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第二章
2-26
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大騒ぎの一夜が明け――
最初の村を目指して街道を行くラディッシュ、ドロプウォート、パストリス、ターナップにニプル。
爽やかな秋晴れの空の下、五人の表情は何故か一様に、曇り顔。
「「「「「…………」」」」」
その理由は、ターナップの背に。
そこには、干物のようにやせ細ったハクサンの姿が。
衝動にかられ、あえて浄化しなかったラディッシュの料理を口にしたハクサンは、結局一晩中、出る物が無くなるまで腹を下し続け、その結果が、今の有り様。
そこそこのイケメンの、見る影も無い憐れな姿に、自業自得とは言え、
「ハクさぁん、これからは、ちゃんと浄化してね」
ラディッシュが気遣うと、
「うん……気を付ける……」
弱弱しく「普通レベルより落ちたイケメンスマイル」を見せながら、
「ただ……」
「ただ?」
「成し遂げた「あの達成感」は、忘れられないよぉ……」
昇天しそうな満足げな笑みに、
「あは、あは、あはははは……」
笑うしかないラディッシュと、
((((またやる気じゃ(ないですわよねぇ・ないでぇすよねぇ・ねぇだろぅなぁ・ないよねぇ)……))))
不安を残すドロプウォート達。
幸運であったのは「大きな問題児(ハクサン)」を抱えながらも、今のところ汚染獣に出くわさない事であろうか。
その事に関し疑問に思ったドロプウォートが、
「そぅ言えば、村を出てから一度も汚染獣に遭遇しませんでぇすわねぇ?」
ラミウムとの旅の折り、四六時中、汚染獣に追い回されていた記憶のある彼女が首を傾げると、ニプルが意外そうに、
「はぁ? 汚染獣なんて、そもそもそぅそぅ出くわすモンじゃ無いだろぅ? それともエルブは出現率が高いのか?」
するとパストリスも、
「そんなに出ないでぇすよぉ。コッチから「余計な事を」しない限りはぁ」
(うっ……)
何気ない一言がドロプウォートの胸に刺さる。
思い当たる節が、口に出せないほど、数々あるだけに。
「そ、そう、でぇす、わよねぇ♪ 確かに、」
調子を合わせ笑う彼女の姿に、内なる「苦悩の訳」を知るラディッシュが、
(気マズイだろぅなぁ~)
自ら撒いた地雷を、自ら踏み抜いた彼女に同情していると、ターナップの背から今にも消えそうな声で、
「さぁ、先の、地世の導師との戦いで……だいぶ倒されたのもあるけどね……」
残念イケメンの理に適った正論に、
(((まともな事も言うんだ……)))
ある意味で感心するターナップ、パストリス、ニプルの三人と、
「「…………」」
((それだけじゃないんだけど……))
心の中で苦笑するラディッシュとドロプウォートであった。
そんな時、目指す村の方角から、未だ個人が識別できる距離ではないにもかかわらず、
『ハアさぁ~~~ん♪ ハアさぁ~~~~~~ん♪』
女性の呼び声が。
(((((ハアさぁん?)))))
徐々に近づいて来るのは、純情可憐を絵に描いた様な美少女。
キラキラとした「穢れを知らぬ笑顔」で手を振り駆けて来ていて、「誰の事だ」と顔を見合わせるラディッシュ達であったが、思い当たる人物など一人しかおらず、
(((((コイツかァ!)))))
ターナップの背に集まる視線。
その視線は「あんな娘まで毒牙に」と批判的な物であったが、当の本人は体調不良の青い顔を、なお一層青く変え、
「逃げて……」
「「「「「へ?」」」」」
「いいから早く逃げてよおぉおぉぉおぉ!」
ターナップの肩を必死の形相で、訴える様にパシパシ叩き、
「叩くな叩くなぁ」
ヤレヤレ笑いを浮かべるターナップ。
しかし、
(!)
ここぞとばかり悪い顔してニヤリと笑い、
「何か後ろ暗い事でもあるのかぁ? 何ならココに置いてって、」
『そう言うイヤミはイイからぁ早くぅうぅぅ!』
半泣きで訴えていると、走って来る若い女性の数が二人、三人と増えていき、少々ムッとするターナップ。
「おいテメェ、いい加減にしろよぉ」
ひがみを多分に含んだ苛立ちをぶつける間にも、笑顔で駆けて来る女性の数は雪だるま式に増えていき、
「て、てめぇ……いったい何人に……」
やがて近隣の村々、町々から「全ての若い女性が集まった」と思われるほどに増え、満面の笑顔のまま駆け迫る「無数の女性」たちに、
「「「「「…………」」」」」
流石に異様を覚え始めるターナップ達。
そんな中、ラディッシュが思わず息を呑み、
「こ、これって逃げた方がイイんじゃ……」
小さくこぼした途端、
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
逃走の気配を敏感に察した「全力疾走の乙女たち」は、満面の笑顔のまま各々懐から包丁を手に、
『『『『『『『『『『逃げんじゃねぇぞぉテメェらアァアァア!』』』』』』』』』』
般若の様な形相に豹変。
『『『『『ッ!!!』』』』』
一斉に逃げ出すラディッシュ達を、
「「「「「「「「「「アタシの純潔返しやがれぇゴルァアァ!」」」」」」」」」」
死に物狂いで追い掛ける。
ターナップは全力逃走しながらが、
「コイツを「捨てて行きゃイイだけ」の話じゃねぇのかよぉおぉぉ!」
背中に視線を送ると、青い顔した残念イケメンは必死の大泣きで、
『お願いマジでヤメテぇえぇ!』
すると血相を変えて共に全力逃走中のラディッシュが、助け舟と言う訳でもないのだが、
「でもあの人達ぃ! さっき「テメェら」って言ったよ「ら」ってぇえぇぇぇえ!」
既に一蓮托生と見られているのを必死に訴えると、女子三人も、
「問答は後ですわぁあぁぁ!」
「とにかく今は逃げ切らなねぇとさぁあぁ!」
「明日のご飯が食べられなくなるでぇすぅうぅぅ!」
五人と一人は「迫る命の危機」から懸命に逃げに逃げた。
最初の村を目指して街道を行くラディッシュ、ドロプウォート、パストリス、ターナップにニプル。
爽やかな秋晴れの空の下、五人の表情は何故か一様に、曇り顔。
「「「「「…………」」」」」
その理由は、ターナップの背に。
そこには、干物のようにやせ細ったハクサンの姿が。
衝動にかられ、あえて浄化しなかったラディッシュの料理を口にしたハクサンは、結局一晩中、出る物が無くなるまで腹を下し続け、その結果が、今の有り様。
そこそこのイケメンの、見る影も無い憐れな姿に、自業自得とは言え、
「ハクさぁん、これからは、ちゃんと浄化してね」
ラディッシュが気遣うと、
「うん……気を付ける……」
弱弱しく「普通レベルより落ちたイケメンスマイル」を見せながら、
「ただ……」
「ただ?」
「成し遂げた「あの達成感」は、忘れられないよぉ……」
昇天しそうな満足げな笑みに、
「あは、あは、あはははは……」
笑うしかないラディッシュと、
((((またやる気じゃ(ないですわよねぇ・ないでぇすよねぇ・ねぇだろぅなぁ・ないよねぇ)……))))
不安を残すドロプウォート達。
幸運であったのは「大きな問題児(ハクサン)」を抱えながらも、今のところ汚染獣に出くわさない事であろうか。
その事に関し疑問に思ったドロプウォートが、
「そぅ言えば、村を出てから一度も汚染獣に遭遇しませんでぇすわねぇ?」
ラミウムとの旅の折り、四六時中、汚染獣に追い回されていた記憶のある彼女が首を傾げると、ニプルが意外そうに、
「はぁ? 汚染獣なんて、そもそもそぅそぅ出くわすモンじゃ無いだろぅ? それともエルブは出現率が高いのか?」
するとパストリスも、
「そんなに出ないでぇすよぉ。コッチから「余計な事を」しない限りはぁ」
(うっ……)
何気ない一言がドロプウォートの胸に刺さる。
思い当たる節が、口に出せないほど、数々あるだけに。
「そ、そう、でぇす、わよねぇ♪ 確かに、」
調子を合わせ笑う彼女の姿に、内なる「苦悩の訳」を知るラディッシュが、
(気マズイだろぅなぁ~)
自ら撒いた地雷を、自ら踏み抜いた彼女に同情していると、ターナップの背から今にも消えそうな声で、
「さぁ、先の、地世の導師との戦いで……だいぶ倒されたのもあるけどね……」
残念イケメンの理に適った正論に、
(((まともな事も言うんだ……)))
ある意味で感心するターナップ、パストリス、ニプルの三人と、
「「…………」」
((それだけじゃないんだけど……))
心の中で苦笑するラディッシュとドロプウォートであった。
そんな時、目指す村の方角から、未だ個人が識別できる距離ではないにもかかわらず、
『ハアさぁ~~~ん♪ ハアさぁ~~~~~~ん♪』
女性の呼び声が。
(((((ハアさぁん?)))))
徐々に近づいて来るのは、純情可憐を絵に描いた様な美少女。
キラキラとした「穢れを知らぬ笑顔」で手を振り駆けて来ていて、「誰の事だ」と顔を見合わせるラディッシュ達であったが、思い当たる人物など一人しかおらず、
(((((コイツかァ!)))))
ターナップの背に集まる視線。
その視線は「あんな娘まで毒牙に」と批判的な物であったが、当の本人は体調不良の青い顔を、なお一層青く変え、
「逃げて……」
「「「「「へ?」」」」」
「いいから早く逃げてよおぉおぉぉおぉ!」
ターナップの肩を必死の形相で、訴える様にパシパシ叩き、
「叩くな叩くなぁ」
ヤレヤレ笑いを浮かべるターナップ。
しかし、
(!)
ここぞとばかり悪い顔してニヤリと笑い、
「何か後ろ暗い事でもあるのかぁ? 何ならココに置いてって、」
『そう言うイヤミはイイからぁ早くぅうぅぅ!』
半泣きで訴えていると、走って来る若い女性の数が二人、三人と増えていき、少々ムッとするターナップ。
「おいテメェ、いい加減にしろよぉ」
ひがみを多分に含んだ苛立ちをぶつける間にも、笑顔で駆けて来る女性の数は雪だるま式に増えていき、
「て、てめぇ……いったい何人に……」
やがて近隣の村々、町々から「全ての若い女性が集まった」と思われるほどに増え、満面の笑顔のまま駆け迫る「無数の女性」たちに、
「「「「「…………」」」」」
流石に異様を覚え始めるターナップ達。
そんな中、ラディッシュが思わず息を呑み、
「こ、これって逃げた方がイイんじゃ……」
小さくこぼした途端、
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
逃走の気配を敏感に察した「全力疾走の乙女たち」は、満面の笑顔のまま各々懐から包丁を手に、
『『『『『『『『『『逃げんじゃねぇぞぉテメェらアァアァア!』』』』』』』』』』
般若の様な形相に豹変。
『『『『『ッ!!!』』』』』
一斉に逃げ出すラディッシュ達を、
「「「「「「「「「「アタシの純潔返しやがれぇゴルァアァ!」」」」」」」」」」
死に物狂いで追い掛ける。
ターナップは全力逃走しながらが、
「コイツを「捨てて行きゃイイだけ」の話じゃねぇのかよぉおぉぉ!」
背中に視線を送ると、青い顔した残念イケメンは必死の大泣きで、
『お願いマジでヤメテぇえぇ!』
すると血相を変えて共に全力逃走中のラディッシュが、助け舟と言う訳でもないのだが、
「でもあの人達ぃ! さっき「テメェら」って言ったよ「ら」ってぇえぇぇぇえ!」
既に一蓮托生と見られているのを必死に訴えると、女子三人も、
「問答は後ですわぁあぁぁ!」
「とにかく今は逃げ切らなねぇとさぁあぁ!」
「明日のご飯が食べられなくなるでぇすぅうぅぅ!」
五人と一人は「迫る命の危機」から懸命に逃げに逃げた。
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