ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第二章

2-34

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 編集者リブロンの先導で仕事部屋へ向かうラディッシュ達――

『こちらが、陛下の執務室です』

 リブロンに示された扉は、以外にもシンプル。
 派手な彫刻が彫り込まれている訳でも、煌びやかに飾り立てられている訳でもない扉を開け、執務室を抜けた先は彼女の私室。
 華美な彫像や絵画なども無い、良く言えば機能的にまとめられた部屋であり、置かれた家具や小物などが女性の部屋を思わせるに留め、一般的に想像される「豪奢な女帝の部屋」とはかけ離れた物であり、エルブ国の高級貴族の贅沢三昧を目にしていたドロプウォートにとって、好感の持てる部屋でもあった。

 仕事部屋はまるで隠すが如く、私室の奥の更に扉の先。

 開けると、そこは窓のない十畳ほどの部屋に机が三つ。
 天板にそれぞれ●眼鏡、■角眼鏡、▼角眼鏡が筆などの道具と共に置かれ、壁の棚には資料であろうか、本がギッシリと詰まっていた。
 神(作家)が創造(執筆)する聖域(作業部屋)に足を踏み入れ、

(((…………)))

 感動のあまり言葉が出ない信者(ドロプウォート、ニプルウォート、パストリス)たち。
 そんな中、ふと疑問を感じたラディッシュが、
「机が三つあると言う事は、作業を手伝ってくれている人がいるんですよね?」
 誰か他にも居るのかと思い室内を見回してみたが、更なる扉は見当たらず、
(お休み? 休憩中?)
 すると編集者モードのリブロンが、眼鏡の端をクイッと上げて毅然と、

「居りません」
「「「「「へ?」」」」」

 そして「お抱え作家の偉業」を讃えるが如く、
「全てが「先生お一人」の手による作品なのでぇす!」
「え!?」
 驚いたラディッシュは、
「だ、だって、女王様って「スゴイ人気作家さん」なんですよねぇ?!」
 女子三人が大きく頷き、ターナップも、
「っスよねぇ?! 話を作って絵もかいて、それを三人分なんて到底無理な話なんじゃないっスか?!」
 女子三人も再び激しく頷いたが、

(((((もしかして!)))))

 とある考えに思い至るラディッシュ達。

(((((いつも気怠そうなのは(執筆活動が)忙しいから……?)))))

 それは事実であった。

 女王、人気作家、人気絵師(同人漫画家)×2 四つの顔を持つ彼女は常にスケジュール(※主に締め切り)に追われ、疲労と眠気に襲われている姿が、玉座の彼女を妖艶に見せていたのであった。
「ど……どうして人を雇わないんですか……?」
 ラディッシュの素朴な疑問に対しリブロンは、
「百歩譲って「マツムシソウ先生」としての執筆は「良い」として……」
 ため息交じりに眼鏡を外して副官の顔に戻り、■眼鏡と▼眼鏡がそれぞれ置かれた机から、おもむろに漫画原稿を取り上げるなり、

『この様な物を描いていると(世間に)知られる訳にいきますかぁ!』

 キレ気味にラディッシュとターナップに見せつけ、

『『こっ、これは!!!』』

 衝撃を受ける男子二人。
 そこに描かれていたのは、それぞれ「男子×男子」と「女子×女子」が禁断の部分だけ■と▼で隠され絡み合う姿。
 リブロンは人に言えない心労を重ねて来たのか、苦悩に満ちた表情で、
「フルール国の圧倒的先導者として! 指導者として! 君臨する陛下が「この様な物を描いている」などと知られる訳にはいかないのでぇす!」
 訴え、
 
「ですが……」

 次第に視線を落とし、
「コレは陛下の「畢生(ひっせい)の息抜き」……創作活動無くして陛下は職務を全う出来ず……」
 困惑顔を見せると、フルールがそんな彼女の頭を優しく撫でながら、
「気苦労ばかりかけて、すまぬのぉ」
 女王フルールを、身を粉にして支えるリブロンと、それに応え「良き女王」であろうと奮闘する女王フルール。
 するとラディッシュとターナップが思わず、
「「とっ、尊い……」」
 崇高なモノを崇める眼差しで呟くと、どちら(ラディッシュとターナップ)が「何に対して思ったか」は個人の判断に委ねるとして、新たな信者誕生を悟った女子三人は、

「「「分か(りますか・るか・でぇすぅ)!?」」」

 色めき立った。
 しかし、

「「「…………」」」

 互いに物言いたげな顔を見合わせ、先陣切ってドロプウォートが不愉快そうに、
「何を喜んでおりますのぉ、ニプル。二人が「尊い」と言ったのは、」
 彼女たちの友情(※ドロプウォート目線でGL寄り)であると言おうとすると、すかさずニプルが、
「ソッチこそ、何を言ってのさぁ。二人が「尊い」と言ったのは、」
 BL系同人誌原稿であると言おうとしたが、そこへ「未発表の漫画原稿」二種を目にして恍惚とした表情のパストリスが、
「何をモメているでぇす、二人ともぉ~。双方、素晴らしきゲイジュツでぇすぅ~」
 それぞれの思いが交錯する中、すっかり蚊帳の外のハクサン。

「あ、あのぉ~キミ達ぃ、そろそろ本題に戻らないかぁい?」

 珍しくまともな意見を言うと、

『『『『『『『…………』』』』』』』

 無粋とばかりに、冷たい視線を向けるラディッシュ達に、

「ちょ、それヒドくなぁい! ぼくぉ扱いヒドくなぁい!! 今回は、まともな事を言ったつもりだよぉおぉ!!!」

 憤慨。
 彼の鬱陶しさは一先ず横に置き、リブロンはため息を吐きつつ、
「まぁ、ハクサン様には一応の感謝はしているのですよ。かつて、女王と言う御立場に苦しみ、行き詰っていた陛下に「心の拠り所(同人誌制作)を教えて下さった事」に関しては……」
 遠回しに「それ以外は感謝していない」と言いたげであったが、

「「「「「!」」」」」

 驚くドロプウォート達。
 中世におけるフルール国「同人誌発祥の地」の理由が、ハクサン由来であるのを知り。
 しかし、その羨望が交じった驚きは「相手がハクサン」と言う事で、微々たるものに留まり、リブロンも迷惑そうな顔色で、
「それでハクサン様は、結局、この度は、どぅして、何故にフルールにいらしたのですか」
「もぅ、そんな顔すると美人が台無しだよぉ♪」
「ッ!」
 軽口にイラッとするリブロンであったが、ハクサンは気にする風もなく、
「それはねぇ~」
 勿体を付けた一考をすると、二の句を告げるフリをして、

「「「「「「!?」」」」」」

 一瞬のうちに女王フルールの傍らに駆け寄り、ラディッシュ達が行動を起こす間も無く彼女に何かを耳打ち。

「「キサマァ!」」

 ニプルとリブロンが掴み掛ろうとしたが、

「おおぉっっとぉ♪」

 彼は、おどけた様子でフルールの下から離れ、
「ぼくぁ百人の天世人だよぉ。「キサマ呼ばわり」とは酷いなぁ♪」
 ケラケラ笑ったが、驚いた表情で固まるフルールを目にしたリブロンは血相を変え、

「陛下に何を言ったァ!」

 するとハクサンはヤレヤレ口調で、
「ラディッシュ君達にぃ、フルールで開発された「最先端の天法」を教えて欲しいんだ♪ あぁ、それと「ぼくぅが言った」って事は他言無用だよぉ♪」

『何を馬鹿なァ!』

 リブロンは食って掛かり、
「我が国の天法は天世様方より「探求と開発」を一任された国家機密ッ! それを易々と、しかも他国の民に提供するなどォ!」
 怒り任せに、何かしらの天法を発動しようと身構えたが、

『構わぬ!』

 フルールが珍しく声を荒げ、
「へ……陛下ぁ?」
 リブロンが動揺を隠せない中、フルールはいつもと変わらぬ妖艶な笑みと物言いで、
「修行を終えるには雪解けまでかかろぅて……リブロンや、勇者殿らの仮住まいの手配、頼んだぞよぉ」
「……ハ」
 受諾するも、その眼には戸惑いが映っていた。
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