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第二章
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村の門から飛び出すドロプウォートとパストリス――
二人は、人狼、サイクロプス、黒狼との激戦を経た経験値からか臆することなく、凛然と立ち構え、その背後には、弓や武器代わりの農具を手にした「有志の村人たち」の姿。
するとドロプウォートが、悠然と迫るミノタウロス達を気圧す気迫を以て、
『心が退いては、その時点で負けですわぁ! 生き抜く為に戦いましょうォオォ!』
村人たちを鼓舞し、緊張を否めない彼らも、自らの不安と恐怖を払い除けようと、
『『『『『『『『『『おぉーーーーーーっ!』』』』』』』』』』
気合の籠もった喊声を上げた。
微力ながらも「村を守りたい」と言う、彼らの想いの詰まった声を背に、
「行きますわよォ、パスト!」
「ハイでぇす、ドロプゥ!」
二人が「命を預かる責任の重さ」を痛感しながら先陣切って駆け出そうとすると、
『チョット待ってくれぇーーーーーー!』
ターナップの呼び声が。
「やはり来ましたわね♪」
「来ましたでぇすね♪」
笑顔で足を止め、振り返った二人は、
「「!」」
驚いた。
武器を手にしたターナップに続く、フル装備の「見覚えのある元騎士」たちの姿に。
「あの方々は……」
(信じて大丈夫、ですの……)
戸惑いを隠せないドロプウォート。
しかしパストリスが何の憂いを感じさせない笑顔で、
「心強いでぇすね♪」
(え?)
彼らが「信頼するに足るか」など、炎を宿した目を見れば一目瞭然であり、愚問であり、ドロプウォートは短絡的に疑いを持った自身を恥じ、自嘲気味に小さく笑うと、
「ですわねぇ♪」
憂いの無い笑顔で返し、
「では改めて行きますわよ、パストォ!」
「ハイでぇす、ドロプゥ!」
二人は強力な助っ人を得て、些か軽くなった心持ちで、迫るミノタウロス達に向かって駆け出して行った。
一方のラディッシュは、明かりを消した自室の隅。
主を失った椅子車に小さくなってしがみつき、カタカタと震えながら、
「無力な僕が行ったって意味がないんだ……意味がないんだ……意味がないんだ……意味がないんだ……」
呪文のように何度も口ずさみ、黒狼パトリニアとの死闘で命を落として逝った騎士たちの姿を思い出していた。
やがて地平線から陽が差し始め――
危険を知らせる半鐘は鳴り止み、村は、一見いつもと変わらぬ静かな朝を迎えた。
物音一つしなくなった窓の外から差し込む陽の光に、
(朝になった……)
生を実感するラディッシュ。
生きて次の日を迎えられた事に安堵しつつ、恐る恐る立ち上がり、窓から外を窺う。
「…………」
狂乱の一夜であったが故に、過分に感じる静けさ。
(……まるで、村から人が消えたみたいだ……)
自ら「恐怖を掻き立てる想像」をしてしまい、ブルリと身を震わせ、
(だ……誰か……)
人の温もりを求め、朝靄が立ち込める中を、死人の様に彷徨い歩いた。
異常とも思える静けさに包まれた村は、人の気配が感じられず、まるで本当に村人たちが消えてしまったかのよう。
(う……嘘だよね……)
足をすくませながら広場の辺りまで来ると、
「!!!」
見慣れた村人たちの背が。
思わず駆け出すラディッシュ。
しかし彼がそこで目にしたモノは、
「ッ!」
元騎士たちの亡骸であった。
担架代わりに使ったのであろう木戸の上に横たえる四つの亡骸は、丁寧に布が掛けられ、最期の尊厳を守られ、彼らの裏切りに立腹していた村人たちも悲しみに暮れていた。
「あ、あの……」
二の句を見出せないラディッシュ。
当然である。
罪人として裁かれる筈であった彼らが「身命を賭して村を守った」のに、勇者である筈の彼は、部屋の隅で「小さく震えていたダケ」なのだから。
すると、英霊と化した彼らの足元で放心していた一人の幼女がスッと立ち上がり、ラディッシュの下にうつむき加減で歩み寄り、
「あなた様は「勇者様」なのですよね……」
口調は静かであったが、責める様な声色に、
「え、い、いや、僕は、その……」
気圧され、返答に詰まった途端、彼女は堰を切ったように、
『どうしてぇ一緒に戦ってくれなかったのぉおぉ!』
「ッ!」
「戦ってくれたらパパは死ななかったかも知れないのにぃいぃ!」
両手で顔を押さえ、叫ぶように泣き出し、
(だ、だって僕は……)
ラディッシュが悲痛な表情でウロたえると、
『騎士の娘が「父の誉」に涙など見せるのモノではありません!』
母親と思われる女性が彼女を抱き、深い悲しみを滲ませた表情ながらも、毅然とした立ち振る舞いで、
「貴方の父は罪人としてではなく、騎士としての本懐を果たしたのです!」
叱責し、そんな二人を前に、
「だ、だって僕は無力で……無力な僕が居たって何の……」
言い訳が口を衝くと、ドロプウォートが唇をギュッと真一文字に噛み締めラディッシュに近づき、
「ど、ドロプ、さん……あ、あのね、僕は……」
何かを言おうとした左頬を、
パァン!
無言で叩き、悲しさとも、悔しさとも、落胆ともつかぬ表情で、
「見損ないましたわ」
素気無く背を向け立ち去り際、群衆の中のローブで素顔を隠した何者かに、
「どなたかは存じませんが、ご助力感謝致しますわ。貴方がいなければ、村人にも被害が及んだでしょう」
小さく頭を下げ、教会へ向かって行った。
「…………」
放心するラディッシュ。
傷心の彼に、パストリスは何かを言おうとしたが、口にしかけた何かを彼女はグッと飲み込みドロプウォートの後を追い、ターナップも、まるでその場にラディッシュが存在していないかの様な振る舞いで、集まっていた村人たちに対し、
「村を命懸けで守ってくれた騎士様たちを弔う為に、教会へ運ぶのを手伝ってくれぇ」
協力を促された村人たちも嫌な顔一つする事なく、英霊が乗った戸板を三三五五持ち上げ、教会へ向かって行った。
一人、また一人と、左頬を赤く立ち尽くす彼の下から去って行く。
やがて、彼の周囲から全ての人が消えた。
落ち込む姿も素敵と言っていた、女子たちでさえ。
二人は、人狼、サイクロプス、黒狼との激戦を経た経験値からか臆することなく、凛然と立ち構え、その背後には、弓や武器代わりの農具を手にした「有志の村人たち」の姿。
するとドロプウォートが、悠然と迫るミノタウロス達を気圧す気迫を以て、
『心が退いては、その時点で負けですわぁ! 生き抜く為に戦いましょうォオォ!』
村人たちを鼓舞し、緊張を否めない彼らも、自らの不安と恐怖を払い除けようと、
『『『『『『『『『『おぉーーーーーーっ!』』』』』』』』』』
気合の籠もった喊声を上げた。
微力ながらも「村を守りたい」と言う、彼らの想いの詰まった声を背に、
「行きますわよォ、パスト!」
「ハイでぇす、ドロプゥ!」
二人が「命を預かる責任の重さ」を痛感しながら先陣切って駆け出そうとすると、
『チョット待ってくれぇーーーーーー!』
ターナップの呼び声が。
「やはり来ましたわね♪」
「来ましたでぇすね♪」
笑顔で足を止め、振り返った二人は、
「「!」」
驚いた。
武器を手にしたターナップに続く、フル装備の「見覚えのある元騎士」たちの姿に。
「あの方々は……」
(信じて大丈夫、ですの……)
戸惑いを隠せないドロプウォート。
しかしパストリスが何の憂いを感じさせない笑顔で、
「心強いでぇすね♪」
(え?)
彼らが「信頼するに足るか」など、炎を宿した目を見れば一目瞭然であり、愚問であり、ドロプウォートは短絡的に疑いを持った自身を恥じ、自嘲気味に小さく笑うと、
「ですわねぇ♪」
憂いの無い笑顔で返し、
「では改めて行きますわよ、パストォ!」
「ハイでぇす、ドロプゥ!」
二人は強力な助っ人を得て、些か軽くなった心持ちで、迫るミノタウロス達に向かって駆け出して行った。
一方のラディッシュは、明かりを消した自室の隅。
主を失った椅子車に小さくなってしがみつき、カタカタと震えながら、
「無力な僕が行ったって意味がないんだ……意味がないんだ……意味がないんだ……意味がないんだ……」
呪文のように何度も口ずさみ、黒狼パトリニアとの死闘で命を落として逝った騎士たちの姿を思い出していた。
やがて地平線から陽が差し始め――
危険を知らせる半鐘は鳴り止み、村は、一見いつもと変わらぬ静かな朝を迎えた。
物音一つしなくなった窓の外から差し込む陽の光に、
(朝になった……)
生を実感するラディッシュ。
生きて次の日を迎えられた事に安堵しつつ、恐る恐る立ち上がり、窓から外を窺う。
「…………」
狂乱の一夜であったが故に、過分に感じる静けさ。
(……まるで、村から人が消えたみたいだ……)
自ら「恐怖を掻き立てる想像」をしてしまい、ブルリと身を震わせ、
(だ……誰か……)
人の温もりを求め、朝靄が立ち込める中を、死人の様に彷徨い歩いた。
異常とも思える静けさに包まれた村は、人の気配が感じられず、まるで本当に村人たちが消えてしまったかのよう。
(う……嘘だよね……)
足をすくませながら広場の辺りまで来ると、
「!!!」
見慣れた村人たちの背が。
思わず駆け出すラディッシュ。
しかし彼がそこで目にしたモノは、
「ッ!」
元騎士たちの亡骸であった。
担架代わりに使ったのであろう木戸の上に横たえる四つの亡骸は、丁寧に布が掛けられ、最期の尊厳を守られ、彼らの裏切りに立腹していた村人たちも悲しみに暮れていた。
「あ、あの……」
二の句を見出せないラディッシュ。
当然である。
罪人として裁かれる筈であった彼らが「身命を賭して村を守った」のに、勇者である筈の彼は、部屋の隅で「小さく震えていたダケ」なのだから。
すると、英霊と化した彼らの足元で放心していた一人の幼女がスッと立ち上がり、ラディッシュの下にうつむき加減で歩み寄り、
「あなた様は「勇者様」なのですよね……」
口調は静かであったが、責める様な声色に、
「え、い、いや、僕は、その……」
気圧され、返答に詰まった途端、彼女は堰を切ったように、
『どうしてぇ一緒に戦ってくれなかったのぉおぉ!』
「ッ!」
「戦ってくれたらパパは死ななかったかも知れないのにぃいぃ!」
両手で顔を押さえ、叫ぶように泣き出し、
(だ、だって僕は……)
ラディッシュが悲痛な表情でウロたえると、
『騎士の娘が「父の誉」に涙など見せるのモノではありません!』
母親と思われる女性が彼女を抱き、深い悲しみを滲ませた表情ながらも、毅然とした立ち振る舞いで、
「貴方の父は罪人としてではなく、騎士としての本懐を果たしたのです!」
叱責し、そんな二人を前に、
「だ、だって僕は無力で……無力な僕が居たって何の……」
言い訳が口を衝くと、ドロプウォートが唇をギュッと真一文字に噛み締めラディッシュに近づき、
「ど、ドロプ、さん……あ、あのね、僕は……」
何かを言おうとした左頬を、
パァン!
無言で叩き、悲しさとも、悔しさとも、落胆ともつかぬ表情で、
「見損ないましたわ」
素気無く背を向け立ち去り際、群衆の中のローブで素顔を隠した何者かに、
「どなたかは存じませんが、ご助力感謝致しますわ。貴方がいなければ、村人にも被害が及んだでしょう」
小さく頭を下げ、教会へ向かって行った。
「…………」
放心するラディッシュ。
傷心の彼に、パストリスは何かを言おうとしたが、口にしかけた何かを彼女はグッと飲み込みドロプウォートの後を追い、ターナップも、まるでその場にラディッシュが存在していないかの様な振る舞いで、集まっていた村人たちに対し、
「村を命懸けで守ってくれた騎士様たちを弔う為に、教会へ運ぶのを手伝ってくれぇ」
協力を促された村人たちも嫌な顔一つする事なく、英霊が乗った戸板を三三五五持ち上げ、教会へ向かって行った。
一人、また一人と、左頬を赤く立ち尽くす彼の下から去って行く。
やがて、彼の周囲から全ての人が消えた。
落ち込む姿も素敵と言っていた、女子たちでさえ。
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