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しかもパストリスは中世の人々が「汚染人」と蔑称して忌み嫌う、妖人。
教会関係者や、信仰心の篤い中世の人々が聞いたら、身の危険を感じるほど罵倒されてもおかしくない願いであり、固唾を呑んで応えを待つと、
「良いのぉ?」
むしろラディッシュは微かな難色さえ感じられない笑顔で、
「そうしてもらえると助かるよぉ~外れて落ちたりしたらタイヘンだから」
思いがけず背中を押される形となり、パストリスは嬉しそうに、
「はい!」
さっそくハンモックに取り付いたが、しかし取り付いてはみたものの、思いのほか乗り辛く、
「けっ、結構コツが要るんでぇすねぇ」
悪戦苦闘の末、不格好ながらも「えぃ!」と言う可愛らしい気合と共に、仰向けで無事に収まる事が出来た。
左右に程よく揺れ、
「…………」
青空を見上げるパストリス。
(何かぁ、ふわぁふわぁしててぇ)
かつて経験した事の無い夢心地に、
(気持ちぃいぃいぃ……)
心から和んだ笑顔を見せると、笑顔の中にさえ常に緊張を滲ませていた彼女が「初めて見せた自然な笑顔」に、ラディッシュもつい嬉しくなり、
「気持ちいいでしょ♪」
しかし、
「!」
ハッと、我に返るパストリス。
罪悪感に満ちた表情で慌てて飛び起き、
「すっ、すみませぇん! ボクってばぁ調子に乗ってぇ! 確認するだけって言っておいて長々とぉ!」
「あ、慌てると危ないよぉ!」
心配したラディッシュの制止も聞かず、急いで降りようとして足が絡まり、
「イタッ!」
「!」
顔面から地面に強打。
「だっ、大丈夫、パストリスさぁん?!」
ラミウムを背負ったままのラディッシュが不安げに顔を覗き込んだが、パストリスは平身低頭、
「すみませんすみませぇん! ボクなんかが天世様の寝具に長々とぉ!」
何度も平謝り。
上げた顔に、ギョッとするラディッシュ。
「パストリスさん、鼻血が出てるよぉ! 早く冷やさないと!」
うら若き乙女が顔に負った傷を気遣ったが、
「大丈夫でぇす! 大丈夫でぇす!! こんなのぉ大丈夫でぇすから!!!」
頭を何度も何度も上げ下げ、謝罪を繰り返すばかり。
するとそんな彼女の頭上へ、
『アタシの了見はぁんなに狭かぁ~ないさぁねぇ~』
ヤレヤレ声が降り注ぎ、
「?!」
顔を上げると、ラディッシュの背で目覚めたラミウムが大あくびをしていた。
「ラミウム様……」
申し訳なさげな顔するパストリスに、ラミウムは呆れ笑いを浮かべ、
「はやく鼻血をお拭きぃなぁ。可愛い顔が台無しじゃないかぁい」
彼女なりの優しさに端を発する「皮肉染みた物言い」で気遣ったが、それでも罪悪感を拭う事が出来ないパストリスは萎縮した表情で、
「は……ハイ……」
ハンカチを取り出し、静かに鼻を押さえうつむいた。
パストリスが妖人と分かった時のドロプウォートの反応が物語った、中世の人々の中にある「強い差別意識」と同様に、卑屈とも思えるパストリスの過剰な卑下から感じる通り、妖人側にも違った意味合いでの強い差別意識があった。
それは、身に沁みついているほどの、長く、根深い、差別の歴史の表れであり、未だ自責の念に駆られて沈んだ顔するパストリスにラミウムは、
(仕方ないさぁねぇ~)
呆れ笑うと、とある一計を企て、
「パストぉ」
「はい……」
「いい加減にアタシの事を「様」呼ばわりするのは、およしぃなやね」
「・・・・・・え?」
言われている意味が理解出来ず、フリーズするパストリス。
するとラミウムは、ラディッシュの背から少年の様な笑顔で以て、
「アタシの事を「ラミィ」とお呼びぃなぁ!」
「めぇっ?!」
両目が飛び出そうな驚きのパストリス、
『めめめめめめめめめめめめめめめめめぇ滅相もないでぇすぅ!!!!!!』
恐れおののき一気に数メートルをバック。
間髪入れず笑顔のラディッシュまでもが、
「僕の事も「ラディ」でイイよ♪ 代わりに「パストさん」って、呼んで良いかなぁ?」
「!?」
二人の優しさに触れ、驚きを隠せないと同時に、嬉しく思うパストリスではあったが、
「でも……」
次第に暗く、
「皆さんは天世様で、勇者様で、誓約者様で……ボクなんか盗賊で……妖人…………」
視線を落とすと、ラミウムが怒り交じりにラディッシュの背から半身乗り出し、
『天世のアタシが「イイ」つってんだよォ!』
「!」
過剰なまでの、へりくだりを一喝し、
「四の五のぬかしてると「あの同人」みたいに引ん剥くよォ!」
血相を変えた叱責に、パストリスは叱咤激励と理解、
「はっ、ハァイ!」
返した返事には曇りが無く、表情も一転した晴れやかなモノとなった。
陰りの失せた表情に、
「キッシッシッ♪」
満足気に笑うラミウム。
と、そこまでは良かったのだが、何を思ったのか急に悪い企み顔して、
「なら早速ぅ、アタシをそぅ呼んでみぃなやぁ」
「へぇ?!」
虚を衝かれたキョトン顔に、ラミウムを背負うラディッシュは、
(あぁ~あぁ、ラミィの悪い癖がまた始まったよぉ~)
苦笑したが、当のラミウムはお構いなしに、
「さぁ、何事も練習さぁねぇ」
「いっ、いきなり……今でぇすかぁ?」
躊躇いに、からかい交じりのニヤリ笑いで、
「「れ・ん・しゅ・う」さ。ホレぇ」
するとパストリスは、
「え、えとぉ……」
恥ずかしそうに顔を赤らめ、
「ら、らみぃ……う……」
声は次第に尻つぼみ、
「ふぅひぃいぃ! やっぱりぃ無理でぇえぇぇすぅ!!」
頭を抱え、
『今は「ラミィさん」で許してつかぁ~~~さぁい!!!』
羞恥の緊張からかヘンな言葉遣いなってしまい、上塗りの恥ずかしさから耳まで真っ赤に小さく丸まってしまった。
閉じた貝のようになった少女を、ラディッシュの背からキョトン顔で見下ろすラミウムは、
「アンタぁ、どぉこの出身なんだぁい?」
苦笑い。
「ふぅぬぅうぅ……」
赤面顔を上げられずにいるパストリスの可愛らしさに、満たされたホクホク顔して、
「まぁ、今は、これ位で勘弁してやろうかねぇ?」
一先ず矛を収め、下を向いていたパストリスもほっと胸を撫で下ろし、上目遣いで、
「ありがとうございまぁすでぇす。ラミウムさ、」
言いかけて、
「ッ?!」
ラミウムの豹変したヤンキー張りの「射貫く様な視線」に息を呑み、
「らっ……ラミィ……さん」
窺う様に言い直すと、
「よろしい♪」
ラミウムは笑顔に一転戻り、頷いた。
(ラミィの奔放にも困ったものだよぉ)
小さく呆れ笑うラディッシュ。
その一方で、何にも囚われず、有るがまま振る舞う事が出来る彼女の心持ちを、憧れにも似た想いで羨ましくも思っていた。
彼女の「奔放」の根底にある物が「優しさ」と理解した上で。
「ラミィ♪」
「?」
「寝床籠に降ろすから、気を付けてね」
「あいよぉ」
ラディッシュは背負ったラミウムごとハンモックに背を向けると、ラミウムをそっと降ろし、横に寝かせた。
まるで介護の様な自身の姿に、
「はぁ~」
ラミウムはため息交じりに青空を見上げ、
「アタシともあろぅモンがさぁ、なんてぇ~情けないナリなんだろぅさぁねぇ……」
哀し気にボヤいたが、ラディッシュはキラキラした笑顔で、
「僕は、ラミィの役に立てて嬉しいけどぉ?」
「ッ!?」
急にプイっと背を向けるラミウム。
向けた背中で、
「ヘタレに気を回されたってぇ嬉しかぁないよぉ!」
不機嫌を返し、
「「…………」」
変わらぬへそ曲がりに、ヤレヤレ笑いを見合わせるラディッシュとパストリス。
ラミウムの顔が「照れで真っ赤」であった事実には気付かずに。
教会関係者や、信仰心の篤い中世の人々が聞いたら、身の危険を感じるほど罵倒されてもおかしくない願いであり、固唾を呑んで応えを待つと、
「良いのぉ?」
むしろラディッシュは微かな難色さえ感じられない笑顔で、
「そうしてもらえると助かるよぉ~外れて落ちたりしたらタイヘンだから」
思いがけず背中を押される形となり、パストリスは嬉しそうに、
「はい!」
さっそくハンモックに取り付いたが、しかし取り付いてはみたものの、思いのほか乗り辛く、
「けっ、結構コツが要るんでぇすねぇ」
悪戦苦闘の末、不格好ながらも「えぃ!」と言う可愛らしい気合と共に、仰向けで無事に収まる事が出来た。
左右に程よく揺れ、
「…………」
青空を見上げるパストリス。
(何かぁ、ふわぁふわぁしててぇ)
かつて経験した事の無い夢心地に、
(気持ちぃいぃいぃ……)
心から和んだ笑顔を見せると、笑顔の中にさえ常に緊張を滲ませていた彼女が「初めて見せた自然な笑顔」に、ラディッシュもつい嬉しくなり、
「気持ちいいでしょ♪」
しかし、
「!」
ハッと、我に返るパストリス。
罪悪感に満ちた表情で慌てて飛び起き、
「すっ、すみませぇん! ボクってばぁ調子に乗ってぇ! 確認するだけって言っておいて長々とぉ!」
「あ、慌てると危ないよぉ!」
心配したラディッシュの制止も聞かず、急いで降りようとして足が絡まり、
「イタッ!」
「!」
顔面から地面に強打。
「だっ、大丈夫、パストリスさぁん?!」
ラミウムを背負ったままのラディッシュが不安げに顔を覗き込んだが、パストリスは平身低頭、
「すみませんすみませぇん! ボクなんかが天世様の寝具に長々とぉ!」
何度も平謝り。
上げた顔に、ギョッとするラディッシュ。
「パストリスさん、鼻血が出てるよぉ! 早く冷やさないと!」
うら若き乙女が顔に負った傷を気遣ったが、
「大丈夫でぇす! 大丈夫でぇす!! こんなのぉ大丈夫でぇすから!!!」
頭を何度も何度も上げ下げ、謝罪を繰り返すばかり。
するとそんな彼女の頭上へ、
『アタシの了見はぁんなに狭かぁ~ないさぁねぇ~』
ヤレヤレ声が降り注ぎ、
「?!」
顔を上げると、ラディッシュの背で目覚めたラミウムが大あくびをしていた。
「ラミウム様……」
申し訳なさげな顔するパストリスに、ラミウムは呆れ笑いを浮かべ、
「はやく鼻血をお拭きぃなぁ。可愛い顔が台無しじゃないかぁい」
彼女なりの優しさに端を発する「皮肉染みた物言い」で気遣ったが、それでも罪悪感を拭う事が出来ないパストリスは萎縮した表情で、
「は……ハイ……」
ハンカチを取り出し、静かに鼻を押さえうつむいた。
パストリスが妖人と分かった時のドロプウォートの反応が物語った、中世の人々の中にある「強い差別意識」と同様に、卑屈とも思えるパストリスの過剰な卑下から感じる通り、妖人側にも違った意味合いでの強い差別意識があった。
それは、身に沁みついているほどの、長く、根深い、差別の歴史の表れであり、未だ自責の念に駆られて沈んだ顔するパストリスにラミウムは、
(仕方ないさぁねぇ~)
呆れ笑うと、とある一計を企て、
「パストぉ」
「はい……」
「いい加減にアタシの事を「様」呼ばわりするのは、およしぃなやね」
「・・・・・・え?」
言われている意味が理解出来ず、フリーズするパストリス。
するとラミウムは、ラディッシュの背から少年の様な笑顔で以て、
「アタシの事を「ラミィ」とお呼びぃなぁ!」
「めぇっ?!」
両目が飛び出そうな驚きのパストリス、
『めめめめめめめめめめめめめめめめめぇ滅相もないでぇすぅ!!!!!!』
恐れおののき一気に数メートルをバック。
間髪入れず笑顔のラディッシュまでもが、
「僕の事も「ラディ」でイイよ♪ 代わりに「パストさん」って、呼んで良いかなぁ?」
「!?」
二人の優しさに触れ、驚きを隠せないと同時に、嬉しく思うパストリスではあったが、
「でも……」
次第に暗く、
「皆さんは天世様で、勇者様で、誓約者様で……ボクなんか盗賊で……妖人…………」
視線を落とすと、ラミウムが怒り交じりにラディッシュの背から半身乗り出し、
『天世のアタシが「イイ」つってんだよォ!』
「!」
過剰なまでの、へりくだりを一喝し、
「四の五のぬかしてると「あの同人」みたいに引ん剥くよォ!」
血相を変えた叱責に、パストリスは叱咤激励と理解、
「はっ、ハァイ!」
返した返事には曇りが無く、表情も一転した晴れやかなモノとなった。
陰りの失せた表情に、
「キッシッシッ♪」
満足気に笑うラミウム。
と、そこまでは良かったのだが、何を思ったのか急に悪い企み顔して、
「なら早速ぅ、アタシをそぅ呼んでみぃなやぁ」
「へぇ?!」
虚を衝かれたキョトン顔に、ラミウムを背負うラディッシュは、
(あぁ~あぁ、ラミィの悪い癖がまた始まったよぉ~)
苦笑したが、当のラミウムはお構いなしに、
「さぁ、何事も練習さぁねぇ」
「いっ、いきなり……今でぇすかぁ?」
躊躇いに、からかい交じりのニヤリ笑いで、
「「れ・ん・しゅ・う」さ。ホレぇ」
するとパストリスは、
「え、えとぉ……」
恥ずかしそうに顔を赤らめ、
「ら、らみぃ……う……」
声は次第に尻つぼみ、
「ふぅひぃいぃ! やっぱりぃ無理でぇえぇぇすぅ!!」
頭を抱え、
『今は「ラミィさん」で許してつかぁ~~~さぁい!!!』
羞恥の緊張からかヘンな言葉遣いなってしまい、上塗りの恥ずかしさから耳まで真っ赤に小さく丸まってしまった。
閉じた貝のようになった少女を、ラディッシュの背からキョトン顔で見下ろすラミウムは、
「アンタぁ、どぉこの出身なんだぁい?」
苦笑い。
「ふぅぬぅうぅ……」
赤面顔を上げられずにいるパストリスの可愛らしさに、満たされたホクホク顔して、
「まぁ、今は、これ位で勘弁してやろうかねぇ?」
一先ず矛を収め、下を向いていたパストリスもほっと胸を撫で下ろし、上目遣いで、
「ありがとうございまぁすでぇす。ラミウムさ、」
言いかけて、
「ッ?!」
ラミウムの豹変したヤンキー張りの「射貫く様な視線」に息を呑み、
「らっ……ラミィ……さん」
窺う様に言い直すと、
「よろしい♪」
ラミウムは笑顔に一転戻り、頷いた。
(ラミィの奔放にも困ったものだよぉ)
小さく呆れ笑うラディッシュ。
その一方で、何にも囚われず、有るがまま振る舞う事が出来る彼女の心持ちを、憧れにも似た想いで羨ましくも思っていた。
彼女の「奔放」の根底にある物が「優しさ」と理解した上で。
「ラミィ♪」
「?」
「寝床籠に降ろすから、気を付けてね」
「あいよぉ」
ラディッシュは背負ったラミウムごとハンモックに背を向けると、ラミウムをそっと降ろし、横に寝かせた。
まるで介護の様な自身の姿に、
「はぁ~」
ラミウムはため息交じりに青空を見上げ、
「アタシともあろぅモンがさぁ、なんてぇ~情けないナリなんだろぅさぁねぇ……」
哀し気にボヤいたが、ラディッシュはキラキラした笑顔で、
「僕は、ラミィの役に立てて嬉しいけどぉ?」
「ッ!?」
急にプイっと背を向けるラミウム。
向けた背中で、
「ヘタレに気を回されたってぇ嬉しかぁないよぉ!」
不機嫌を返し、
「「…………」」
変わらぬへそ曲がりに、ヤレヤレ笑いを見合わせるラディッシュとパストリス。
ラミウムの顔が「照れで真っ赤」であった事実には気付かずに。
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