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真逆な男二人が心の距離を縮めていた頃――
『何ですってぇ!』
飲食店に入ったドロプウォートが、火の出る勢いで激高していた。
「あ、あぁ……ドロプ、そんなに……」
うろたえるパストリスを尻目に、
「何故に彼女(パストリス)の入店を拒否するのでぇす!」
すると店主と思しき男が辟易顔して、
「ですからぁ何度も申し上げている通り、奴隷を連れての来店は「店の品位が下がる」ので困るんですよ騎士様ぁ」
「彼女は奴隷ではありませんわ! 友人ですわぁ!! ワタクシの友人を侮辱する事は許しませんわァアァ!!!」
まくし立てたが、
「そう言われてもぉ~」
訝し気な顔してパストリスを上から下から眺め、
(どこの従属国の娘なのやらぁ)
見た事が無いデザインな上に、傷みの目立つ民族衣装に渋い顔。
盗賊の隠れ里であったが故に「民族衣装のデザイン」は周知されておらず、服の傷みは両親を亡くして収入が絶たれたが為に新調できず、手直しを繰り返した結果であり、加えて先のドロプウォートとの接触により袖は破れ、悪し様に言えば「みすぼらしい」と店主は感じ、吐き捨てる様な「ハン」と笑いを一つして、小馬鹿にした笑みさえ口元に浮かべ、
「そんなナリ(服装)をしていて「奴隷じゃない」と言われてましてもねぇ~」
呆れ顔は火に油。
「なっ?! なっななななななななな何ですってぇえぇぇーーーーーーーーーッ!」
ドロプウォートの怒りは最高潮に、
『この店は「見た目」で人を判断するのですかァ!!!』
鬼の形相で怒鳴り散らしたが、その裏で、過去の自身の言動が胸に突き刺さり、
(うぅっ……こ、心が痛いですわぁ……)
顔にこそ出さなかったが、見事なブーメラン。
付き合いも長くなったパストリスは、そんな彼女の心を見透かし、
(怒りながら苦悩してぇる……)
思わず苦笑いしていると、
「もう結構ですわぁ!」
怒れるドロプウォートは話を打ち切り、
「行きますわよ、パスト!」
パストリスの手を強引に引き、
「は、ハイでぇす!」
引かれたパストリスは、困惑顔の店主に申し訳なさげな頭を何度も下げながら店を出た。
『誰か塩を撒けぇ! 塩を!』
店主の恨み節を背に。
ドロプウォートに力強く手を引かれ、歩き続けるパストリス。
いったい何処へ向かって歩いているのか。
ズンズン進むドロプウォートの背に、
「あ、あのぉ……ドロプ……」
声を掛けるも、怒れる彼女の耳には届いていないらしく、答えは返らない。
「…………」
なすがまま、なされるがまま歩き続けたパストリスは、やがて一軒の店をドロプウォートと共に見上げていた。
「あ、あのぉ……ドロプ……この店は?」
「仕立屋(服屋)でぇすわぁ!」
ドヤ顔で鼻息荒く答えたが、そんな事は店構えを見れば一目瞭然であり、そんな事を聞きたかった訳ではなかった。
そして、極度の負けず嫌いの彼女の性格から考えて、パストリスの頭には「とある懸念」が浮かんでいた。
(まさか……)
直感的に感じた「嫌な予感」と言うモノは、とかく的中するモノで、
「負けっ放しは騎士の名折れぇ! 新しい服で着飾ってぇ見返してやりますわよぉ!」
(やっぱりぃいぃ!)
店の中へ、強引に連れ込まれた。
ドロプウォートは理不尽をた易く受け入れる様な人物ではなく、戦いはまだ終わっていなかった事を思い知らされ、
(服より、ご飯が食べたいんでぇすけどぉおぉぉ~)
半泣きのパストリス。
そんな彼女の嘆きを知ってか知らずかドロプウォートは収まらぬ鼻息のまま、
「店主ぅ! 彼女に似合う服をくださいですわぁ!」
すると、過剰な程の営業スマイルを浮かべた男性店主は、
「いらっしゃ……」
挨拶も半ば、パストリスを見るなり言葉を呑み、
(やっぱり、ここでも……)
食堂に続き、身分の違いを思い知るパストリス。
平民より低い暮らしをしていた彼女にとって、仕立屋など場違いとしか思えず、改めて突き付けられた現実に、内心で酷く落ち込みつつ、
(このままだとドロプが、また恥をかいちゃうでぇす……)
ドロプウォートを気遣い、無理に笑顔を作り、
「か、帰りましょうでぇす、ドロプ。やっぱりボクには、」
店を後にしようとした途端、
『素晴らしいわぁあぁあぁっぁあぁ~~~~~~!』
(え?)
パストリスが直感的に感じた「色々な疑問」をよそに、男性店主は、まるで宝物でも見つけたかの様な破顔で大絶叫。悦びを表現するかのように、その身をくねらせると、
「分かりますかぁ店主ぅうぅ♪」
「モチロンよぉおぉ♪」
性別を超えた、異様な意気投合を見せるドロプウォートと男性店主。
思わず後退りしたくなる光景に、
(み……)
身の危険を感じるパストリス。
「そ、それじゃボクはこれでぇ!」
先程までとは違った意味で、急ぎ足で出て行こうとすると、
『『何処へ行きますのぉ?!』』
右肩をドロプウォートに、左肩を一般男性とは明らかに違う趣向の店主に捕まれ、
「あ、あのぉ、ボク、ちょっと急用を、」
体よく断ろうと振り返ったが、
「ッ!」
そこには狂気染みた二つの笑みが。
「いっ、いやぁ~~~~~~~~~!」
青空にこだまする、パストリスの悲しき悲鳴。
彼女は後に、
≪二人の魔王に出遭った≫
この日の恐怖を知人に、こう語ったと言う。
『何ですってぇ!』
飲食店に入ったドロプウォートが、火の出る勢いで激高していた。
「あ、あぁ……ドロプ、そんなに……」
うろたえるパストリスを尻目に、
「何故に彼女(パストリス)の入店を拒否するのでぇす!」
すると店主と思しき男が辟易顔して、
「ですからぁ何度も申し上げている通り、奴隷を連れての来店は「店の品位が下がる」ので困るんですよ騎士様ぁ」
「彼女は奴隷ではありませんわ! 友人ですわぁ!! ワタクシの友人を侮辱する事は許しませんわァアァ!!!」
まくし立てたが、
「そう言われてもぉ~」
訝し気な顔してパストリスを上から下から眺め、
(どこの従属国の娘なのやらぁ)
見た事が無いデザインな上に、傷みの目立つ民族衣装に渋い顔。
盗賊の隠れ里であったが故に「民族衣装のデザイン」は周知されておらず、服の傷みは両親を亡くして収入が絶たれたが為に新調できず、手直しを繰り返した結果であり、加えて先のドロプウォートとの接触により袖は破れ、悪し様に言えば「みすぼらしい」と店主は感じ、吐き捨てる様な「ハン」と笑いを一つして、小馬鹿にした笑みさえ口元に浮かべ、
「そんなナリ(服装)をしていて「奴隷じゃない」と言われてましてもねぇ~」
呆れ顔は火に油。
「なっ?! なっななななななななな何ですってぇえぇぇーーーーーーーーーッ!」
ドロプウォートの怒りは最高潮に、
『この店は「見た目」で人を判断するのですかァ!!!』
鬼の形相で怒鳴り散らしたが、その裏で、過去の自身の言動が胸に突き刺さり、
(うぅっ……こ、心が痛いですわぁ……)
顔にこそ出さなかったが、見事なブーメラン。
付き合いも長くなったパストリスは、そんな彼女の心を見透かし、
(怒りながら苦悩してぇる……)
思わず苦笑いしていると、
「もう結構ですわぁ!」
怒れるドロプウォートは話を打ち切り、
「行きますわよ、パスト!」
パストリスの手を強引に引き、
「は、ハイでぇす!」
引かれたパストリスは、困惑顔の店主に申し訳なさげな頭を何度も下げながら店を出た。
『誰か塩を撒けぇ! 塩を!』
店主の恨み節を背に。
ドロプウォートに力強く手を引かれ、歩き続けるパストリス。
いったい何処へ向かって歩いているのか。
ズンズン進むドロプウォートの背に、
「あ、あのぉ……ドロプ……」
声を掛けるも、怒れる彼女の耳には届いていないらしく、答えは返らない。
「…………」
なすがまま、なされるがまま歩き続けたパストリスは、やがて一軒の店をドロプウォートと共に見上げていた。
「あ、あのぉ……ドロプ……この店は?」
「仕立屋(服屋)でぇすわぁ!」
ドヤ顔で鼻息荒く答えたが、そんな事は店構えを見れば一目瞭然であり、そんな事を聞きたかった訳ではなかった。
そして、極度の負けず嫌いの彼女の性格から考えて、パストリスの頭には「とある懸念」が浮かんでいた。
(まさか……)
直感的に感じた「嫌な予感」と言うモノは、とかく的中するモノで、
「負けっ放しは騎士の名折れぇ! 新しい服で着飾ってぇ見返してやりますわよぉ!」
(やっぱりぃいぃ!)
店の中へ、強引に連れ込まれた。
ドロプウォートは理不尽をた易く受け入れる様な人物ではなく、戦いはまだ終わっていなかった事を思い知らされ、
(服より、ご飯が食べたいんでぇすけどぉおぉぉ~)
半泣きのパストリス。
そんな彼女の嘆きを知ってか知らずかドロプウォートは収まらぬ鼻息のまま、
「店主ぅ! 彼女に似合う服をくださいですわぁ!」
すると、過剰な程の営業スマイルを浮かべた男性店主は、
「いらっしゃ……」
挨拶も半ば、パストリスを見るなり言葉を呑み、
(やっぱり、ここでも……)
食堂に続き、身分の違いを思い知るパストリス。
平民より低い暮らしをしていた彼女にとって、仕立屋など場違いとしか思えず、改めて突き付けられた現実に、内心で酷く落ち込みつつ、
(このままだとドロプが、また恥をかいちゃうでぇす……)
ドロプウォートを気遣い、無理に笑顔を作り、
「か、帰りましょうでぇす、ドロプ。やっぱりボクには、」
店を後にしようとした途端、
『素晴らしいわぁあぁあぁっぁあぁ~~~~~~!』
(え?)
パストリスが直感的に感じた「色々な疑問」をよそに、男性店主は、まるで宝物でも見つけたかの様な破顔で大絶叫。悦びを表現するかのように、その身をくねらせると、
「分かりますかぁ店主ぅうぅ♪」
「モチロンよぉおぉ♪」
性別を超えた、異様な意気投合を見せるドロプウォートと男性店主。
思わず後退りしたくなる光景に、
(み……)
身の危険を感じるパストリス。
「そ、それじゃボクはこれでぇ!」
先程までとは違った意味で、急ぎ足で出て行こうとすると、
『『何処へ行きますのぉ?!』』
右肩をドロプウォートに、左肩を一般男性とは明らかに違う趣向の店主に捕まれ、
「あ、あのぉ、ボク、ちょっと急用を、」
体よく断ろうと振り返ったが、
「ッ!」
そこには狂気染みた二つの笑みが。
「いっ、いやぁ~~~~~~~~~!」
青空にこだまする、パストリスの悲しき悲鳴。
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