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二人が気の置けないやり取りをする中、その部屋の扉の向こう、立ち合いの終わったドロプウォートの姿が。
中から漏れ聞こえる二人だけの会話から、ドアノブに掛けようとした手はピタリと止まり、
「…………」
会話に背を向けると建物の外へ向かってスタスタと、入って来た廊下を足早に戻り始めた。
まるで何かから逃れる様に。
しかし、うつむき隠れた表情からでは、彼女の心を窺い知る事は出来ない。
そこへ、パストリスも帰って来た。
別件で少し遅れ戻った彼女は、ズンズン迫り来るドロプウォートの姿に気付き、
(ひぃ!)
いつもの「過剰な抱き付き」を警戒して身構えたが、
「……え?」
うつむき加減のドロプウォートは彼女に一瞥さえ無く真横をスルー。
仄暗いオーラをその身に纏い、無言のまま建物の外へと出て行ってしまった。
気負って身構えた分、あまりに拍子抜けな顛末に、
(?)
訳も分からず呆然と、去って消えた背中を見送っていると、
(!)
ラミウムの部屋の方から、屈託なく笑い合う二人(ラディッシュとラミウム)の声が。
「…………」
チクリと痛む、秘めた胸の奥。
何故その部屋に居るのが自分ではないのか、失意から視線が自然と床に落ちると、
「!?」
(まさかドロプさんもぉ?!)
乙女な閃きが。
その「気付き」は、同じ相手に心を寄せるが故の「共感」か。
少女の足は、急ぎ外へと向かう。
パストリスが外へ飛び出した頃、ドロプウォートの姿は、ひと気の無い教会の裏庭にあった。
一人、佇み、うつむき加減からバッと顔を上げ、気持ちを切り替える様に大きく深呼吸すると、凛とした表情で正面を見据え、剣を鞘からスラリと抜き出し身構え、仮想敵を強くイメージ、
「セヤァ!」
気合と共に、剣を鋭く振り下ろして稽古を開始した。
「セイッ! ハッ! セリャ!」
一心不乱に剣を振るうドロプウォート。
その姿は「もう一人の自分」と戦っているかの様。
「セェッ!」
剣を激しく振り下ろし、
(何なのですのォ!)
「ハァッ!」
振り向きざまに切り上げ、
(この胸の奥のモヤモヤはァ!)
超が付く程の「箱入り娘」は、制御不能な「理解し難い感情」を振り払おうと、懸命に剣を振るった。
しかし、無理に払おうとすればするほど、
「クッ!」
何故か二人(ラディッシュとラミウム)の気の置けない声が、姿が、頭に鮮明にこびりついて離れない。
勇者と、勇者を召喚した天世人は主従関係の様なもの。
特別な間柄であるのだから「近しい存在」と頭では理解しつつ、そんな二人を見るたび、思うたび、胸の奥には靄がかかり、今も扉の向こうの二人を思うと、下世話な妄想ばかりが脳裏をよぎる。
そんな下卑た自身に益々腹が立ち、
「クウッ!」
振り向きざまの大上段からの一刀を、あらん限りのチカラで振り下ろし、
『なァ!?』
驚愕の声を上げた。
切っ先の落下軌道上にパストリスの姿が。
(いけませんですわァ!)
慌て剣先を止めようと試みるも、剣術は「剣の重み」も利用して振るうモノ。全力で落下軌道に入った刀身がおいそれと止められる筈もなく、パストリスの頭上目がけて迫る切っ先に、
(こっ、このままではパストがぁ!)
華奢な体は引き裂かれ、惨事になるは火を見るより明らか。今更ながらに自身の未熟を呪ったが時すでに遅し。
凶刃は無垢な少女に容赦なく襲い掛かった。
しかし、
ガァガキィーーーッ!
激しい金属音をたて、
「なぁ!?」
おののくドロプウォート。
少女を斬り裂くかと思われた刃が、一刀を放った彼女の目の前で、その進攻を止めたのである。
否、止められたのである。
小柄で可憐な少女の手によって。
パストリスは頭上で両腕を十字に交差させ、
『クウゥッ!』
歯を食いしばって懸命に刃を受け止め、
(ボクがケガをしたらぁ、ドロプさんの心の傷になっちゃうでぇす!)
地世のチカラをも用いているのか、消えた筈の「耳と尻尾」の影が薄っすら見える。
とは言え一刀を放ったのは首席誓約者候補生であり、高い戦闘力を受け継ぐ四大貴族が一子でもあり、突出した能力を持つ「先祖返り」でもあるドロプウォート。
その様な彼女が放った本気の一刀を、パストリスがどれ程の技量を持っていたとしても易々と受け止めきれる筈も無く、受け止めはしたものの勢いまでは止めきれず、
「きゃあぁ!」
数メートル吹き飛ばされて芝の上を何度も転がり、
「パストォオォ!」
慌てて駆け寄るドロプウォートであったが、パストリスは意外にも、
「い、痛たぁたたたたたぁ……でも、ダイジョウブでぇすぅ♪」
派手に飛んだ割には元気よく上体を起こし、笑顔まで見せた。
「!!!?」
ギョッとするドロプウォート。
しかしその驚きは、パストリスが無傷で起き上がった事に対する物では無い。
振り下ろされた切っ先の勢いを相殺する為、自ら派手に後方へ飛び退いた事は、戦士である彼女にも容易に想像出来たのだが、それよりも、放った一刀を受け止めた為に破れた袖の下から露わになった「彼女の両前腕部」に、ドロプウォートの目は釘付けになっていた。
中から漏れ聞こえる二人だけの会話から、ドアノブに掛けようとした手はピタリと止まり、
「…………」
会話に背を向けると建物の外へ向かってスタスタと、入って来た廊下を足早に戻り始めた。
まるで何かから逃れる様に。
しかし、うつむき隠れた表情からでは、彼女の心を窺い知る事は出来ない。
そこへ、パストリスも帰って来た。
別件で少し遅れ戻った彼女は、ズンズン迫り来るドロプウォートの姿に気付き、
(ひぃ!)
いつもの「過剰な抱き付き」を警戒して身構えたが、
「……え?」
うつむき加減のドロプウォートは彼女に一瞥さえ無く真横をスルー。
仄暗いオーラをその身に纏い、無言のまま建物の外へと出て行ってしまった。
気負って身構えた分、あまりに拍子抜けな顛末に、
(?)
訳も分からず呆然と、去って消えた背中を見送っていると、
(!)
ラミウムの部屋の方から、屈託なく笑い合う二人(ラディッシュとラミウム)の声が。
「…………」
チクリと痛む、秘めた胸の奥。
何故その部屋に居るのが自分ではないのか、失意から視線が自然と床に落ちると、
「!?」
(まさかドロプさんもぉ?!)
乙女な閃きが。
その「気付き」は、同じ相手に心を寄せるが故の「共感」か。
少女の足は、急ぎ外へと向かう。
パストリスが外へ飛び出した頃、ドロプウォートの姿は、ひと気の無い教会の裏庭にあった。
一人、佇み、うつむき加減からバッと顔を上げ、気持ちを切り替える様に大きく深呼吸すると、凛とした表情で正面を見据え、剣を鞘からスラリと抜き出し身構え、仮想敵を強くイメージ、
「セヤァ!」
気合と共に、剣を鋭く振り下ろして稽古を開始した。
「セイッ! ハッ! セリャ!」
一心不乱に剣を振るうドロプウォート。
その姿は「もう一人の自分」と戦っているかの様。
「セェッ!」
剣を激しく振り下ろし、
(何なのですのォ!)
「ハァッ!」
振り向きざまに切り上げ、
(この胸の奥のモヤモヤはァ!)
超が付く程の「箱入り娘」は、制御不能な「理解し難い感情」を振り払おうと、懸命に剣を振るった。
しかし、無理に払おうとすればするほど、
「クッ!」
何故か二人(ラディッシュとラミウム)の気の置けない声が、姿が、頭に鮮明にこびりついて離れない。
勇者と、勇者を召喚した天世人は主従関係の様なもの。
特別な間柄であるのだから「近しい存在」と頭では理解しつつ、そんな二人を見るたび、思うたび、胸の奥には靄がかかり、今も扉の向こうの二人を思うと、下世話な妄想ばかりが脳裏をよぎる。
そんな下卑た自身に益々腹が立ち、
「クウッ!」
振り向きざまの大上段からの一刀を、あらん限りのチカラで振り下ろし、
『なァ!?』
驚愕の声を上げた。
切っ先の落下軌道上にパストリスの姿が。
(いけませんですわァ!)
慌て剣先を止めようと試みるも、剣術は「剣の重み」も利用して振るうモノ。全力で落下軌道に入った刀身がおいそれと止められる筈もなく、パストリスの頭上目がけて迫る切っ先に、
(こっ、このままではパストがぁ!)
華奢な体は引き裂かれ、惨事になるは火を見るより明らか。今更ながらに自身の未熟を呪ったが時すでに遅し。
凶刃は無垢な少女に容赦なく襲い掛かった。
しかし、
ガァガキィーーーッ!
激しい金属音をたて、
「なぁ!?」
おののくドロプウォート。
少女を斬り裂くかと思われた刃が、一刀を放った彼女の目の前で、その進攻を止めたのである。
否、止められたのである。
小柄で可憐な少女の手によって。
パストリスは頭上で両腕を十字に交差させ、
『クウゥッ!』
歯を食いしばって懸命に刃を受け止め、
(ボクがケガをしたらぁ、ドロプさんの心の傷になっちゃうでぇす!)
地世のチカラをも用いているのか、消えた筈の「耳と尻尾」の影が薄っすら見える。
とは言え一刀を放ったのは首席誓約者候補生であり、高い戦闘力を受け継ぐ四大貴族が一子でもあり、突出した能力を持つ「先祖返り」でもあるドロプウォート。
その様な彼女が放った本気の一刀を、パストリスがどれ程の技量を持っていたとしても易々と受け止めきれる筈も無く、受け止めはしたものの勢いまでは止めきれず、
「きゃあぁ!」
数メートル吹き飛ばされて芝の上を何度も転がり、
「パストォオォ!」
慌てて駆け寄るドロプウォートであったが、パストリスは意外にも、
「い、痛たぁたたたたたぁ……でも、ダイジョウブでぇすぅ♪」
派手に飛んだ割には元気よく上体を起こし、笑顔まで見せた。
「!!!?」
ギョッとするドロプウォート。
しかしその驚きは、パストリスが無傷で起き上がった事に対する物では無い。
振り下ろされた切っ先の勢いを相殺する為、自ら派手に後方へ飛び退いた事は、戦士である彼女にも容易に想像出来たのだが、それよりも、放った一刀を受け止めた為に破れた袖の下から露わになった「彼女の両前腕部」に、ドロプウォートの目は釘付けになっていた。
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