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第二章

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 今日も森の中を進む六人――
 
 いつもと変わらずドロプウォートを先頭に、後に続くラディッシュ達であったが、一つ変化を上げるとすれば、体調を取り戻したハクサンが、自らの足で歩いている事であろうか。
 その「彼は」と言うと、

「はぁ~女子成分が足りないよぉおぉ~」

 五人の後ろをボヤキながらついて歩き、
(((((…………)))))
 イラッしながらも「話し相手になると余計に面倒」と思い、五人は無視して歩き続けていた。
 相手をするだけ、無駄に疲れるから。
 
 すると、急に大人しくなるハクサン。
「…………」
 前を歩く女子三人の、絶えず動き続ける尻に目を留め、
 パストリス:
(うんうん。安心安定の「合法ロリのお尻」は、キャワウィ(可愛い)いねぇ~)
 ドロプウォート:
(立派で悪くはないんだけど……お尻にも色気の無さが出ちゃってるのが残念だよねぇ~)
 ニプル:
(うん……残念……ただただ残念……ホント残念だ……)
 鍛え上げられた尻に、うつむき加減でため息を吐いた途端、

『狩りのエサにしてやろうかぁ?』

 殺意を感じる声と共に、首筋に当てられる怪しく光る刃。
 その刃の向こうには、暗殺者の様な冷徹な眼を向けるニプルが。
「あは、あは、あはははは」
 笑って誤魔化すハクサン。
 追い詰められた状況下でありながら、それでもなおイケメンスマイルを見せ、
「ぼ、ぼくぅの思ってる事が分かっちゃうなんてぇ、もしかしてぇぼくぅ事が気になるぅ?」
 そんな彼を、ニプルはキレるでもなく、憐れな者を見る眼差しで、無言で、鼻先でフッと小さく嘲笑った。

『それはヤメテぇ! それはマジで凹むからぁ!』

 半泣きで訴えるハクサンに、ラディッシュは苦笑を浮かべながら、
「思ってる事が全部口から出ちゃってたよぉ」
「へ?」
 気付けば、憤怒の形相したターナップに護られる様に、羞恥の赤面顔でお尻を抑えるパストリスと、赤鬼の様な顔して自身の尻を抑え睨むドロプウォートの姿が。
「あは、あは、あははは、ぼくぅって正直者だからぁ♪」
 笑って誤魔化したが、怒れる女子からの鉄拳制裁は不可避。
 そんな中、森の切れ間の向こうに、

『あっ!』

 体よく砦を見つけるハクサン。
「アレはフルール国の関所だよぉ!」
 あからさまに話を逸らすと、屈強な女騎士たちが警備する関所に向かって駆け出し、
「ホラぁみんなぁ早くぅ! ぼくぅに付いておいでよぉ! まごまごしてると冬が来ちゃうよぉ!」
 その露骨な「話題逸らし」には、怒り心頭であったターナップ達も毒気を抜かれ、
「ったく調子のイイ天世様っスねぇ」
 ヤレヤレ笑いを浮かべ合い、彼の後に続いた。

 しかし、
「…………」
 一人、浮かない顔はニプル。
 帰国であるにもかかわらず。

 その理由は、言わずもがな。

 母国で彼女の存在は、快く思われていなかったから。

 似た扱いを、自国で長く受け続けて来た経験を持つドロプウォートは、彼女の抱えた苦悩が痛いほどよく分かったが、
(それでも私には「お父様とお母様」がおりました……)
 自身以上の辛酸を嘗めて来たであろう彼女を思い、
(私たちが「その分の支え」になって差し上げねばいけませんですわぁ!)
 思いを新たにしつつも、呆れ顔で何かを見つめ、
(まぁ、そのぉ、彼(ハクサン)を除いて……)
 視線の先、久々となる「新たな女子たちとの出会い」に、有頂天の満面の笑顔で「門兵女子」に話しかける、デレ顔したハクサンの姿が。
 そしてフルール国と言う、新たな土地に足を踏み入れた六人は、

『『『『『『どうして?』』』』』』

 投獄された。

 現実を受け止めきれないラディッシュ。
「なっ、何か懐かしいねぇこの感じぃ♪」
 引きつり笑顔に、
「言ってる場合ですのぉおぉ?!」
 思わず苦笑いでツッコム、ドロプウォート。
 聖職者のターナップにとっても「罪人扱いで投獄」など許し難い扱われ方であり、原因を作ったと思われるハクサンにヤンキーばりのイキ顔して、
「やいテメェ、彼女たちに何を言いやがった!」
 食って掛かると、ハクサンは心外そうに両頬を不機嫌でぷっくり膨らませ、

「嫌だなぁ! ぼくぁ自己紹介しただけだけどぉ。ぼくぁ「百人の天世人のハクサンだよ」ってぇ!」

 憤慨すると、牢番の女性兵士が高笑いをしながら、

「天世様を語る「不届き者」は数々いるが、この国で「ハクサン」を語るとは、阿呆以外の何者でもないなぁ♪」

 馬鹿にした物言いに、エルブの高位の四大貴族であるドロプウォートは悔し気に、

『貴方は「この国の女王」に、いったい何をしましたのぉおぉぉお!』

 ハクサンに詰め寄りながら、
「ニプル! これはいったいどう言う事ですのぉ! 話を秘匿にしておく場合ですの!」
 するとニプルはバツが悪そうに、
「ほっ、本当のこと言うと、ウチも、その……「ハクサンのせいで陛下が不老になった」としか知らなくて……」
 その場の勢いで「知ったかぶりをした」のを暴露。
 会話が聞こえた牢番は、
「ニプルだぁ?」
 不愉快そうな顔してニプルを見つめ、
「あぁ~その頭(髪の色)は、あの「鼻ツマミ」の真似までしてんのかぁい? 馬鹿な奴等だよ。心象は最悪、こりゃ重刑確定かねぇ~♪」
「…………」
 視線を逸らすニプル。
 
 努めて無表情を貫いてはいたが、得も言われぬ「悔しさ」も滲ませていた。
 
 付き合いも長くなり、彼女の口には出さぬ「悔しさ」を感じ取るラディッシュ達。
 パストリスは、そんな彼女に優しく、そっと寄り添い、過去の自身の姿とダブらせたドロプウォートは怒り心頭、

『私達の仲間を愚弄する事は、エルブの四大が一子! このドロプウォートが許しませんでぇすわァアァ!』

 声高らかに宣言。
 事の真偽は別として、フルール国民にとって、エルブ国は目の上のたん瘤的存在。
 しかも、その国を統括する四大貴族となれば怒りは更に増し、

『エルブの四大だとォオォォッ!』

 武器を手に、鉄格子越しに一触即発。
 ラディッシュは、毎度となった「荒事の予感」に、
(はぁ~入国初日で「お尋ね者」かぁ~)
 嘆きをこぼしたが、そんな彼を尻目に、

『フルールだか何だか知らねぇが上等だぁゴラァ!』

 やる気満々、聖職者とは思えない、ヤンキー顔を見せるターナップ。

 そんなさ中、ハクサンがいきり立つ牢番の女性に、

『そんな怖い顔をしていると「美人が台無し」だよぉ♪』

 イケメンスマイルを向け、
「びっ、美人……って、調子のイイ事を言ってんなぁ!」
 彼女は満更でもない顔で怒った。
 
 ラディッシュのお陰(せい)で「イケメン耐性」が出来ているドロプウォート、パストリス、ニプルはともかく、男性は家で家事と言うお国柄に加え、男性と接する機会が過度に少ない牢番と言う職業がら、男性耐性が皆無の彼女には、ハクサン程度の「普通レベルのイケメンスマイル」でも効果てきめん。
 ハクサンは「牢番女子の戦意が萎えた」と判断するや、すかさず彼女に小声で何かを耳打ち。
 言われた彼女は一瞬戸惑いを見せたが、
「そっ、それを伝えれば良いのだな!」
「勿論♪ 約束しますよぉ♪」
 ウインクすると、彼女は慌てた様子で入り口を警備する女性兵士に何かを伝え、警備兵も慌てた様子で走って行った。
 その「ただならぬ背中」に、
「ねぇ、ハクさん……」
「何です、ラディ?」
「何を言って、何を、約束をしたの?」
 首を傾げたが、ハクサンは、
 
「今度、彼女たちと「お茶をご一緒する約束」をしたのですが……何を「理由に」かは、ナイショです♪」
 
 ニコリと笑いながら、
「ですがぁあと少しでぼくぅ達は、以前に「ぼくぉ話した通り」に、女王陛下の下へ直通で送られるでしょう」
「誤解が解けるんだねぇ♪」
「やる時ぁ、やるじゃねぇかハクサンよぉ♪」
 男子二人が手放しで喜ぶ一方、
「「「…………」」」
 一抹の不安を残す女子たち。
 ハクサンと女帝フルールの間に、何があったか不明な故に。
 
 程なく、青空の下を高速で駆け抜ける荷馬車に揺られ、風を感じるラディッシュ達。
 ハクサンは風を感じながら自慢げに、
「どぅだぁい♪ ぼくぉ言った通り、女王の下へ直通で運んでもらえただろぅ?」
 ターナップも風を感じながら満面の笑顔で、
「あぁ、そぅだなぁ♪」
 引きつり気味に、

『鉄格子付きの檻の中だけどなァ!』

 半泣きでハクサンの胸倉を掴み上げた。

 「国賓」ではなく「重罪人」として首都へ緊急移送されるラディッシュ達。
 女子たちの不安は的中。
 ラディッシュは雲一つなく、スッキリと晴れ渡った秋空を見上げ、
(僕、どぅなっちゃうんだろ……)
 嘆きを呟いた。
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