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第二章

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 編集者リブロンの先導で仕事部屋へ向かうラディッシュ達――

『こちらが、陛下の執務室です』

 リブロンに示された扉は、以外にもシンプル。
 派手な彫刻が彫り込まれている訳でも、煌びやかに飾り立てられている訳でもない扉を開け、執務室を抜けた先は彼女の私室。
 華美な彫像や絵画なども無い、良く言えば機能的にまとめられた部屋であり、置かれた家具や小物などが女性の部屋を思わせるに留め、一般的に想像される「豪奢な女帝の部屋」とはかけ離れた物であり、エルブ国の高級貴族の贅沢三昧を目にしていたドロプウォートにとって、好感の持てる部屋でもあった。

 仕事部屋はまるで隠すが如く、私室の奥の更に扉の先。

 開けると、そこは窓のない十畳ほどの部屋に机が三つ。
 天板にそれぞれ●眼鏡、■角眼鏡、▼角眼鏡が筆などの道具と共に置かれ、壁の棚には資料であろうか、本がギッシリと詰まっていた。
 神(作家)が創造(執筆)する聖域(作業部屋)に足を踏み入れ、

(((…………)))

 感動のあまり言葉が出ない信者(ドロプウォート、ニプルウォート、パストリス)たち。
 そんな中、ふと疑問を感じたラディッシュが、
「机が三つあると言う事は、作業を手伝ってくれている人がいるんですよね?」
 誰か他にも居るのかと思い室内を見回してみたが、更なる扉は見当たらず、
(お休み? 休憩中?)
 すると編集者モードのリブロンが、眼鏡の端をクイッと上げて毅然と、

「居りません」
「「「「「へ?」」」」」

 そして「お抱え作家の偉業」を讃えるが如く、
「全てが「先生お一人」の手による作品なのでぇす!」
「え!?」
 驚いたラディッシュは、
「だ、だって、女王様って「スゴイ人気作家さん」なんですよねぇ?!」
 女子三人が大きく頷き、ターナップも、
「っスよねぇ?! 話を作って絵もかいて、それを三人分なんて到底無理な話なんじゃないっスか?!」
 女子三人も再び激しく頷いたが、

(((((もしかして!)))))

 とある考えに思い至るラディッシュ達。

(((((いつも気怠そうなのは(執筆活動が)忙しいから……?)))))

 それは事実であった。

 女王、人気作家、人気絵師(同人漫画家)×2 四つの顔を持つ彼女は常にスケジュール(※主に締め切り)に追われ、疲労と眠気に襲われている姿が、玉座の彼女を妖艶に見せていたのであった。
「ど……どうして人を雇わないんですか……?」
 ラディッシュの素朴な疑問に対しリブロンは、
「百歩譲って「マツムシソウ先生」としての執筆は「良い」として……」
 ため息交じりに眼鏡を外して副官の顔に戻り、■眼鏡と▼眼鏡がそれぞれ置かれた机から、おもむろに漫画原稿を取り上げるなり、

『この様な物を描いていると(世間に)知られる訳にいきますかぁ!』

 キレ気味にラディッシュとターナップに見せつけ、

『『こっ、これは!!!』』

 衝撃を受ける男子二人。
 そこに描かれていたのは、それぞれ「男子×男子」と「女子×女子」が禁断の部分だけ■と▼で隠され絡み合う姿。
 リブロンは人に言えない心労を重ねて来たのか、苦悩に満ちた表情で、
「フルール国の圧倒的先導者として! 指導者として! 君臨する陛下が「この様な物を描いている」などと知られる訳にはいかないのでぇす!」
 訴え、
 
「ですが……」

 次第に視線を落とし、
「コレは陛下の「畢生(ひっせい)の息抜き」……創作活動無くして陛下は職務を全う出来ず……」
 困惑顔を見せると、フルールがそんな彼女の頭を優しく撫でながら、
「気苦労ばかりかけて、すまぬのぉ」
 女王フルールを、身を粉にして支えるリブロンと、それに応え「良き女王」であろうと奮闘する女王フルール。
 するとラディッシュとターナップが思わず、
「「とっ、尊い……」」
 崇高なモノを崇める眼差しで呟くと、どちら(ラディッシュとターナップ)が「何に対して思ったか」は個人の判断に委ねるとして、新たな信者誕生を悟った女子三人は、

「「「分か(りますか・るか・でぇすぅ)!?」」」

 色めき立った。
 しかし、

「「「…………」」」

 互いに物言いたげな顔を見合わせ、先陣切ってドロプウォートが不愉快そうに、
「何を喜んでおりますのぉ、ニプル。二人が「尊い」と言ったのは、」
 彼女たちの友情(※ドロプウォート目線でGL寄り)であると言おうとすると、すかさずニプルが、
「ソッチこそ、何を言ってのさぁ。二人が「尊い」と言ったのは、」
 BL系同人誌原稿であると言おうとしたが、そこへ「未発表の漫画原稿」二種を目にして恍惚とした表情のパストリスが、
「何をモメているでぇす、二人ともぉ~。双方、素晴らしきゲイジュツでぇすぅ~」
 それぞれの思いが交錯する中、すっかり蚊帳の外のハクサン。

「あ、あのぉ~キミ達ぃ、そろそろ本題に戻らないかぁい?」

 珍しくまともな意見を言うと、

『『『『『『『…………』』』』』』』

 無粋とばかりに、冷たい視線を向けるラディッシュ達に、

「ちょ、それヒドくなぁい! ぼくぉ扱いヒドくなぁい!! 今回は、まともな事を言ったつもりだよぉおぉ!!!」

 憤慨。
 彼の鬱陶しさは一先ず横に置き、リブロンはため息を吐きつつ、
「まぁ、ハクサン様には一応の感謝はしているのですよ。かつて、女王と言う御立場に苦しみ、行き詰っていた陛下に「心の拠り所(同人誌制作)を教えて下さった事」に関しては……」
 遠回しに「それ以外は感謝していない」と言いたげであったが、

「「「「「!」」」」」

 驚くドロプウォート達。
 中世におけるフルール国「同人誌発祥の地」の理由が、ハクサン由来であるのを知り。
 しかし、その羨望が交じった驚きは「相手がハクサン」と言う事で、微々たるものに留まり、リブロンも迷惑そうな顔色で、
「それでハクサン様は、結局、この度は、どぅして、何故にフルールにいらしたのですか」
「もぅ、そんな顔すると美人が台無しだよぉ♪」
「ッ!」
 軽口にイラッとするリブロンであったが、ハクサンは気にする風もなく、
「それはねぇ~」
 勿体を付けた一考をすると、二の句を告げるフリをして、

「「「「「「!?」」」」」」

 一瞬のうちに女王フルールの傍らに駆け寄り、ラディッシュ達が行動を起こす間も無く彼女に何かを耳打ち。

「「キサマァ!」」

 ニプルとリブロンが掴み掛ろうとしたが、

「おおぉっっとぉ♪」

 彼は、おどけた様子でフルールの下から離れ、
「ぼくぁ百人の天世人だよぉ。「キサマ呼ばわり」とは酷いなぁ♪」
 ケラケラ笑ったが、驚いた表情で固まるフルールを目にしたリブロンは血相を変え、

「陛下に何を言ったァ!」

 するとハクサンはヤレヤレ口調で、
「ラディッシュ君達にぃ、フルールで開発された「最先端の天法」を教えて欲しいんだ♪ あぁ、それと「ぼくぅが言った」って事は他言無用だよぉ♪」

『何を馬鹿なァ!』

 リブロンは食って掛かり、
「我が国の天法は天世様方より「探求と開発」を一任された国家機密ッ! それを易々と、しかも他国の民に提供するなどォ!」
 怒り任せに、何かしらの天法を発動しようと身構えたが、

『構わぬ!』

 フルールが珍しく声を荒げ、
「へ……陛下ぁ?」
 リブロンが動揺を隠せない中、フルールはいつもと変わらぬ妖艶な笑みと物言いで、
「修行を終えるには雪解けまでかかろぅて……リブロンや、勇者殿らの仮住まいの手配、頼んだぞよぉ」
「……ハ」
 受諾するも、その眼には戸惑いが映っていた。
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