ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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 連日の小競り合いによる疲労が蓄積されている上に、人間同士のセオリーが通じない異質な相手。しかも三者融合により生み出された人狼の戦闘能力は異様に高く、次第に翻弄されて行くエルブ兵たちの命。

 しかし経験豊富な総師団長アスパーや、有能な団長クラスの騎士たちは、
『一対一で戦わず! 一匹に対し複数人で対処するのだァ!』
 各所で気勢の籠もった声を上げ、
「「「「「「「「「「オォーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」」」」」」」」」」
 騎士、兵士たちも、その声に応える様に声を張り上げ、ドロプウォートの両親も四大貴族でありながら甲冑に身を包み、手本を示す様に最前線で一般兵に交じり大剣を振るい奮闘し、彼らは人ならざる未知の敵を相手に奮戦した。

 その様子を、森の中から窺う地世の導師。
 どちらが勝つ事にも、さほど興味は無いのか、
「ほぅ~ったく、やるもんだぁ♪」
 漢声で、まるでスポーツ観戦でもしているような口振りで笑みを浮かべると、

「だがぁな」

 不意に指をパチンと打ち鳴らし、
「コイツ等を相手には、何処までやれるのかねぇ?」
 突如、戦場のアチラコチラで立ち昇る、黒き竜巻。

「「「「「「「「「「なっ、何だコレはぁあぁあっあぁぁぁ!」」」」」」」」」」

 何匹もの人狼を、何人ものエルブ兵たちを、次々と巻き込み、呑み込み、新たな融合が。
やがて地鳴りを伴い、

「「「「「「「「「「ッ!!!」」」」」」」」」」

 中から出て来た「新たなモンスター」の姿に、エルブ兵たちは驚愕した。
 巨木の様な太い脚、丸太の様に太い腕に、そして岩盤の様に分厚く頑強な胸板。
 姿を現したのは岩山の様に見える、身の丈が優に五メートルはある巨大な一つ目モンスター、サイクロプス達であった。

 その圧倒的威圧感を以て戦場の兵たちを見下ろすと、地世の導師はその姿に「クックックッ」と小さく笑い、
「早く出て来ねぇと、大事な「民」が皆殺しだぜぇ~」
 不敵な笑みで口元を歪めた。

 人狼相手にでさえ、ギリギリの戦いを強いられているさ中、その有無を言わさぬ圧倒的存在感に、その破滅的絶対感に、戦う前から心が折れそうにるエルブの兵たち。

 命懸けの戦いを、後陣の最後部の高く組まれた櫓の上からジッと見つめるラミウム。
 傍らに脇侍の様に立ち、想像を超えた戦場に言葉を失うラディッシュとパストリスに、
「目を逸らすんじゃないよ、二人とも。彼ら一人一人の「誇り高き戦いを」さぁね。しかと、その両の眼に焼き付けておくんだよ。これが「地世との戦い」と言うモノさぁね」
((…………))
 目の前で繰り広げられる現実感の無い光景の連続に、言葉を失い、感想を思う事さえ出来ない二人であったが、ドロプウォートだけは違っていた。

 剣の柄に当てた手を、悔し気に震わせながら、今にも飛び出して行きそうな顔して戦場を睨み付けていると、

『ドロプ!』

 ラミウムの釘を刺すような呼び声が。
「クッ……」
 奥歯を噛み締め、

『分かっていますわァ!』

 吐き捨てる様に、
「今のワタクシたちは「象徴」ですわ! まかり倒されれば士気が下がり総崩れ……」
(ですが、私の両親が、同胞が、国や民を守る為に命懸けで戦っていますと言いますのに、四大貴族が一子であるワタクシが何もせず、ただ「黙って指をくわえて見ているダケ」などと……)
 もどかしさと悔しさが入り混じった感情から下を向くと、

『行っておいでぇな、ドロプ』
「「「えぇ!?」」」

 思いも寄らぬ一言に驚くドロプウォート、ラディッシュとパストリス。
 護衛役の衛兵たちも驚き振り向いたが、そんな周囲の驚きを、ラミウムは鼻先でフッと笑い飛ばし、

「アタシぁは「百人の天世人ラミウム様」だよ? 本来なら護衛すら不要な話さぁね」
「でぇ、ででででですがぁ!」

 急くドロプウォートを手で制し、
「それよりも「騎士としての務め」とやらを果たして来ぃなやねぇ。なぁ、ドロプ」
「………」
 向けられた笑顔に、ドロプウォートの表情が「驚き」から「気合の入ったモノ」に変わって行ったが、ラディッシュとパストリスが血相を変え、

「ドロプさんを「あんな危ない所に」なんて僕は絶っ対反対だよぉ!」
「でぇすでぇすぅ! 今は騎士さん達に任せておくべきでぇす!」

 間に割って入って懇願すると、

『甘ったれるんじゃないさァねッ!!!』
「「!」」

 ラミウムの鬼の様な顔した一喝に、ビクリと身を震わせるラディッシュとパストリス。
 護衛の兵たちも慄きを隠せずにいる中、
「ココは戦場でぇ! アンタも勇者だろうがァ!! 本来ならアノ乱戦のど真ん中に立つべきは『オマエ』なんだよォ!!!」
「!!!」
 思い出された現実に、ショックを受けるラディッシュ。
 返す言葉も無い彼に、
「それにアンタ達は……」
 悲し気な視線をドロプウォートに移し、

「仲間に「そんな顔」をさせといてぇ、平気なのかぁい?」
((え?))

 振り向いた二人は彼女の顔を見るなり、
「「…………」」
 何も言えなくなってしまった。

 喜びとも、悲しみともつかぬ、複雑な笑みを浮かべるドロプウォート。
 彼女は二人の気遣いに感謝しながらも、既に二人の気遣いを無下に扱う選択を選んでいる自身を「非情」と責めていたのであった。
 視線を落とし、掛ける言葉さえ見い出せずにいると、
『ありがとうですわ、お二人とも』
 静かなれど、覚悟の籠もったドロプウォートの声が、うつむく二人の頭上に降り、
「「!」」
 顔を上げた時には、

「行って来ますわぁ♪」

 彼女は清々しい笑顔だけを残し、櫓を駆け下り戦場へと走り去って行ってしまった。
 次第に小さくなる盟友の背を、ただ、黙って見送るより他にないラディッシュとパストリス。
 あまりに唐突な別れに、
「「…………」」
 何も考えられずにいる二人に、

『アイツが簡単にくたばる訳がないさぁねぇ♪』
「「!?」」

 言葉とは裏腹な「温かみのある声」が。
 振り返ると、
「ドロプの強さは、しぶとさは、アタシ等が一番、よぉ~く知ってる事だろうぅさぁねぇ」
 ラミウムの憂いを感じさせない笑みに、笑顔を見合わせるラディッシュとパストリス。

「そ、そうだよね! なんてたってドロプさんは四大貴族で、」
「先祖返りでぇ」

「「首席誓約者「候補」なんだからぁ♪」」

 あえて「候補」の部分を立てた言い方で、冗談めかして笑い合うと、ラミウムが毎度のからかいの笑みを浮かべ、
「とは言え、正直ぃ猫の手も借りたい戦況なのさぁねぇ~」
 二人をチラ見、

「「?」」

「アンタ等にも、行ってもらいたい位なんだけどねぇ~」
「「!!!」」
 ギョッとする二人は慌てに慌て、

「無理無理無理無理ィ! 僕達があんなとこ行ったら「秒殺」どころか「瞬殺」だよぉ!」
「でぇすでぇすでぇすでぇすぅ! ボク達の血で、騎士様方の鎧が汚れるだけでぇす!」

 その慌てふためきように、ラミウムはヤレヤレ笑いを浮かべながら、
「アンタ達も、一応は「勇者御一行様」なんだがねぇ~」
「「…………」」
 申し訳なさげに下を向く二人と、長閑な空気を思わずクスクス笑う衛兵たち。

 櫓の上が穏和に包まれていた頃、激闘の続く戦場の巨木の上、再びとなる地世の導師の姿があった。
 前線に向かってひた走るドロプウォートの姿に気付き、
(ったく、やっと出て来やがったかぁ)
 漢口調で苛立つ思いと裏腹、

「丁度良いでぇすよねぇ~」

 小馬鹿口調で「自身の体の左」をさすって不敵な笑みを浮かべると、背後の闇の中から、

『パトリニア様、そろそろお戻り下さい。プエラリア様が不在を憂いておいでです』
「…………」

 その声に驚きもせず、一瞬黙する地世の導師パトリニア。
 体よく誘いをはぐらかそうと言う魂胆か、
「気に掛けてくれてるなんてぇ嬉しいぃのですよねぇ~」
 冗談めいた物言いで笑って見せたが、

『…………』

 クスリとも笑わず、応えもしない闇の声に、パトリニアは「ふぅ」とため息を一つ吐き、面白味を感じさせない存在に、漢口調でヤレヤレと、
「ったくよぉ「左腕の落とし前」をつけたら戻るさぁ。それと、手土産を一つ持って帰るから「楽しみにしてろ」とも言っときな」
『…………』
 闇の声は一考しているかのような一拍を置いてから、

『かしこまりました』

 言葉少なに、その気配を闇の中に消して行った。
「ったく、つまらん連中だぜぇ~」
 パトリニアはローブから微かに覗く口元で呆れ笑うと、
(悪りぃな、プエラリア)
 視線を戦場に戻し、
(俺っちにも「漢のメンツ」ってモンがあんのさぁ)
 走るドロプウォートの姿を凝視した。

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