
四人が「アルブル行き」を憂いる中、元々ハクサンを快く思っていないリブロンが目の端をキラリと光らせ、
『ですがカルニヴァ国も「今は一枚岩ではない」と聞いておりますが?』
「「「「「!?」」」」」
初耳に、ギョッとするラディッシュ達。
ハクサンに、問い詰める様な眼差しを一斉に向けると、
「ま、あぁ、確かにぃ。でも「問題の無い国」なんてぇ、」
奥歯に物が挟まった物言いを始め、すかさずリブロンは、
「現王と、その弟君(おとうとぎみ)との確執が、近ごろとみに、顕著になって来ていると、私どもの手元に情報として集まって来ておりますが?」
追及の一手。
全ては、ラディッシュの為。
ラディッシュの憂いとなる物を一つでも取り除けるのなら、「百人の天世人」すら敵と見なす、恋する乙女は無敵なのである。
彼女の揺るぎなき視線に、ハクサンは「からかいは火に油」と判断し、
「あははは……流石はフルール国、大した情報収集能力だよぉ」
素直に脱帽し、恋を知った「乙女の強さ」に閉口したが、
「だからと言って」
不敵にニヤリと笑い返し、
「優先順位も、カルニヴァに向かう事も、何も変わらない。違うかい、リブロンちゃん♪」
「ぐっ……」
ぐうの音しか出ないリブロン。
理由はどうであれ、ハクサンの言う通りにしなければ、結果的にラディッシュは地世のチカラの浸食を受け、苦しむ事になってしまうのだから。
揚げ足を取られた形になったリブロンは、
(平常心、ヘイジョウシン、へいじょうしん!)
平静を装った無表情顔に、そこはかとない悔しさを滲ませ、内なるハクサンに対する敵視を強め、そんな彼女にラディッシュ達が苦笑する中、当のハクサンは、
「と、言う訳でぇ、準備ができ次第、カルニヴァ国に出発だからねぇ♪」
見せつける様な「勝ち誇った笑顔」で、旅立ちの宣言をした。
先のミノタウロスの事件で幸いにも死者が皆無(公式発表として)であった為に、毎年恒例の「憂さ晴らしの祭り」は無事に行われ、ニプルとリブロンによる孤児院への「贈り物合戦」や、年末の大掃除に新年祝賀の行事など、平穏な日常が過ぎて行く中でも、騎士たちは効率的な呼称による「天法・天技の発動」の開発に勤しみ、ラディッシュ達も同人誌作業を手伝いながらの「偽装の天法」習得の修行に明け暮れ、やがて雪が解けを迎え、花の国フルールが彩で本領を表す「春の季節」がやって来た。
それは「ラディッシュ達の修行の終わり」を告げる便りでもあり、同時に「ラディッシュ達の旅立ち」が近いのも意味していた。
しかし、
『『『『これから何処に行けば良いんだ?』』』』
次なる行き先が、定まっていなかった。
言い出しっ屁のハクサンが姿を全く見せず、途方に暮れていたのであった。
謁見の間で女王フルールとリブロンを交え、どうしたものかと困り顔を合わせるラディッシュ達。
そんな中、ターナップが呆れ交じりに、
「ラディの兄貴ぃ、もぅエルブに帰っちまいまスかぁい?」
「「「「「「!」」」」」」
それぞれの思いでギョッとするラディッシュ達。
ラディッシュは、
(で、でも、それじゃあラミィの情報が……)
ドロプウォートは、
(それも「やむなし」ですわねぇ……)
パストリスは、
(この旅もここまで……ボク、また一人になっちゃうでぇすね……)
ニプルは、
(コイツ等が去って、ウチはまた「針のむしろ」に……ラディともこれで……)
リブロンは、
(私を置いて去って行ってしまうのですね、私の勇者様……)
女帝フルールは、
(あぁ……やっと手にした「アシスタント達」が……一人徹夜に逆戻りでゴザルぅ……)
七者七様の思いでいると、
『やぁーや皆さん、何やらお困りの様ですねぇ♪』
能天気な声と共に姿を現したのは、
((((((((ハクサァン!))))))))
やっと来たかと思う反面、ドロプウォート達には天世人を相手に、直接口に出来ない「疑念」が。
それは、
≪彼が姿を消してから牛人(ミノタウロス)が現れた≫
と、言う事実。
思い返してみれば「ターナップの村」でも同様で、彼が現れて牛人が現れたとも思えた。
しかし天世人を相手に、それも「百人の天世人」を相手に「中世の人間」が、悪行の嫌疑をかけ問いただすなど天罰を受けるに等しい行為であり、不信感をそれぞれの内に留める中、
『ハクさんが居なくなった途端に牛人が出て、本当にタイヘンだったんだよぉ!』
ギリギリスレスレの超危険球を放ったのは、ラディッシュ。
天然男の際どい物言いに、
((((((!!!?))))))
ギクリとするドロプウォート達。
とは言え、彼が言った言葉には「ハクサンを怪しむ気持ち」は微塵も感じられず、それが分かってか、ハクサンも顔色一つ変える事無く、
「いやぁ~ぼくぉ出先で聞いた聞いた、タイヘンだったらしいねぇ~でも大活躍だったそうじゃないか♪」
「無我夢中だったダケだよぉ~」
ラディッシュは照れ笑い、
「それで結局ハクさんは、何処で何をしてたの? またナンパ?」
するとハクサンは自慢げに「ふふ~ん♪」と一笑い、
「次の国に入る為の「根回し」をしていたのさぁ♪」
「次の国?!」
「そぅそぅ。フルールでの修業は済んだんだろぅ?」
「一応は、済んだけど……」
思う所があり歯切れの悪いラディッシュであったが、意を決し、
「課題を一つ達成出来たからラミィに関する情報を!」
ラミウムに関する話の片鱗でも聞けないかと持ち掛けたが、ハクサンは即座に、
「ノンノン♪」
続く二の句を言われる前に打ち消し、
「安売りは出来ないねぇ~あと二つ、課題を達成出来たら教えてあげるよん♪」
交渉に際し「上位の手札」は全て彼の手元にしかなく、
「…………」
黙るしかないラディッシュと、
「「「「「「「…………」」」」」」」
二人のやり取りを黙って見つめるドロプウォート達。
(彼はいったいラミィの「何を知っている」と言うのですの……実は何も知らず「踊らされているダケ」など言う事は……)
疑惑は増え、深まるばかりであったが、いくら訝しんでも答えが明らかになる訳でもなく、そんな中で女王フルールが先陣切って、
「してハクや、ヌシは此の者らを、次は何処へ導こうつもりかえ?」
するとハクサンは、
「次はね~パンパカパァ~~~ン! 発表しまぁす!」
勿体を付けるようにラディッシュ達を見回した上で、
「次の国は『カルニヴァ』でぇ~すぅ!」
この世界の知識に乏しいラディッシュにとっては、どの国でも同じような物であったが、フルールは納得であったのか妖艶な笑みを浮かべ、
「カルニヴァを先に選ぶとはぁ、ヌシにも「人並みの良識」と言うモノがあったとはのぉ」
「酷いなぁ~ぼくぁいつだって良識人さぁ♪」
「「「「「「「…………」」」」」」」
ドロプウォート達の物言いたげなジト目を尻目に、
「あんな「きな臭い国(アルブル国)」なんて行かずに済むなら、ぼくぅだってぇそぅしたいさぁ~。けど、ラディの「聖武具」を手に入れるには避けて通れないからねぇ~。だから先にカルニヴァに行って「聖防具」を手に入れてチカラをつけるのさ~」
ヤレヤレ笑いに、素朴な疑問を抱いたラディッシュが、
「きな臭い国?」
首を傾げると、ドロプウォートが疎まし気に、
「エルブの北に位置するアルブル国は王が崩御され、唯一継承権を持った王子が玉座に就いたのですが……」
言葉尻を濁すと、ニプルが補足する様に、
「その王子ってのが十歳になったばかりでさ、実権は宰相の「アルブリソ」ってのが握ってるのさ。しかしコイツの評判が、すこぶる悪い。しかも「先王の死因は不明」って尾頭付きなのさ」
「何それ!? その人、真っ黒じゃないかぁ」
ラディッシュは顔をしかめ、
「そんな国にも行かないといけないのぉ?」
不安しかない眼差しをハクサンに向けると、彼は珍しくも、済まなそうに笑いながら、
「カルニヴァ国は「防具」を、アルブル国は「武器」を、天世の命で研究開発をしている国だから、「聖なる武具と防具」が必要になるラディが両国に向かうのは必須なんだよぉ」
苦笑すると、得心が行った様子を見せるターナップ。
「なるほどぉ、それで何が起きるか分からない「ヤバイ国」に入る前に、フルールで天法を身に付け、カルニヴァ国で防御を手に入れ、いざって訳か」
頷いて見せると、パストリスが話を聞いているだけで嫌そうに頭を抱え、
「うぅ~行きたくないでぇすぅ……」
四人が「アルブル行き」を憂いる中、元々ハクサンを快く思っていないリブロンが目の端をキラリと光らせ、
『ですがカルニヴァ国も「今は一枚岩ではない」と聞いておりますが?』
「「「「「!?」」」」」
初耳に、ギョッとするラディッシュ達。
ハクサンに、問い詰める様な眼差しを一斉に向けると、
「ま、あぁ、確かにぃ。でも「問題の無い国」なんてぇ、」
奥歯に物が挟まった物言いを始め、すかさずリブロンは、
「現王と、その弟君(おとうとぎみ)との確執が、近ごろとみに、顕著になって来ていると、私どもの手元に情報として集まって来ておりますが?」
追及の一手。
全ては、ラディッシュの為。
ラディッシュの憂いとなる物を一つでも取り除けるのなら、「百人の天世人」すら敵と見なす、恋する乙女は無敵なのである。
彼女の揺るぎなき視線に、ハクサンは「からかいは火に油」と判断し、
「あははは……流石はフルール国、大した情報収集能力だよぉ」
素直に脱帽し、恋を知った「乙女の強さ」に閉口したが、
「だからと言って」
不敵にニヤリと笑い返し、
「優先順位も、カルニヴァに向かう事も、何も変わらない。違うかい、リブロンちゃん♪」
「ぐっ……」
ぐうの音しか出ないリブロン。
理由はどうであれ、ハクサンの言う通りにしなければ、結果的にラディッシュは地世のチカラの浸食を受け、苦しむ事になってしまうのだから。
揚げ足を取られた形になったリブロンは、
(平常心、ヘイジョウシン、へいじょうしん!)
平静を装った無表情顔に、そこはかとない悔しさを滲ませ、内なるハクサンに対する敵視を強め、そんな彼女にラディッシュ達が苦笑する中、当のハクサンは、
「と、言う訳でぇ、準備ができ次第、カルニヴァ国に出発だからねぇ♪」
見せつける様な「勝ち誇った笑顔」で、旅立ちの宣言をした。
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