ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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 逃げ場はなく、武器を手にした大人たちに混じり、頭数を揃える為か、凶器を手にした幼い子供たちの姿までもが見える。
 その中にはドロプウォートから食べ物を貰った「あの子供たち」の姿も。

 幼子たちをも凶行に巻き込む、同胞たちの底を知らぬ愚行に、パストリスは苦悶の表情でうつむき、
「なんてぇ事を……」
 悲嘆の声を漏らすと、ベッドに横たえたままのラミウムが、悩める背中に皮肉交じりの笑みを浮かべ、
「良くも悪くも、子は親の背を見て育つモンさぁね。その上、こんな狭い世界(盗賊村)で、悪事に染まって育ったんだ。事の善悪の判断基準が、親や村人たちと同じになっちまうのも無理からぬ話さぁね」
「そんな……」
 振り返った悲し気な眼差しに、ラミウムは温かな眼差しで、
「アンタを育てた両親が立派だったんだよ。誇りに思いなぁね」
 しかし素直に喜べない状況下、
「はぁい……」
 パストリスが複雑な笑顔を返すと、

『出て来ぉい裏切り者どもぉ、ゴホッゴホッ! 落とし前をつけてぇ、ゴホッゴホッ!』

 外から聞こえて来たのは、怒りに喉がついていけないのか咳き込む、何とも締まらない怒鳴り声。
 声の主は、草刈り鎌を手にした村長。
 人化の影響なのか老化が進み、大剣を手にする事も、叫ぶ事もままならない様子ではあったが、恥の上塗りでしかない物言いに、
「くきゅ!」
 パストリスの堪忍袋の緒が切れ、ラディッシュの制止が間に合わない程の勢いで玄関扉を開け放ち、

「皆さんの心には後悔や反省ぇ! 感謝と言った言葉は無いんでぇすかァ!」
「「「「「「「「「「!」」」」」」」」」」
「ラミウム様はボク達の為にチカラを使い果たして、起き上がる事もままならないんでぇすよォ!」

 良心に訴えかける様に叫ぶと、村長をはじめとする村人たちは、
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 むしろ不敵な薄ら笑いを浮かべ見せ、

「それは好都合じゃな♪」
「なっ!?」

 怒る以上に呆れ果て、言葉を失うパストリス。
 するとドロプウォートが落胆する彼女の傍らに並び立ち、

「恥をお知りなさァい! 醜悪な蛮行を我が子に晒して平気なのですかァ!」

 剣の柄に手を掛け咆哮したが、歪んだ感情に支配され、数的優位を信じて疑わない村長たちは動じた様子も見せずにドロプウォートの諭しを無視し、

「この半端者めぇが!」

 パストリスを睨み、
「天世に勇者や誓約者などと、村に厄介な連中を連れて来おってぇ! こんな事なら国に密告しようとした「父親のカプセラ」ごと始末しておくんだったワイ!」
「え?!」
 驚く姿に、村長たちは愉快そうに笑いだし、
「なんとぉ本当に気が付いておらなんだかぁ! ヒィーヒッヒッ! 後で連れて行く「処刑場の木」にでも訊ねてみるのじゃなぁ!」
「「!」」
 それは村長たちが、パストリスの父親殺害を自白したのに他ならなかった。

 村長たちに強い疑念を抱きつつも、心の何処かで同胞としての良心を信じ、不慮の事故、願わくば存命の可能性を信じていたパストリス。
 しかし、その「か細い信頼」と「一縷の望み」はたった今、儚くも崩れ去った。

 突き付けられた現実と絶望感に苛まれ、うつむき、放心する彼女の痛々しい姿に、他者の手により数々の辛酸を嘗めた経験を持つドロプウォートは、かつての自身の姿を重ね合わせ、

「何と惨い事をしたのですッ!」 

 怒りに打ち震え、

「その方は、共に苦労を重ねた「同志」だったのではないのですかァ!」

 隔たりを感じていたドロプウォートの「心優しき咆哮」に、
(ドロプウォートさん……)
 パストリスは救われた思いで顔を上げたが、

『同志などと、洒落臭いわァい!』
「「な!」」

 村長は魂の叫びを一蹴。
 犯罪と言う名の狂気に取り憑かれ、歪んだ団結をした村人たちの心にも声は届かず、

「さぁ皆の衆ぅ! 村の秘密を守るのじゃ!」
「「「「「「「「「「おぉーーーーーーっ!」」」」」」」」」」

 得物を手にした村人たちは不敵な笑みを浮かべ、一歩、また一歩と歩みを寄せ、
「クッ!」
 ドロプウォートは苦々し気に、剣の柄に手を掛けこそしたが、その心の内では、
(村人たちは今や普通の民の姿ですわ……しかも中には見知った幼子の姿まで。そんな彼らを、私は……私に斬れますの?!)
ためらいを覚えずにはいられなかったが、
(ですが!)
 覚悟をグッと決め、
(斬らなければ、コチラが理不尽に伏する事になってしまいますわァ!)
 剣を鞘からスラリと抜き出し身構えると、
「!」
 触発されたパストリスも、

(ボクも、いつまでも下を向いている場合じゃなぁい!)

 沈んだ心を奮い立たせ、壁に掛けてあった薪割り用の斧を手に身構えた。
 まさに一触即発。

 開戦の火ぶたは、いつ切られておかしくなかった。
 そんな張り詰める空気の中、数的優位を未だ信じて疑わない村長たちは怯む様子も見せずに不快な笑みで口元を歪め、じりっ、じりりっと、取り囲む輪を縮め近づいた。
 彼らは理解していなかったのである。

 自分たちの命が、あと数十歩で終える事を。
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